総括
■グローバル社会の修旅
第2次世界大戦が終結して70年。修学旅行の歴史は「富国強兵」という日本の国策と密接に結びついてきたが、現在の私たちには修学旅行こそ平和な時代・社会の象徴にしなければならない大きな責任と重い使命がある。今回は鹿児島の知覧を訪ね、現在の平和な社会の礎となった方々の思いを生かすことの大切さを身を持って感じた。南九州の各地は、様々な魅力が詰まっている。生徒へ未知への挑戦、冒険を説くのであれば、学校・先生も思い切った決断をしてもらいたいと願う。航空機が当然の交通手段になっているグローバル社会に突入している昨今では、より早い時期に航空機利用を体験させる必要があるのではないだろうか。(全国修学旅行研究協会理事長・岩瀨正司)
■主体性と感動を伴って
多様性を重視した修旅へ向けて修学旅行は、生徒の主体性の育成と感動を伴う学習の深化をめざす教育活動である。変化の著しいこれからの時代にあって、地域(旅行先)や移送手段(交通手段)も、生徒の意識等を踏まえ、多様化が図られるべきであることを、今回の視察の機会を得て、大いに実感させられた。(稲城市立稲城第五中学校長・安達恒三)
■国際的視野を養う地
魅力ある高校教育の推進において、横浜市立高校では日本史の学習を深めると共に、多様な人々との交流等「国際的な視野を身に付ける活動」を進めている。広く世界で活躍する生徒を考えた時、早い時期に航空機を使う経験をさせることは重要であると感じている。また、同世代の特攻隊員の遺書、手紙を通してこれからの自分たちが出来ること、やるべきことを考えさせられる時間を提供する知覧も訪問を検討すべき場所だと思った。(横浜市立戸塚高等学校副校長・安田正恵)
■移動時間の工夫を
各施設の学習素材は、それぞれとても良いものがあると思う。事前学習、実際の見学・体験、事後学習の流れにおいてもイメージができ、中学生の学びには効果が大きい。九州まで行き、熊本・宮崎・鹿児島でしか学べない、感じることのできないものもある。だが、移動時間の長さが課題のため、移動時間ができるだけ少なくなり、費用的にも折り合いのつくプラン・コースを、生徒・保護者に提示していける構想を自分自身も考えたい。(横浜市立南瀬谷中学校・増尾隆)
■ガイドの工夫に感心
雲の切れ間に見える阿蘇・中岳の様子を撮影する参加者 |
お堀、石垣、門、実のなる木を植樹、などの説明がガイドさんから行われた。ガイドさんの説明内容はとても詳しく、中学生に理解できるような内容と、興味のもてるような話し方等、伝える工夫の入ったものでありとても良い。城の骨組みである大木を削り出した柱、貼り付けではない一枚の単板へ描かれた絵、来客の身分に対応し設計された玄関、廊下、部屋などなど、中学生にも興味・関心の高まるような物が数々並ぶ。「昭君之間」が印象的だった。(文京区立第十中学校長・松本心一)
■日本の巧・人物を学ぶ
熊本城は難攻不落と言われたその美しく堂々とした姿に加えて秘密がいっぱい詰まっている名城。ボランティアガイドさんと巡り、その一つ一つの秘密が解き明かされていくのも魅力。豪華なふすま絵も見ごたえがあるが、釘隠しや柱、梁などにも当時の最先端の技術が使用され「これぞ日本の巧の技」と誇らしくも思える。熊本城に関わる人物から歴史をひも解くのもいいだろう。加藤清正公を軸に豊臣家と徳川家の関わりの歴史。西郷隆盛を軸に江戸から明治へと時代の移り変わりに関わる歴史など、興味・感心に応じて学べる。日本の近現代史を肌で感じることが出来る地だ。(練馬区立石神井西中学校長・松丸晴美)
■「活きた火山」を見る
現在、阿蘇山火口まで行くことはできないが、火山の成り立ちについて学ぶことができる。火山の活動状況で行程変更を余儀なくされ影響を受けやすい場所だが、「活きた火山」を見ることが出来る貴重な場所であるだけに、十分な安全対策を施していることの発信をさらに強調していくことが必要だと思った。(全国修学旅行研究協会調査研究部長・石原輝紀)
■探究の基礎・態度を育む
東西18キロメートル南北25キロメートル、周囲約100キロメートル、世界最大級の大きさを誇る阿蘇カルデラの中に、現在も噴煙を上げる中岳をはじめ高岳、烏帽子岳などの中央火口丘群を観察することができる。子供たちは実物を見て触って実感することで、自然の事象・現象に進んで関わり、目的意識を持って観察を行い、科学的に探究する能力の基礎と態度を育てることができる。(横浜市立平戸中学校・大矢哲)
■農業を考える貴重な場
来たきりしま田舎物語推進協議会の富満哲夫会長。 「生駒ファーム」の屋号で様々な農家体験を提供 |
農業に関して知識の少ない子が増える中、土に触れ、作業をし、寝食を共にすることは、農家の方々の苦労を知る貴重な体験になり、大事な食育にもつながるだろう。社会科的に考えると、TPPの影響が懸念されている日本の農業について実態を知り、今後を考える良い機会になるだろう。食料自給率をどう考えていくのか、食の安全をどう確保していくのか、高齢化と後継者不足の現状を変えていけるのか、など難しい問題が山積していることを考えさせる貴重な場所となるのではないか。(目黒区立大鳥中学校長・牛島順子)
■地区が一体の民泊
雄大な霧島連山の麓、のどかな田園風景が広がり自然豊かな地区。「えびの地区」「須木地区」「小林地区」「高原地区」「野尻地区」の農家ごとに少人数で分宿し、農家ごとの特色ある農家体験とともに、必然的にそこの家族との交流もできることで、核家族化かつ都会育ちの子供にとって、貴重な体験学習の場となり得ると感じた。衛生講習会や救命救急講習、緊急搬送方法等、地区が一体となって子供の健康を中心とした管理体制が整っていると感じた。(横浜市立南瀬谷中学校長・細川眞人)
■安心できる民泊
冨満哲夫氏のご自宅に向かったが、車ですれ違うことのできない農道を進むと、なぜか懐かしい思いにさせられる田園風景が目に飛び込んでくる。雄大な霧島連峰を見渡しながら子供の受け入れのために研修を重ねる冨満氏からは、故郷へ対する熱き思いを感じ取ることができた。私たちの乗ったバスが見えなくなるまで手を振り続けてくれた姿が目に焼き付いた。安心して子供たちを任せることができると実感する。(横浜市立宮田中学校・青柳淳)
■今後の農業を考える機会
都会では経験できない自然に親しませ、食育の重要性を生徒に教えるため、また、日本の農業の今後のあり方を若い世代に伝承していくため、各種体験学習を行うことで知識を深めていけるのではないか。生徒たちにとって貴重な体験になると思う。(横浜市立南瀬谷中学校・北川明雄)
■特攻側からの平和教育
鹿児島の近代化の変遷を伝える仙巌園に隣接する尚古集成館 |
70年前の大戦の様子を、見学することによって平和について考える「平和教育」の学習素材として特攻平和会館はとても素晴らしい場所だ。長崎や広島の被爆地としての平和教育は、戦争の被害者としての視点であるが、知覧の場合は加害者として特攻に向かわざるを得なかった当時の悲惨さを、残された家族への手紙から知ることができると思う。また、尚古集成館・仙巌園は世界遺産に登録されたこともあり、多くの見学者が訪れていた。幕末期の最新工業技術を知ることが出来る。(横浜市立松本中学校・鈴木信義)
■家族への思い学ばせたい
平和学習の一環として、特攻平和会館は非常に有意義なものに感じた。中学生とそんなに変わらない年齢の若者が、どのような思いで特攻に向かったのか。平和の大切さだけでなく、家族に対する思い、国に対する思い、現代を生きる生徒たちに学ばせたいことがたくさんある施設である。しっかり事前指導をした上で訪れたい。また、今回は見学できなかったが、知覧には武家屋敷など歴史・文化的な学習機会も多いと思われるので利用価値は高いと感じた。(横浜市立南瀬谷中学校・永野潤)
■近代工業を学ぶ地に
明治の産業革命遺産として世界遺産に認定された集成館は、摩藩の産業育成の貴重な史跡であるとともに、日本の近代的工業の復興を象徴する資料館となっており、修学旅行の一つの目的地とするにはふさわしい場所である。仙巌園内の反射炉跡なども含めた、一連の施設跡も貴重な遺産資料だ。中学生に学術的な興味・関心を求めるには難しいため、工夫が必要だ。(横浜市立万騎が原中学校長・中山善雄)
■郷土愛が世界遺産
鹿児島では、自分の県に誇りを持ち過去を後世にしっかりと伝えようとしていることが伺え、郷土愛をひしひしと感じた。始めはどうしてこれが世界遺産なのかと思ったが、反射炉などの説明を聞くにしたがい理由がわかってきた。政府軍にいろいろと痛めつけられ、歴史上のものが失せたが、日本の近代化は鹿児島からだという誇りを常に失わず、郷土愛を持っていることが案内の方からも伝わってきた。(横浜市立森中学校主幹教諭・内藤豊)
【2016年2月15日号】