本紙9月20日号に引き続き、GIGAスクール構想による1人1台端末と学校図書館の関わりについて考える。帝京大学の鎌田和宏教授は、「総合的な学習(探究)の時間」を通しての情報活用能力の育成、電子図書の導入、学校図書館担当者と情報教育担当者との連携がポイントと話す。
公立の小中学校で、本格的に1人1台端末の活用が始まりました。現場の先生方はGIGAスクールの対応を含め、多くのことを抱えていると思います。ただ、今のタイミングで学校図書館が積極的にこれに関わり、これまでの取組と繋げられることを提示していかないと、GIGAスクール構想の器の中から学校図書館は溢れ出てしまうという、強い危機感を私は持っています。
OECDの2018年PISAのコンピュータ使用型調査では、Web上のテキストを比較しながら考察する「読解力」について調査しています。一方で、学校で読書というとまず文学作品が挙がってくる。先生方が子供たちに勧める本も圧倒的に文学作品が多い。読書と探究型の読解力が繋がっているという認識が、実はあまり浸透していないのです。
学校の先生方を対象とした研修会を行う際に、文学作品と実用書を並べて「どちらが読書だと思いますか」と尋ねると、どこの会場でも、100人中98人位が文学作品に手を挙げます。しかし実際はどちらも同じく大事な読書ですよね。
読書が文学作品に偏り過ぎてしまったのは、かつての学校教育が狭い読書観で教育をしてきた結果であり、教員養成期でも読書指導を徹底してこなかったからと言えます。その点を意識した上で、先生自身の読書観が変わる必要があり、実は先生方の読書離れが一番深刻な問題ではないかとも思っています。
自身の授業や指導をより良くするために教育書を読む、相続や医療費などがきっかけで税金について調べる。本の体裁かどうかは別として、私たちはテキストを読み続けなければなりません。情報や知識を得たり、調べ方が分かっていることは、これからの社会で生きていくために必要なスキルです。
そうした意味で読書の必要性はもっと広く皆に認識されるべきだし、国語だけでなく、全教科の先生方から子供たちへの働きかけが必要です。
情報や知識を得るための読書を必然的なものにするために、探究的な学習や、調べる学習を授業に取り入れていく。それが読書観を変えていくことにも結び付きます。
何か特別なことをするのではなく、学習指導要領の「総合的な学習の時間」「総合的な探究の時間」をよく理解し、真摯に実行していく。学校図書館の活用も明記されています。読書も、調べることも、1時間2時間ではなく長期間継続して取り組むことが、子供たちの実力に繋がっていきます。
小学校の「総合的な学習の時間」の場合、体験学習を中心に展開することが多いのですが、体験だけで終わらせず、体験したことの意味を考えたり、比較したり、直接体験したことをさらに深めていくためには、さまざまな資料を調べていくことが必要です。
探究学習の方法を確立した取組の事例では、茨城県立水戸第二高等学校の「STARTプログラム」があります。大学に進学する生徒が多く、卒業生からは「一人でテーマの設定から発表までを一連の流れで経験でき、大学での学びに大変役に立った」等の報告が多く上がっています。
自分のテーマを持って、何かを突き詰めていく経験がないと、本気で読んだり、書いたりしないものです。ですから単に「本を読みなさい」と言うのではなく、何かのために読む、といった体験を子供たちに持たせてあげたい。
そしてその入り口は、必ずしも紙の本ではなくてもいいと思うのです。
1人1台端末が入り、高速ネットワークが整備されたら、次の段階として電子書籍サービスの導入を先生方に勧めています。電子書籍はまとまりのある、体系的な文章を読むことができますし、読むことに近しくなるよう、子供たちに働きかけるきっかけになります。
これまで学校図書館に来なかった子供にも、1人1台端末があり、そこに学校図書館のWebサイトが繋がっていれば、カバンの中に学校図書館の分館を持つことができます。そうすれば、読書の機会はもっと増えます。
モノには優位性があり、「この本貸してあげる」と勧める方が分かりやすいのは確かです。しかし紙の本に辿り着けず、デジタルなら読めるのであれば、それは否定せずに積極的に使えばいい。「読む体験」を重視して、紙か電子かではなく、どちらからでもアプローチできるようにすることが大切です。世間がGIGA端末の活用に注目しているのであれば、その中に読書機会を増やすチャンスを見つけたいものです。
目指す力を子供たちが身につけるためにも、これからは情報教育担当者と学校図書館担当者が連携協働しながら取り組んでいくことが重要です。情報教育担当者は、ツールの使い方や、環境の構成の方法などについて詳しい。そしてそうしたツールを使いながら質の高い探究を行っていくことは学校図書館担当者の得意分野です。
学校図書館の環境整備として、高速Wi―Fiが他の教室同様に来ているか確認し、子供たちの持つ1人1台端末と同じものを用意し、調べた資料をプリントできるプリンターを設置する、学校図書館のWebサイトを作るなど、学習支援をしやすくする必要があります。学校図書館担当者がICTが苦手でも、情報教育担当者と一緒に取り組むことで、そのノウハウを教えてもらうこともできるでしょう。
ちなみに「情報活用能力」という言葉は、図書館情報学と、教育工学(情報教育、ICT)の分野では、それぞれ重点が異なっています。図書館情報学では、図書資料や新聞、インターネット上の情報、それぞれの特徴を生かした、情報収集の方法や、その正しい扱い方を対象としています。一方、教育工学の分野では、機器やソフトウェアを活かした学び方や、情報モラル等がクローズアップされる傾向にあります。
そうした意味で、横浜市では学校図書館と情報教育がそれぞれ目指すものを上手にクロスさせた体系表「横浜モデル 情報活用能力一覧表」を作成し、2020年3月に公表しました。
また島根県松江市では、学校図書館教育として子供の情報リテラシーを育てる「学び方指導体系表」に、2021年度から新たに新聞や電子メディアの利用が組み込まれました。GIGA端末が入ったことで、電子メディアも含めた統一した内容にできたのです。
鳥取県の『とっとりICT活用ハンドブック』では、ICT機器の活用の中に学校図書館の活用も位置づけられており、「とっとり学校図書館活用教育推進ビジョン」もこれに応じて改訂作業が進められています。
全国各地のそうした動きが実践に結びつき、さらに各地に広がって欲しいと思っています。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年10月18日号掲載