NPO法人学校図書館実践活動研究会(森田盛行理事長)は、デジタルな学びと読解力の関係性を探るべく、2021年度「第1回 子どもの学び研修会(online)」を8月28日にオンラインで開催。広島大学大学院人間社会科学研究科の山元隆春教授を講師に迎え、『AI時代の「読む文化」と子どもの「読解力」』をテーマに講演が行われた。
講師の山元教授は広島大学で国語教育学関係科目や「読書と豊かな人間性」などの講義を担当。現在、全国大学国語教育学会常任理事、日本語読書学会理事・「読書科学」編集委員などを務める。
山元教授によると、今は読書の境界が揺らいでおり、活字メディアである本は、テレビや映画、インターネットなどビジュアル・メディアと深く関わり合っている。映画を見た人が興味を持って、原作の小説を読むなど、活字と映像が相互に影響し合いながら1冊の本を構成していると言える。
「書籍データが電子化されることで1冊の単位も曖昧になる。従来からの“1冊の本を読む”という読書イメージは大きく変わる可能性がある」。
読書行為は、「本に出会う」「本にはまる」「感想を持つ」という流れで進んでいく。しかしそれだけでなく「見つける(自分にとって大切なことを見極める)」「さぐる(物語のしかけをさぐる)」「意味づける(物語を意味づける)」など深い形での「読み」も必要となってくる。この2つの流れを往還しながら段々と「読み」を深めていく。
読書を通じて理解を深めるための方法として次の7つを挙げる。
①「関連づける」自分の知識や体験と読書の内容を結び付ける、②「質問する」読んでいて疑問を感じたことなどを問いかける、③「イメージを描く」読んだ内容から、どのような光景、匂い、音をイメージしたかを挙げていく、④「推測する」書かれた文章から、そこに書かれていないことを推し測る、⑤「大切なところを見極める」理由も含めて、どこが大切かを考える、⑥「解釈する」読んでいて分かった情報を意味づけする、⑦「修正しながら意味を考える」読み直しや、人と話す中で、それまで自分が考えてきたテキストの意味を捉え直す。
本を読んでも意味が理解できない子供に対しては、この7つのうち幾つかを実践し、そこから何が見えてきたかを確かめることが求められる。
ジェラルド・ドーソンの著書『読む文化をハックする』(山元隆春、中井悠加、吉田新一郎/訳、新評論)で取り上げる読書嫌いを生まないための3つの方法を紹介した。
1つ目の「リサーチ・ラリー」は授業のテーマに関連する新聞記事を探すための短い時間を与え、生徒は図書館の新聞やPCを使って調べる。その後、生徒は短いプレゼンを行い、自分が見つけた記事が授業に関連していることをアピールする。
2つ目は「3つの文のブックトークをする」。例えば「この本のあらすじは」「この本を好きな理由、もしくは嫌いな理由は」「この本を誰に薦めたいか」など生徒に3つの質問をして、それぞれ短い1文で発表させる。
3つ目の「抜き書きの壁をつくる」は、生徒が付箋の表に「自分が読んでいる本のタイトル」と「お気に入りのフレーズ」を、裏面には「そのフレーズを選んだ理由」を記入。その付箋を教室の壁に貼ることで教員は生徒の理解を評価することができ、他の生徒も「お勧めの本」を見つけられる。
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講演終了後の質疑応答では「紙とデジタルの共存を、どう捉えるか」という質問があった。山元教授は「デジタルだからこそ、これまで結び付けられなかったもの同士を新たに結び付けられる可能性がある。電子テキストは従来の読む文化を捉え直すきっかけになる。紙とデジタルのそれぞれの強みを活かすことが期待される」と話した。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年9月20日号掲載