新型コロナウイルス感染症拡大防止のための休校を受け、新たな取組を始めた学校は少なくない。「ウィズコロナ時代の学校図書館」後編では、本の貸し出しと並行して、新たに電子図書館を導入した事例を紹介する。立教池袋中学校・高等学校(東京)は、学校図書館の閉館中、高校3年生への郵送による貸出しを皮切りに、オンライン予約の体制も整えた。さらに電子図書館の導入によって、近代文学や海外作品にチャレンジするなど、読書の幅を広げた生徒も現れた。
立教池袋中学校・高等学校(豊田由貴夫校長)は、中学校449名、高等学校439名が在籍する男子校。2月末から休校となる中、「図書資料を貸し出せず、何もできない状況を何とかしたいと考えた」と石田麻保司書教諭は話す。
5月18日から遠隔授業が本格的に開始され、高校生はSurfaceProを活用したオンライン授業で学習を開始。高校3年生は卒論講座も始まり、必要な資料を提供するため、同学年のみを対象に郵送による図書の貸出を開始した。
同校の学校図書館は2000年にOPAC(蔵書検索システム)を導入し、2017からは校外からアクセスできるWebOpacになった。今回はこのWebOpacが力を発揮。生徒は自宅から必要な図書資料を選び、Googleフォームで貸出申請を行なう。Googleフォームは学校図書館が直接生徒からのメール受信をしないようにするために、事務室が協力して用意した。入力項目が明確なため、生徒にとっても申請がスムーズだったようだ。
図書資料の情報内容についての質問も受け付け、資料探しのサポートも行った。貸出時の配送料は学校が負担。返却時の配送料は生徒側の負担とした。
6月13日からは分散登校が開始され、郵送による貸出は6月12日に受付を終了。6月10日からは中学1年~高校3年生を対象にしたオンラインによる予約貸出がスタートした。同校はターミナル駅である池袋に立地し、多くの生徒が電車で通学している。そのため分散登校・短縮授業は8月8日の終業礼拝日まで続いた。学校図書館は授業での活用のみで、休み時間や放課後は閉館、本の貸出はオンライン予約が基本となった。
オンライン予約では、まず生徒がOPAC上で検索・予約。学校図書館は予約された資料を用意し、登校日にクラスの棚に届ける。その際、生徒のプライバシー保護のため、資料は封筒や紙袋に入れる。返却は図書館入り口にある返却ポストで受け付け、返却された本はカートに72時間隔離する。オンライン予約貸出は6月末までに6人の生徒が利用した。
「“新しい生活様式”のひとつとしても、OPACによる資料検索の方法を身につける機会にして欲しい。さらに周知し、より多くの生徒に利用してもらいたい」。
リアルの図書資料の提供だけでなく、デジタルの資料提供にも取り組んだ。5月からはオンラインデータベースに校外からアクセスできるようにした。以前から学習活動に使用していた「JapanKnowledge」「ブリタニカ・オンライン・ジャパン」「朝日けんさくくん」「日経テレコン」について、各企業の計らいにより、特別措置として8月末までの期間限定で校外からも生徒がIDを使えるようにした。
6月6日には電子図書館もオープンした。
「英語の多読や修学旅行のガイドブックなどで活用したいと考え、2、3年前から各社の電子図書館を調べて検討していた。今回の休校を受け、校内ですぐに導入が決定した」。
導入したのはLibrariEで、映画作品の小説版など生徒が手に取りやすいものをはじめ、卒論のテーマ決めに活用できる新書、同校オリジナル「推薦図書」に掲載されている文学作品など、70冊を購入。生徒はスマートフォンやタブレットPC、PCで利用することができる。電車の中や家など、学校の外からの試し読みも可能だ。
図書館だよりでは、電子書籍の全リストやお勧めの本も紹介した。そのうちの1冊『ライオンのおやつ』(小川糸/著、ポプラ社)は、予約人数が常時最大の5人となった。また『レ・ミゼラブル』(ヴィクトル・ユーゴー/著、ゴマブックス)や、太宰治の作品を読む生徒も現れた。石田教諭は「紙の本が古かったり持ち運ぶには重いなど、手に取りにくい面があったが、実は読みたい生徒は多いのではないか」と考えている。アクセス統計を取ることもでき、スマートフォンで読む生徒が多いこともわかった。6月8日~末日まで、電子図書の貸出を利用した生徒は34人。「思った以上に利用者と貸出冊数が多かった」。
電子図書になっていない本も多く、紙の本の方が好き、という生徒もいる。電子図書館と図書資料のオンライン予約の両方で、図書資料の利用を今後も促していきたいとしている。
7月21日からは、授業での学校図書館利用も始まった。中学2・3年生の生徒が選択して受講する「選修教科」のフィールドワークの授業時のみ開館。机1台につき、椅子をこれまでの6脚から2脚に減らし、学習に使用した本は机の上の箱に返却、すぐに書架に戻さないようにする、などの安全対策をとる。開館にあたっては、各教科の教員との連携が必須だ。
学校図書館という「場所」としての利用は制限され、貸出はオンライン予約と教室に届ける形が続く。開館時間や消毒のタイミングなど、学校の方針に従い安全に配慮しながら、生徒の学びを支える取組を行っていく。
7月20日号と本号の「ウィズコロナ時代の学校図書館」では、中高一貫校の取組を紹介した。
小学校の場合はどうだったのか。新年度に実施するオリエンテーションに注目した。稲沢市立大里東小学校(愛知県)の場合、司書教諭・図書館担当教員・図書館司書補(学校司書)の連携により、休校期間中、学校再開後に向けての準備を進めた。オリエンテーションで使用するパワーポイントはコロナ対策を盛り込んだ内容に作り直し、本の貸出を各クラス指定の曜日・時間帯に行う、本に触れる前後の手洗い、貸出カードは教室で書く等の内容を盛り込んだ。
館内では分類サインを遠目でもわかるように大きなものに作り替えた。6月3日以降に順次実施したオリエンテーションの際は、分類は離れたところからの指差しで説明し、手洗いを新しい習慣として取り入れた。「学校再開後の1週間程度は、教員と交代で図書館に張り付き、新しい習慣が定着するように児童に働きかけた」(田中真由美図書館司書補)。
各社が提供する電子図書館の導入も進んだ。日本電子図書館サービス(JDLS)のLibrariE(ライブラリエ)の場合、大学図書館、学校図書館、公共図書館などの導入館が大幅増となり、6月10日時点で200館に到達。学校図書館は8月上旬の時点で68館、そのうち32館が4月以降に導入している。私立が多いが公立でも導入され、校種の割合は小学校1割、中学校と高等学校(中高一貫校を含む)が8~9割。1校につき100~200冊、30~50万円の予算規模が多い。
二俣富士雄社長は「電子図書館の仕組みについてよりも、コンテンツに関する問い合わせが多い」と話す。同社では「岩波文庫」「岩波新書」「岩波ジュニア新書」の特別セット商品の提供や、学校向け推薦電子図書100点パッケージなどの商品展開をする。
自校の教育目的に合わせた図書資料を揃えるため、各社のコンテンツの特色が重視されている。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2020年8月17日号掲載