3月上旬、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、突然の休校となり、地域や学校によっては5月末まで延長された。その間、各地の学校図書館では、さまざまなアプローチで学びを止めない方法を探った。新しい可能性を見出せたことも、困難だったこともある。学校が再開されたいま、各校の取組から、ウィズコロナに向けた学校図書館の創り方を考える。
(後編は8月17日号掲載)
工学院大学附属中学校・高等学校(東京・八王子市、平方邦行校長)では、これまでの実践を生かしつつ、新たにオンライン授業にも取り組んだ。同校の生徒数は中学校259人、高等学校756人で、iPadは中学1年生は入学時に各自で購入し、中学2・3年生は一部貸与、高校生はBYOD(PC)。
2月29日に休校が決定、3月2日から臨時休校に入り、教員も在宅勤務となった。司書教諭で国語科の有山裕美子教諭は、「“教育課程の展開に寄与する”学校図書館として、出来ることはとにかくやってみようと考えた」と話す。休校中の取組を通して、従来から実践していた、“読書に興味を持ってもらう”“ICTの使い方について知る”“情報を提供しその活用を図る”ことについて「オンラインでも普段と大差なく授業ができた」。
有山教諭はこれまでも、学校図書館をベースに情報活用能力の育成に取り組んできた。今年度受け持つのは、中1~3年の「デザイン思考」と、高等学校2年生の国語科現代文だ。
在宅勤務となった有山教諭は3月2日、まずHPを新たに立ち上げ、学びの情報提供として、生徒たちが使えるサイトのリンク集を公開した。休校支援として無償提供されていた、各社の電子書籍や学習支援サービスなどだ。当初15件程度だったリンクは、順次増えていき、現在はカテゴリー分けをして掲載している。
図書館便りも作成し、PDFを教育用SNS「Edmodo」で生徒に配信、HP公開とURLを伝えた。URLはすぐに同校HPトップページにもリンクすることができた。生徒に役立つことであれば柔軟かつ積極的に活用する、管理職の姿勢も後押しした。
次に、以前から利用していたデータベースサイト「JapanKnowledge」や新聞データベースについて、学外からアクセスできるIDを発行してもらい、生徒に配布。また電子図書館「OverDrive」は、例年の新学期と同じく、新たに中学1年生と高校1年生のIDを発行。新入生である中学1年生には、有山教諭から電子図書館の使い方とIDを生徒一人ひとりに配布。Edmodoのプライベートのチャットによる質問も受け付けた。
電子図書館では英語科や国語科の課題に応じて選書・特集コーナーを作成。「はやみねかおる&コナンドイル」コーナーは中2・3年生の国語の読書感想文の課題として提供した。電子図書館は通常の3~5倍のアクセスがあった。リンク集の電子図書と共に、生徒たちの読書量は通常よりも増えたようだ。電子図書のため、通常業務と同様、新刊を購入することもできた。
また手元の写真を使って学校図書館を紹介する動画も作成。新入生への学校図書館ガイダンスを「バーチャルツアー」で実施した。
4月2日、同校で初めて使うZoomについて、教員対象の研修会が開催された。緊急事態宣言も発令され、出勤できない中、4月20日からオンライン授業が始まり、5月からは1日6時間の時間割が組まれた。
有山教諭の受け持つ「デザイン思考」は「総合的な学習の時間」の中で実施する授業で、今年度で6年目。図書資料やICTなどを活用し、著作権や情報収集の仕方、取捨選択などを学びながら、アイデアを形にしていく。動画の制作や雑誌を作るなど、学年ごとに「アウトプット」を行う。
新中学1年生のオンライン「読書会」では、電子図書館や無料の電子図書で読んだ本について生徒が発表を行った。教育用学習支援クラウド「ロイロノート・スクール」を使用し「読書カード」をクラス全体で共有。オンラインでお互いの発表を聞いたり、質問したりした。
他の国語科の教員のオンライン授業では、各自「日記」を提出。電子出版ツール「Romancerクラスルーム」を利用してそれらをまとめ、「中学1年生日記」として電子書籍化した。「入学後、直接会えない同級生たちの日記を匿名ながら読むことができ、親近感が湧いたようだ」。
中学2・3年生の実践では、ロイロノート・スクールで読売新聞のワークシートを配布し、生徒各自で新聞を制作、「STAY HOME」のポスターを作るなど。生徒同士で「このイラストはフリーで使用できるよ」などと情報共有もしながら進めていった。
中学1年生は朝の時間を活用し、読書の時間をZoomで実施。お互いの顔を見ながら読書する。出入り自由で、常時50~60人が参加した。Zoomではレファレンスルームを週1回開設し、調べものの相談やICTツールの使い方もサポートした。
高校生の現代文では、Microsoft Office365の「OneNote」を活用。ページを共有したり、同時に書き込める機能などがあり、授業ノートを積み重ねることができた。
6月22日からは通常登校が開始。特に授業の遅れを感じることなくスタートすることができたという。
一方で「オンライン授業では、生徒同士の学び合いが難しかった。リアルな教室で行われていた学び合いがいかに重要であり、教員もまた、それに助けられてきたことも実感した」と有山教諭は話す。「オンライン、オフライン共に、生徒に有用な情報を集め、提供するという学校図書館の使命は変わらない」。
文部科学省による、4月23日付の事務連絡「休館中の図書館、学校休業中の学校図書館における取組事例」では、「時間を区切っての図書の貸出し」「分散登校日を活用した図書の貸出し」「郵送等による配達貸出し」「学校司書によるおすすめ絵本の紹介など」を示した。
実際には教員も在宅勤務になったり、感染予防の観点から図書の貸出そのものを中止するケースもあった。そうした休校期間中であっても、各地の学校図書館ではさまざまな取組が行われた。
電子図書などを集めたリンク集の作成・活用例としては、作成したリンク集を、学校HPに直接、または「図書館便り」に掲載しそのPDFを学校HPにアップする、といった取組が見られた。ネット上の電子図書館「青空文庫」(https://www.aozora.gr.jp/)は多くの学校で告知されたようだ。電子図書館を新たに導入した、という声もある。
(公社)全国学校図書館協議会(全国SLA)では、休校中の学校図書館にアンケートを実施し、機関誌『学校図書館 速報版』6月1日号で紹介した。「感染拡大防止のための対応策」として寄せられた回答が紹介され、“2人以上で読まない。貸し出しの際は間隔をあけて並ぶ。児童が家から持ってきて返却された本は、書架に戻さず、数日置いてから貸し出す。これらを掲示して周知する”といった声も。他に「図書館運営にかかわることで特に今困っていること」「今だからできることとして、工夫して行っていること」などの項目で回答が寄せられた。(現在アンケート募集は終了)。
また青山学院大学の庭井史絵准教授によるサイト「2020新型コロナウイルス対策下の学校図書館活動」(https://sites.google.com/view/covid19schoollibrary/top)では、「国・地方自治体の情報を通してわかる学校図書館の取組」「学校図書館の取組(学校別)/(活動別)」「学校図書館員の働き方」等カテゴリー別に実践事例などを紹介している。
全国SLAのHPでは特設ページを設け、同協議会による「新型コロナウイルス感染症拡大防止対策下における学校図書館の活動ガイドライン」を作成・掲載。「学校図書館活動における留意点」としてすぐに使えるチェックリスト、「学校図書館活動の工夫」などのほか、国や各団体のガイドラインも掲載している。
https://www.j-sla.or.jp/info-guideline.html
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2020年7月20日号掲載