学習者用端末の1人1台配備が昨年終了している渋谷区教育委員会は今年度、国の事業に加えて教育委員会予算で全小中学校に、学習者用デジタル教科書(+教材)(以下、学習者用デジタル教科書)の検証を依頼している。国語の学習者用デジタル教科書(光村図書)を活用している渋谷区立富谷小学校(博多正勝校長・東京都)5年生の授業を取材した。授業者の佐藤綾花指導教諭は指導教諭3年目で、今年度から学習者用デジタル教科書の活用も含めて年間複数回の授業公開を行っている。同校は文部科学省・国立教育政策研究所教育課程実践検証協力校(国語科)・渋谷区教育委員会研究指定校(国語科)。
5年1組では、ほぼ全ての児童が学習者用デジタル教科書にログインして授業開始を待っていた。接続詞は青囲み、キーワードは赤囲み、筆者の考えは黄色など、規則はあるが、前時の学習内容が書き込まれた児童の画面はそれぞれ異なり、自分のものとして活用している様子がわかる。
この日は、説明文「固有種が教えてくれること」で、全体を「初め・中・終わり」に分け、「例」を見つける学習内容だ。
佐藤指導教諭が学習者用デジタル教科書の文章構成を考えることができるワークを紹介すると、児童は「これすごい」「やりやすい」「1文目が表示できる」とつぶやき、すぐにとりかかった。
情報端末の右画面を教科書画面に、左半分をワーク画面にして考えている児童や、教科書画面上に小ウインドウでワークを表示して書き込む児童、教科書を見ながら端末上に書き込む児童がいる。マイ黒板にキーワードを抜き出している児童や教科書画面を白黒反転させている児童もいた。教科書等の本文を見ずに構成を分類しようとしていた数人の児童については佐藤指導教諭が個別にフォローした。
最初は静かに各自で考えていたが、次第に周囲と話し合いが始まったところで佐藤指導教諭は「共有の時間」をとった。これは、自由に立ち歩いて自分の考えを人に伝えたり、他の人の考えを聞いたりすることで、自分の考えを整理するための時間だ。話し合いを通して気付いたことをデジタル付せんに記入している児童もいる。
全体共有では2種類の分け方について、接続詞や文章中の「例」の記載に注目しながら互いに意見を述べ合い、結論を導いた。児童は、学習者用デジタル教科書の書き込みを保存して授業を終えた。
佐藤指導教諭は、指導者用デジタル教科書はこれまでそれほど使用していなかったという。しかし学習者用デジタル教科書の稼働率は区内でもとりわけ高い。この理由について「1人1台端末活用は子供の権利。これを使った学びをせざるを得ない時代であり、やるならば効果的に進めたいと考えた」と話す。そこで、自由に学習者用デジタル教科書や端末を児童が試す時間を設け、どんな使い方の可能性があるのかを皆で考えた。様々な意見が出、授業に取り入れたところ「デジタル教科書上にサイドラインを主体的に引くようになり、授業への参加率が大幅に変わった。マイ黒板ではキーワードを抜き出すことができるので、考えをまとめやすい。これが効果的な話し合いにつながっている」と話す。話し合う場面はこれまでも取り入れていたが、学習者用デジタル教科書の書き込みを示し、根拠を持って話し合いができる児童が増えた。
「物語文で行う人物相関図のためのスタンプも、複数で試行錯誤しながら考えることができる。学習の導入に使用しやすい資料映像もあり、説明文『固有種が教えてくれること』の資料映像では、筆者である動物学者の今泉忠明氏の『なぜ日本には固有種が多いのか』という問いかけに、児童は興味をもって学習に取り組むことができた」と話した。
学習者用デジタル教科書をこれから活用するという教員へのアドバイスを聞いた。
「学習者用デジタル教科書には様々なツールが豊富。これを、授業の流れに沿って取り入れるためには、教員が慣れる時間があったほうが良い。最初は漢字の練習やワークから始め、次に、ルールを決めてサイドラインを引き、自分の考えを整理しやすくする、次にそれを共有して児童同士が話し合うことができると、ペアやグループの協働作業など様々な活動に広がりやすくなるのでは。使い始めると、慣れるのにそれほど時間はかからなかった。すべてのツールを教員1人で確認するより、児童と一緒に試す方法もお勧めできる」と話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年11月1日号掲載