世田谷区立駒沢中学校(桝田和明校長・東京都)は、2020年10月よりGIGA端末(iPad)の配備を完了し、2021年4月から全学年で理科の学習者用デジタル教科書(+教材)(大日本図書)(以下、学習者用デジタル教科書)の活用を開始している。中学校1・2年生理科の授業を取材した。授業者の内藤理恵指導教諭は今年度から校内の理科教育に関わっており、校内ICT推進プロジェクトのメンバーでもある。
中学校1年生「地震」の単元では、前時の復習として、学習者用デジタル教科書のビデオ映像を全員で視聴。「津波」や「液状化」の様子について、水流が吹き出す排水溝の様子などを一時停止しながら、細部に注目させつつ振り返った。
この日は「地震災害から守るためにどんなことが必要か」について各グループで話し合い、それを発表させた後、緊急地震速報の仕組みについて考え、まず既習内容からワークシートの表にまとめた。
その後、学習者用デジタル教科書の映像を全体で視聴。内藤教諭はポイントを解説。さらに各自の端末で映像を視聴し、緊急地震速報の仕組みや速報の出る判断基準についてわかったこと、疑問点をワークシートの表にまとめた。生徒は、イヤホンを使用せず、字幕機能を利用して視聴。字幕の大きさや配置はそれぞれ異なり、何度も巻き戻して繰り返すなど自分のペースで学習者用デジタル教科書を利用していた。
中学校2年生「消化」の授業では、内藤教諭が、様々な胃薬の成分を示しながら「消化酵素」について解説。その後、生徒は「化学的な消化=消化液と消化酵素」について、各自で学習者用デジタル教科書や資料集を見ながら表にまとめていた。
学習者用デジタル教科書のアニメーションでは、「デンプン」「タンパク質」「脂質」いずれかを選ぶと、それぞれが、唾液や胃、胆のう、すい臓、小腸でどの程度分解されるのかがわかる。該当箇所を拡大して再生している生徒もいる。
アニメーションを見てある程度理解し、さらに詳しく便覧の解説を見て、インターネット検索している生徒もいる。ある生徒は「アニメーションでは、それぞれの流れがわかる。まとめる際は、言葉としてまとまっている便覧の解説の表現を参考にした」と話した。
コロナ不安によりオンラインで受ける生徒は、このクラスは3人。内藤指導教諭はMicrosoftTeamsで接続し、学習者用デジタル教科書の画面も板書も写るようにし、課題のやりとりもしていた。
内藤指導教諭は、指導者用デジタル教科書を8年以上活用している。新たに導入した学習者用デジタル教科書の使い勝手について「自分の理解度に合わせたペースで視聴できる点が良い」と語る。
「それぞれで様々な活用ができる。白黒反転させて視聴する生徒、『めくり』機能でキーワードを隠しながら学ぶ生徒、実験動画を何度も視聴できてうれしい、という生徒もいて、利用の方法はそれぞれ異なっている」
字幕機能については「イヤホンがなくても字幕視聴で利用でき、小さい音声でも字幕で補完できる。音声で理解できる生徒、文字で理解できる生徒がいる。すべてのビデオに字幕があるので利用しやすい」と話す。
他の時間では、授業支援ツールと組み合わせ、ビデオ映像を見て分かったことをカードに記入してオンラインで提出する、ということもした。また、実験の際は、自分たちが行った実験映像と、教科書に掲載されている実験映像を並べて再生し、異なる点を見つけ、その理由を考える様子もあったという。ワークシートにまとめる展開は以前から継続しているが、便覧を見る生徒、学習者用デジタル教科書からまとめる生徒、それぞれ使い分けている様子が見られるそうだ。
生徒用端末は、家庭に持ち帰って充電する運用だ。学習者用デジタル教科書があれば、家庭からもログインできるので、自宅でビデオやアニメーションを確認して学習に役立てているという。「今後は、学習者用デジタル教科書に積極的に書き込みながら学びを深めたい」と語った。
9月の分散登校とオンライン授業の実施で様々なことが一気に進んだ。
Zoomのアカウントは現在3つ配備されており、全校朝会や生徒会朝会など、昨年度から全校集会で活用。オンライン授業は、全員のアカウントが配備されているMicrosoftTeamsで行っている。
オンライン授業実施のため、夏休み中に校内で、教科の枠を超えたICTプロジェクトチームを中心に生徒役、教員役に分かれて様々な方法を試行。校内研修を進め、教員の頑張りで、分散登校のオンライン授業を2学期に行うことができた。
課題もある。特に実技系の科目では、自宅に道具がないため、補習が必要になる。本校ではオンラインを選択した生徒に対しては、定期考査前に補習を行った。
教員用端末が全員分ない点、Wi―Fi環境が特別教室にない点も課題。教員が教室を移動する中学校の場合、全教員分の端末が必要であると感じる。移動式APの稼働率は高く、予約管理を行っている。
課題には様々な工夫で対応しており、今後、オンライン授業の必要性が生じても、いつでも対応できる。慣れることが重要であると感じている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年11月1日号掲載