小学校では平成30年4月から(中学校では平成31年4月から)「特別の教科 道徳」がスタートした。「特別の教科 道徳」のポイントの1つが「自分のこととして受け入れること」「自らの成長を自己評価できること」にある。施設分離型小中連携を進めている佐賀市立松梅校小学部(糸山信康校長・佐賀県)では「デジタル教科書 新しい道徳」(東京書籍)やタブレットPCを1人1台で活用しながら、道徳の教科化に対応した授業づくりに取り組んでいる。6年生の授業を取材した。授業者は遠藤悟教諭。
「新しい道徳」の教材文「タマゾン川」は「多摩川でアマゾン川の魚が見つかった」ことから自然を守ることについて考える教材だ。グッピーやピラニアなど毎年200種類以上を超える外来種が日本に輸入されていること、それが心ない飼い主により多摩川に放たれ、もともとの生態系に影響を与えていることなどが語られている。
児童は電子黒板に提示された「タマゾン川」のイラストや写真を見つめながら、教材文の朗読を真剣に聞いている。これはデジタル教科書の「スライドショー機能」によるものだ。
遠藤教諭は 「外来種を輸入しても良いか、しない方が良いか」などの選択肢を授業支援システムのアンケートフォームを使って用意。児童はタブレット上で選択して答え、それがすぐに電子黒板に集計、表示された。児童10人中、「輸入しない方が良い」が最も多く6人。「輸入しても良い」と回答したのは2人であった。
次に自分の意見を黒板上のマトリックス表に置き、「輸入する」「輸入しない」いずれかについてどの程度強く思っているのかを「見える化」した。その後、児童は「自分の意見の理由」をタブレット上にまとめ、各自の考えを発表していった。
「外来種を観賞したいから迷った」、「放す人は絶対いる。危険な外来種もいるから輸入しない方が良い」などそれぞれの意見を聞き合い、他者の考えを参考にしながら、自分の考えを修正していく。
10人全員の意見が出そろった後、再度「輸入する」「輸入しない」どこの位置に自分の気持ちがあるのかを考えて配置。最初と位置が大きく変わった児童もいる。「輸入しない」から「輸入する」に大きく変わった児童は「珍しい魚を見てみたい。放す人がいるから禁止というのは違うと感じた。最後まで責任を持てば良い」などと述べた。
では、自然を守るために大切なことは何か――児童は「人のことを考える心」「責任感」「ふるさとを考える心」などとタブレット上に端的な言葉で記入。皆の書き込みが電子黒板にすべて出揃ってから、その言葉を選択した理由を発表した。「ふるさとを考える心」と書いた児童は「ふるさとのことを考えれば、生態系を乱すことにつながる行為をしないと思う」と述べ、「責任感」とした児童は「責任を持って飼うことで自然を守ることができる」などと発表。どの児童も書き込む言葉はキーワード化して短く、説明は自分の言葉で具体的に表現している。
最後に遠藤教諭は「皆の発言から、今やこれからを考えて行動することが自然を守ることにつながることがわかるね」と言いながら、今までの校外学習の写真を提示。今年の夏に佐賀県の虹の松原へバス旅行した際の写真だ。「ここも佐賀県だよね、僕らの故郷だね」と、海岸がゴミだらけで皆でゴミ拾いをしたこと、このことをきっかけに、子供夢会議「松梅の未来」について、すべての班が「松梅の自然を守りたい」というテーマになったことを思い出していった。その時の思いを振り返ることで、自らの行為に結び付けて学習内容を振り返ることができたようだ。
遠藤教諭は「道徳の教科化に伴い、多面的で多角的な意見が出やすいように中心発問を考えるようになった」と語る。
「デジタル教科書は4月から活用を始めたが、とても役に立っている。動画や写真が豊富で、導入でひきつけやすく、話題を身近なこととして捉えやすい。議論を焦点化しやすく、振り返って考えやすい。動画をすべて見せずに途中で止めるなど様々な工夫もできる」
授業の冒頭で活用した「スライドショー機能」は内容について考えることに集中できるので、道徳では特に便利であるという。「道徳に向いた機能であると感じる」と話す。
この日、児童の校外学習の際の写真を使って自分たちの行動を振り返ったように、道徳では最後に必ず自分たちの生活を見つめ直せるようにしているという。
どの児童も書き込む言葉はキーワード化して短く表現し、説明は自分の言葉で具体的に表現している点が印象的であったが、これについては「すべての教科で、意見は端的に、それについて自分の言葉で説明するように指導している」と話した。
本校では全職員が電子黒板やデジタル教科書をほぼ毎時間活用している。小規模校なので、タブレットPCも1人1台環境で活用できることから、全員の意見を一覧したり、すべての児童がその時間の中で発言し合ったりなどができる。
小規模校の児童は心情的に優しすぎる面や変化に弱い面もある。そこで今後は中・大規模校の児童と遠隔で合同授業をしていくことも視野に入れている。
横断的に学びを深めることに道徳の意味がある。今後は道徳で学ぶ内容を学校行事と関係付けるなどして、さらに、日常の問題、個としての問題として捉えるようにしていきたい。評価については今後の課題だが、自己評価、他者評価、教員の評価、保護者の評価など、それぞれをバランスよく加味しながら適切な評価の在り方を模索したい。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年3月4日号掲載