連載 教育ICTデザインに想いを込める

【第6回】これからの教育環境デザイン<日本デジタル教科書学会>

1人1台時代に求められる学習環境をデザインする

坂上氏は豪州よりテレビ会議で参加
坂上氏は豪州より、テレビ会議で参加

日本デジタル教科書学会の2015年度年次大会で行われたパネルディカッション「これからの学習環境デザイン」では1人1台の情報端末の整備を見据えた学習環境デザインについて率直な議論が展開された。(パネリスト=(株)エデュテクノロジー代表阪上吉宏氏、(株)NEL&M代表田中康平氏、コーディネーター=徳島文理大学准教授林向達氏)

ICT環境への関心高まる

田中 佐賀県の県立高校では2014年度より全ての入学生が5万円を負担して学習者用PCを利用しており、今年度で2年目だ。これにより何が起きたか。

以前は、情報端末やICT環境に関心を持つのは一部の整備担当者や一部の教員などに限られていた。今どうなっているか。

当然、購入費を負担した保護者の関心は高まる。生徒全員が端末を持っているため、教員もその存在を意識する。多額の予算を投じたために、議会や首長の意識も向けられる。従来とは比較にならないほどの関心が寄せられている。保護者の負担額以上に必要だった費用は県の予算で賄っているため、エビデンスも求められる。

そこで問われるのは、大多数が納得できるようなビジョンが示されているかどうか。ICT環境の良し悪しも問われる。使いやすいものは残り、そうではないものは淘汰されるだろう。パソコン教室の延長上で考えていては難しい。活用法や求められるシステムも変わる。常に活用する端末とそれを生かすICT環境をデザインするには、これまでの経験や常識を疑い、フラットな視点で検討することが重要だ。

カリキュラムのコーディネータ必要

阪上 ICT環境整備でリーダーシップを発揮できる人材は、自治体や学校によってバラツキがあり、その全てがうまく機能しているとは言い切れないことがある。

海外では、学校にICTを導入する際に2種の人材が重要な役割を担っている。

一つは「ICTに特化したコーディネーター」だ。教員とエンジニアとの間に立つ人材で、自治体や学校に在籍している。もう一つが「カリキュラムコーディネーター」だ。教科横断的な学習を構成する際に必要とされる。求める能力観の変化に対応するためにカリキュラム変更が日常的に起こる場合、コーディネーターがその調整役を担う。それに応じてICT環境も変化するため、この2つの人材へのニーズが高い。ICT環境の整備において人材は大切な資産だ。

しかし、それを生かすためにも「目的」「ビジョン」が明確なことが最も重要だ。

海外の1人1台の歴史は国内よりも古く、失敗例も多い。ビジョンがなく整備が目的化していたり、学習計画が用意されていなかったり、国内でも起こり得る失敗例がある。

欧米では、失敗を改善の糧と捉えてうまく活用している印象だ。

国内でもそのような視点が持てると良いのではないか。

学界を通して究成果を共有

 学校教育において、1985年からコンピュータの整備計画が始まり、30年が経過しようとしている。その間、様々な取組がなされてきたが、課題も多い点は共通認識されているのではないか。
1人1台とまではいかずとも、学校にICT環境が整備されると、その維持管理のために教員の負担を強いる現状もある。この点についても検討し、改善していかなければならない。 

学習環境を「デザインする」という視点で捉えた場合、「デザインできる人材」を支えるために、研究成果を学会を通して共有することも重要だ。

過去に学び未来に活かすという考え方を持ちながら、これから先の学習環境デザインに取り組んでいくことが求められている。

 

【2015年9月7日】

 

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