連載 教育ICTデザインに想いを込める

【第7回】1人1台に求められる視点<教育情報化コーディネーター 田中康平氏>

ビジョンを共通理解して不要なものをそぎ落とす

田中康平氏
教育情報化コーディネーター田中康平氏

本連載で取り上げてきた学校を始め、多くの現場がタブレット端末等を導入している。その先には「1人1台の学習者用端末」の活用がイメージされていることが多い。国内でもいち早く学習者用端末を導入した佐賀県を拠点に活動している教育情報化コーディネータの田中康平氏に、1人1台を見据えたICT環境を整備していく上でどのようなことが求められているのかについて聞いた。

ビジョンと透明性

学習者用端末を整備した現場では「どう活用したらよいか悩むことがある」「効果的な活用法を教えて欲しい」といった声を耳にすることがある。タブレットPCなどの情報端末や関連するシステムを導入する場合、その多くは入札による調達だ。基本的な構成は前年度に検討して予算要求される。導入後も活用し続けられる環境やサポート体制などを仔細に検討しておかなければ、思う様に活用されないという事態にも陥る。

1人1台という大規模な整備では、モデル校での実証を経て普及させていくことが多い。当初の事業目標の到達度などを点検し、基本設計を調整してより良い環境を追求する姿勢は必要だ。

事業規模が大きくなるほど、関係先や関係者が増える。全体で共通理解できる「ビジョン」と透明性の高い議論が一層求められていると感じる。

特に、課題についてはオープンな議論と速やかな改善策の検討・対応が求められている。

足し算と引き算

タブレットPCなどの数に比例して、管理やメンテナンス、日々のトラブル対応の数も増えるものだ。それに対応するために足し算の整備になりがちだが、引き算、特に学校現場の負担を軽減するような施策と併せて推進することの必要を感じている。

具体的には、教育現場において授業法や学習法を補い広げるような情報端末の活用を支えるICT環境を想定し、不要なものはそぎ落す視点だ。そのためには実際に子供達が学習する様子を観た上での検討が必要だ。

タブレットやスマホの得手不得手を見極める

タブレットPCの大きな利点は携帯性だ。携帯性を生かし、インターネットの常時接続などにより学習機会の多様性を提供することができる。普通教室や特別教室や体育館、校外学習の出先でも容易に持ち運びや自宅への持ち帰りも可能だ。

茨城県古河市のように、携帯電話回線を活用した情報端末の活用も始まっており、今後このような事例は増えていきそうだ。

学習者から学ぶ

スマートフォン等を日常的に活用している世代にとって情報端末を活用した学習をどう捉えているのか。学習者から学ぶ姿勢も持ち合わせておきたい。不得手な部分を掴み、情報活用能力を全般的に向上させる指導を補助するICT環境としたい。タブレットPCやスマートフォンは長文の入力・推敲、画像・動画の高度な編集などは難しい。従来型のPC教室の有用性が先進校の教員により改めて指摘されている。導入前の段階で整理しておきたい部分だ。

教員の情報活用能力

児童生徒のより良い活用のためには、教員の情報活用能力の向上は欠かせない。

墨田区や菊川市のように自治体が教員1人1台のタブレットPCを整備する事例も出てきている。佐賀市立若楠小学校では、教員の情報活用能力の向上を研究している。教員が常に活用できる環境では、自由なアイデアを教材作成や授業に生かすことも容易になる。情報端末を活用するメリットやデメリットの体験にもつながる。

個々の経験を共有しながら、体験的、体系的に教員全体の情報活用能力を向上させる。その上で児童・生徒の1人1台のICT環境整備に繋げていくことも効果的だ。

 

【2015年10月5日】

 

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