弊紙調査(参照)によると、タブレット端末を活用した検証が各自治体に拡がっている。全校導入を前提とした検証を成功につなげるためには、どうすれば良いのか。検証が進むにつれて、「失敗が許されない」雰囲気が生まれてくることが危惧される。しかし成功につながる失敗もある。成功につながるか否かは、目的が明確かどうかにあるのではないか。現在文部科学省では、昨年度終了した「学びのイノベーション事業」で開発された指導方法のさらなる改善と普及を目的に、「ICTを活用した教育の推進に関する懇談会」を開催、議論を重ねている。そのメンバーの1人である市川伸一・東京大学大学院教授は、「ICTが有効・不可欠とされるのは、探求的な学習においてである」と話す。また、堺市教育委員会では、一斉授業の支援を目的に全小学校全教室に教員用タブレット端末を配備した。日野市立平山小学校では、一斉学習や個別学習の充実から始まり、協働学習の可能性の検証へと段階を経て取り組んでいる。
日野市立平山小学校(東京都・五十嵐俊子校長)のICT活用は長期にわたっており、平成23年には総務省「ICT絆プロジェクト」校として児童用タブレット端末を整備。先行実践校として、安定した成果を上げている。そのポイントは、段階を経た取り組みと目的を明確にした教員研修や公開研究会の実施、それを支える学校環境整備にありそうだ。
日野市立平山小学校では平成23年度より、公開研究会を13回行ってきた。同校の公開研究会には、全国から教育関係者が集まる。これまでに、全国47都道府県のうち42都道府県からの参加があり、2月に行った公開研究会には200名以上が集まったという。公開研究会の参加者からは「協働的な学びが自律的学びの保証につながると感じた」「新たな学びにはICTが不可欠なツールとなることを感じた」という声が届く。
五十嵐校長は「日野市だから、平山小だから実現できるのでしょう、と言われることがあります。でも、そうではないんです。複数の初任者を迎えることに加えて、教員も入れ替わるので、毎年4月は一からのスタートです」と話す。
同校が目指す授業を転入教員に浸透させるため、新年度早々行うことは、公開授業を伴う市の転入者研修だ。五十嵐校長は、「目指すゴールを共通理解し、可能性を感じてもらうことが継続の秘訣。それには本校の授業を見てもらうのが一番。100の議論より1の実行です」と話す。
以後は校内のOJTを徹底。校内の全教員が講師役となり体験授業を実施する市の「夏の研修会」や、定期的に実施する「公開研究会」も成果発表の場として良い刺激になっているようだ。
同校では、電子黒板や書画カメラ、学習者用タブレット端末など機器のほか、個別学習支援システム、デジタル教科書や協働学習支援ツール、シンキングツールなども取り入れている。
五十嵐校長は「ICTを活用した『一斉学習』『個別学習』『協働学習』には様々なバリエーションがある。たとえば『協働学習』では、他校や専門家との交流、校外活動での情報収集、発表・討論、グループでの意見の分類・再構築、協働制作、ソーシャルリーディングなど、実践するごとにICTを活用した学びの膨らみや可能性の拡がりを感じる」と話す。
同校では平成23年、総務省のICT絆プロジェクトにより、児童1人1台の情報端末も配備。特別支援学級を始めとして全学級で活用を進めており、平成25年度からは、「学びを深める」段階として取り組んでいる。
校内だけでなく市内外の学校との協働学習も実践。「自分の学校の取り組みを紹介することで、他校を意識し、言葉遣いが丁寧になる、改めて自校のよさが分かる、他校とのコミュニケーションが図られ、校内でのコミュニケーションも一層活発になるといった効果を感じた」という。児童も、「普段はあまり発言しない友達の考えもわかる。みんなの考えを知ることが楽しい」「自分の考えに友達からたくさんコメントをもらえることが楽しいし、ためになる」と考えている。
ICTを活用した授業で最も楽しいことについては、「算数の個別学習。他の教科でも同様の学習をやりたい」という児童が多いそうで、個別学習の充実による基礎学力の定着もまた成功の要素の一つといえそうだ。
平山小学校では、ICT活用による教育効果のエビデンスを示すため、毎年、標準学力検査の経年変化を分析。授業改善に役立てている。
昨年度は、読む・書く力(国語)、数学的思考力の向上に向け、協働学習支援ツールを積極的に活用。国語では4〜6学年それぞれにおいて「読む」力、「書く」力が向上したという。
全国学力・学習状況調査では、特に国語Bの得点率が群を抜いて高かった。質問紙調査では、昨年度に比較して全体的に意欲の高まりが見られており、同校の協働的な学びの実践の成果が数値としても証明されている。
日野市における「教育の情報化」は、市長の英断のもと、平成18年度から始まった。市内全校で学校経営重点計画の共通項目の一つに「ICT活用教育」を掲げ、授業の充実、校務の情報化、学校Webサイトでの情報発信などに取り組んだ。日野市のメディアコーディネータ制度は今でいうICT支援員の先駆け。学校支援を徹底し、軌道にのるまでに3年間を要したという。管理職のICT研修も平成18年度から継続しており、昨年度はタブレット端末を活用した協働学習の体験も盛り込まれている。
当初は、ICTの授業活用がメインであった。活用によって何が有用で何が起こるのかを、失敗込みで教員自らが体験する。この時期は、ICT活用による「焦点化」「視覚化」「共有化」が中心であった。この2月に行われた公開研で、平山小学校の現在の授業を見た同校の元教員は「私がいた頃はどのようにICT機器を活かして授業を行うか、という議論が多く、失敗を重ねながら成功体験を味わうことで多くを学んだ。今は、教育の本質の議論が主流。新しい学びの実現を支援する使い方になっている」と述べている。
ICT活用本来の目的は「児童生徒の学びを深めていくこと」「授業改善」であり、最初にその議論を行うことは必要だが、日野市及び平山小学校の実践から、一つひとつ段階を追っていくからこそ実現できる、という面も無視できないことが分かる。同校の今年度の公開研究会は11月8日に実施される。
【2014年6月2日】
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