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英語教育とグローバル人材育成
セミナー「英語教育をいかに成功させ、
グローバル社会で活躍できる人材を育成するか」

 グローバル化する社会の中、グローバルに活躍できる人材の育成は喫緊の課題。教育家庭新聞社では、セミナー「英語教育をいかに成功させ、グローバル社会で活躍できる人材を育成するか」を11月26日に開催、英語を自在に運用し、グローバルに活躍できる教育の実践で注目される高校・大学に講演していただいた。

立命館アジア太平洋大学

大元外国語高等学校(韓国)

国際教養大学

加藤学園暁秀高等学校・中学校

茗溪学園中学校・高等学校


立命館アジア太平洋大学

寮「APハウス」で濃密な体験 多文化適応力、共感力を育む

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▲ 国際経営学部長
横山 研冶 氏

学生の47%占める留学生

  立命館アジア太平洋大学(APU)は2000年に大分県別府市に開学。2010年5月時点で、98か国・地域から国際学生約2900人と国内学生約3300人が学ぶ。同大では海外からの留学生を国際学生、日本国籍及び日本に定住・永住する在日外国人の学生を国内学生と呼び、国際性豊かなキャンパスを作り上げている。以下、横山研治・国際経営学部長の講演要旨。

国境のない大学目指す

  本学は10年前に国際教養を学ぶアジア太平洋学部と国際経営を学ぶアジア太平洋マネジメント学部(2009年に国際経営学部に名称変更)の2学部で開学した。
 開学当初から約50か国・地域から国際学生が集まり、世界的な経済不況の影響もあるが、現在までに123か国・地域から学生を受け入れている。
 国際経営学部では当初から実学志向の強い国際学生の数が国内学生を上回り、現在は国内学生と国際学生の比率は35対65になっている。
 その結果、授業の中で国内・国際の違いを意識することは自然となくなった。

日英二言語教育

  開学当初からある程度学生を集められたのは日英二言語教育を導入したからである。1・2年生では、同じ科目が日本語と英語でそれぞれ開講されている。国際学生は英語で専門科目を受講しながら日本語を集中的に勉強していく。国内学生は反対に日本語で専門科目を受講しながら英語を集中的に勉強する。
 3年生になるまでに、英語、日本語、どちらの言語でも授業を受けられるレベルまで向上させる。
 これまで日本の大学の留学生は本国で日本語を勉強している者が対象だった。しかし、海外で第二言語として日本語を勉強している者はわずかであり、多くの者は日本に来てから日本語学校で日本語を1年半ほど勉強してから大学に入学するのが実情だった。
 しかし、日英二言語教育により、世界の多くの高校生にとってはじめて日本が留学の対象になった。英語ができれば日本の大学に入り学部教育が受けられることになった。

「実質留学」の進展

  2006年頃から国際学生の反応がとてもよくなり、毎年志願者数が1・2倍、1・3倍、1・5倍と増えていった。この理由の一つは就職の実績。社会情勢の変化により、日本の習慣を理解する国際学生の採用ニーズが高まり、大手電機メーカーや大手商社に国際学生が採用されていった。
そうなると、国際学生の兄弟、親族なども就職に有利なことを聞いて入学してくるなど良い循環を起こしている。これまでアメリカやイギリスなどでアジアの留学生が経験していたような箔付け留学ではない「実質留学」になっている。

国際学生が教えてくれること

  2006年に本学キャンパスを訪ねられた当時の二階俊博経済産業省大臣は優秀なアジアの人材を集める日本版フルブライト「アジア人財資金」構想を立ち上げたが、当時はまだグローバル人材という見方ではなく、「ブリッジ人材」という捉え方が強かった。アジアの留学生を日本で就労させて日本と留学生の祖国のブリッジ人材として使うというのが当初経済産業省が考えた国際人材の育成だった。
 しかし、ここ1年半ほどの間に、日本企業の国際的な競争力が低下し、日本の若者の頼りなさが指摘される中、国際人材を採用して国際的な展開を担わせる、日本人学生にも海外で活躍させるというグローバル人材の採用・活用が叫ばれるようになってきた。

  さて、私は本学に2000年3月から奉職しているが、本学に骨を埋める、といつの間にか思うようになっている。学生たちと同じ場にいることに無上の喜びを感じるようになっている。なぜ、そうなったのか。ある時、150人の学生を前に国際貿易論の授業を行っていた時、「今日は僕の誕生日だ」とジョークを交えていうと国際学生150人全員が立ってハッピーバースディを大声で歌ってくれた。それを聞いて感動し涙が出た。
また、レポートについて。通常、大学では課題を出し、学生にレポートを書かせるだけなのが一般的だ。しかし、本学ではそれは通用しない。

  ある時、評価を付けてレポートを返すと50数人の学生が私を取り囲んだ。「なぜ、私はAなのか、○○はA+なのに。コメントを書いていないではないか。フィードバックがされていない」という。その時、私はそれが世界のスタンダードなのだな、と気づいた。学生に課題を出し「勉強しなさい」と言うことは、教員がそれだけの負荷を受け持つということだ。
国内学生も別府にある本学を自ら選び入学してくる。とても意欲的で本学の様々な国際的な活動で中心的に働き、国際学生を取りまとめている。

イノベーションを生む土壌

  APUでは数多くの新しいことをしてきた。それを振り返ってまとめると、「多文化適応能力」「共感力」「言語運用能力」の3つの能力を育成してきた。
国際理解というとどうしても知的な理解が考えられるが、本学の寮「APハウス」では約1300人の学生が共同生活をし、国際学生は1年次に必ず寮に入る。寮に入っている日本人のうち約200人は国際学生と1つの部屋を仕切ってシェアする。
 そういう部屋に日本人と韓国人の女子学生が住んでいる。例えば竹島問題では互いの国の利害を代表して相手を論難しあう激しい議論をする。サッカー、野球、本当によく議論している。しかし、夜寝るときは常にどちらかのベッドで手をつないで寝るほど仲がいい。
 こうした短期間でも濃密な何かをシェアする経験、同じ部屋で食べ物をシェアする、喜怒哀楽をシェアする、そういう生活の中から相手を思いやる力、共感力が生まれてくる。これは濃密な経験をしなければ分からない。

  私たちの行っている人材育成教育により何が期待できるのか。(多文化出身者同士が英語と日本語を共通言語に生活を送ることで)多くの選択肢の中から何かを選んで提供できる人材になっている。これはイノベーションそのもの。このイノベーションとは全く新しいものを作り出すことではなく、今まであるものを新しく組み合わせ提供する力である。そういう新しい組み合わせができるのはこうした共感力を持った人材こそができるのではないか。
 さて、人材育成というのはとても大きな言葉だが、少子化のなか、一人ひとりが経済発展の核になる人間を育成しなければならない。グローバル化する世界の中で企業は国際的な展開をしなければ生きていけない。そこで期待される人材としてグローバル人材が注目されている。
http://www.apumate.net/index.html

大元外国語高等学校(韓国)

米国大学へ多数留学 少人数制で3カ国語修得

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▲ 進路指導部長
エリック・チョー氏

 大元外国語高等学校は、韓国最大の企業サムスンの元重役リー・フォンヘ氏により韓国初の外国語専門高校として1984年設立。韓国の大学入学資格試験の平均点は11年間国内1位、SATの平均点は世界で1位。最難関公立大であるソウル国立大、延世大、韓国大への入学率は国内トップを誇る。以下、進路指導部長エリック・チョー教諭の要旨。

英語中心のカリキュラム作り

  生徒は韓国全土から集まり、その半分は帰国子女が占める。入学試験は英語と第3言語(ドイツ語、スペイン語、フランス語、日本語、中国語から選択)の二外国語のみ。1学年12クラス、1クラス35名の構成。第3言語によりクラス分けされており、さらに卒業後アメリカの大学入学を目指す生徒のためのGLP(Global Leadership Program)コースが加わる。
  2010年には102名がGLPコースを終了し、主にアメリカの有名大学を中心に希望の大学に入学した。
 3年間英語中心の授業カリキュラムで1年次は週に5時間英語、3時間選択言語に当てられ、2年次から6時間英語と選択言語、3年次は8時間英語、7時間選択言語を履修する。GLPコースの生徒は、放課後からさらに週6時間英作文と英文学、2時間のクリティカルリーディングとスピーチ&ディベートの授業を受ける。GLPは1クラス25人の少人数制で、米国の有名大卒のアメリカ人教諭10人が担当する。

高い教師の質、生徒の意欲

  本校が進学校として韓国でトップレベルを保っているのは、本校にくれば将来の成功が約束されるという生徒の信頼が強いから。教員の質も高く、高給で待遇、勤務日数も少なく、指導法も任せている。
本校の優秀な男子生徒であったソン・ユウジン君は、小学校ですでにTOEFL満点、中学でSAT満点、GLPコース在学中にコロンビア大とプリンストン大に合格し、現在プリンストン大に在学。女子生徒のリー・ソンミンさんは高校在学中にTOEFLとSAT満点を達成。GLPコースからMITとプリンストン、スタンフォードに合格し、現在スタンフォード大に通っている。

国際教養大学

全学生に留学義務付け 夜通し図書館で勉強する姿も

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▲ 副学長
町田 大輔氏

  国際教養大学は2004年秋田市に創立、全科目を英語で学び、世界トップレベルの提携大学へ1年間留学を義務付けるなど新機軸を打ち出す。卒業生の就職率100%という成果が各界から注目を浴びている。以下、町田大輔副学長の講演要旨。

日本の英語力の現状

  日本の英語力は近年のTOEFL受験者のスコアや社員の語学力に関する国際比較調査で下位にある。
この原因として、日本人の音の聞き分け能力の低下、相手を前に文法の間違いを怖がりはっきり発言する勇気が足りない点などが考えられる。そして何より学習時間が少ない。週4時間英語の授業があるとすると、中高6年間で840時間になるが、ある調査によると英語は2000時間学ばないと通常のコミュニケーションが取れるレベルにはならないという。

使える英語力を養成

  本学はすべての授業を英語で行っている。入学後、学生はクラス分けテストを受け、三つのレベルにあった英語集中講座EAP(English for Academic Purposes)を受ける。具体的にはTOEFLの点数で進級が管理され、500点を取るまでこの講座は修了できず、修了した後も550点に達するまで海外留学許可が下りない。授業の発言も英語、大量の宿題も英語、さらに1年生は寮生活が義務付けられ、外国人留学生とルームシェアし一日中英語に囲まれる。
 24時間365日開館の図書館がハードな学習を支えている。極端なケースでは、夜中勉強中に寝入り、図書館から朝の講義に出る学生も時々いるようだ。全学生に留学を義務付け、卒業に必要な124単位のうち30単位を留学中に取得することを目指す。

  国際教養を身につけた人材の育成が教育目標で、それを得るための探求方法として、人文科学的視点、社会科学的視点、経験的方法、量的論証などの視点を大切にするが、中でも批判的思考力を最重要視している。
学生はグローバル・ビジネス課程、グローバル・スタディズ課程のいずれかの専攻を選び、留学後も専門教養教育を通して変化激しい社会を生きていく上で適切な判断を下せる広い視野を身につける。卒業した学生は、グローバル社会で活躍しうる人材となっている。

茗溪学園中学校・高等学校

「世界的日本人」を創る 卒業生も海外でも活躍

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▲ 柴田淳校長
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▲ 松崎秀彰教諭

  茗溪学園は国際的研究都市つくばに住む子どもたちの教育、帰国子女の受け入れ校として1979年に創立。当初から国際社会を意識し、建学の理念に「世界的日本人」を創ることを掲げる。以下は柴田淳校長と松崎秀彰英語科主任教諭による講演要旨。

海外とのつながりを意識

 開学当初から世界に目を向ける生徒も多く、2000年前後の多い時期では年間10名以上が留学し、UWCを通じた奨学生海外派遣の数も多かった。現在は留学する生徒数は減少傾向にあるものの、30周年記念事業によるイギリスとニュージーランドの学校との短期交換留学制度創設(SOSEP事業)をはじめとして生徒たちが海外とのつながりを持てる様々なプログラムを準備している。また、帰国生徒向けの特別英語授業も設置しており、海外の現地校の小学校・中学校出身の生徒たちも入学、多くの卒業生も海外でも活躍している。

多彩な英語行事

  本校の生徒は「英語が好き」という生徒が卒業時7割を超す。中学生には「英語を使う」楽しさを、高校生には「英語が分かる」楽しさを、という方針で授業を行っている。
 各学年で英語の行事を行い、これらの行事を通して「語学力」、「理想実現力」、「Social Skills」の3つの力を養う中で、世界で活躍する際にも通用する国際人としての素養をつけて欲しいと願っている。卒業生にも多彩な人材がおり、多様な分野・場所で活躍している。

  具体的な行事として中1、2で英語劇を実施し、中3では「Cross Cultural Talk」と題し、JICAから36名ほどの研修員を招待、7〜8名のグループで互いの文化の説明や質問を行う。この交流がきっかけで留学を決意する生徒もいる。
高1では暗唱大会を行い、ケネディー大統領就任演説、キング牧師演説などから一つ選び、洗練された英語を体に染みこませるように覚え、声や視線、体の使い方も意識して独自のスピーチに仕上げ、発表を行う。高2では海外研修で進路にも関わるテーマについて訪問を行ったりする中で多くの人と触れ合い、実際の世界を目の当たりにして英語学習の動機づけにもなっている。

【2011年1月1日号】


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