児童生徒の読書の幅を広げるための活動は数多くある。「ブックトーク」もその1つ。あるテーマに沿って数冊の本を関連づけながら紹介していく読書指導で、次期学習指導要領で求められる「主体的・対話的で深い学び」としても取り入れたい活動だ。今回本紙では全国の小学校〜高校の学校図書館担当者の協力を得て、ブックトークの実施状況を調査。国語の授業で実施するケースが多いこと、「ハードルが高い活動」と受け止められていることなどが分かった。
ブックトークの実施の有無にかかわらず、回答した全ての学校から「ぜひ実施したい」「教育的効果について知りたい」「実践事例が知りたい」といった積極的な意見が寄せられた。一方で実践していない学校からは「実践する人がいない」「方法がわからない」といった声も。
ブックトークを実践している横浜市立駒岡小学校の岩元カオリ司書教諭によると、読書の幅を広げるだけでなく、児童の「自ら読む」意欲を高める教育的効果があり、一冊の本を通して読む「読み聞かせ」よりも気軽に取り組める面もあるという。ブックトークは学習のねらいに沿って短い時間で数冊の本が紹介できるメリットがある。テーマを切り口に発想を拡げたり、多様なものの見方を知り、複数の本を関連づけることで知識の再構築にも繋がる。
そこで本特集では、岩元司書教諭の実践を紹介しながら考えてみたい。
ブックトーク 実践の流れ
★「『ブックトーク』という言葉が平易な英語でできているため、一冊の本を紹介することがブックトーク、と誤解されているケースが意外と多い」と岩元カオリ司書教諭。「テーマに沿って少なくとも3冊、同一類別でない本を紹介する、と考えています。学習活動として行う場合、指導したい内容に沿って学習効果が高まるように設定します」。
寄せられた回答では、ブックトークを実践する人は、担任・司書教諭・学校司書・ボランティア、学校長など。中学校・高校では生徒が実施しているケースもある。
国語の授業内の実践がもっとも多く、実施している学校の6割。次いで「朝の読書」が多かった。教科では「生活・総合」「すべての教科」、他に「図書委員会の活動」「図書まつり」でも行われている。頻度は「学期に1回」が最も多かった。
駒岡小学校の場合、学期に1回程度行っている。4月の学校図書館オリエンテーションのほか、各担任の要望があれば随時実施。岩元司書教諭は「国語以外の教科学習の方が、ブックトークをやりやすい面も。具体的な課題を提示して複数の本に触れることで教科の内容を掘り下げ、子供なりに深められるからです。自分からアクションを起こして調べられる¢フ験を積むことにつながります」と話す。
アンケートの回答からは、「子供の読書の幅を広げることができる」「テーマに興味を持つようになる」「発達段階に合わせて、教科学習で読んでほしい本の紹介になる」といった教育的効果が期待されている。
「読書の幅を広げる」点について、岩元司書教諭はさらに次の4つを挙げる。
@教科学習の指導が進めやすくなる
A自分から読もうとするきっかけになる…小学生からは「自分で読める」状態に引き上げる必要がある。ブックトークは読んであげる*ではないので、自然に自分から進んで読もうとするようになる
B多様なジャンル・レベルの本を複数紹介できる…読み聞かせの場合は伝統工芸の本や美術の本などは向かないが、ブックトークであれば紹介しやすく、印象的なページを紹介することで読書意欲を呼び起こすことができる。難しい本は読めない子、少し骨のある読書力を持っている子、両方に対応が可能
C自分の好きな本を見つけられる…1冊しか紹介しないと、その本が合わない子供は興味を持たない。しかし4、5冊紹介すれば、その中から気になる本が一冊は見つかる。
アンケートの回答では「実践したいが、準備する時間がない」「実践の仕方がわからない」「シナリオ作りが大変」といった課題が挙げられている。
実践の手順について、上の表にまとめた。
まずテーマを決めること、本を選ぶことから始まる。異なる分類番号など様々な切り口で、テーマに興味が持てるよう気を配って選書し、紹介する順番や、本と本を関連づけるつなぎの言葉などを考えた「シナリオ」を作成するといった手順がある。実践の時間の目安は、5〜7冊で30分、2〜4冊で10〜15分程度。
児童生徒がブックトークに取り組むことも可能だ。実践者が教員の場合と児童生徒の場合ではポイントが異なる。
▼教員が実践
特に「選書」の段階でハードルを高く感じる教員も多いという。理由として、実際に使用する本が6冊だった場合、準備段階では20冊程度用意し、その中から分類や切り口のバランスが良く、かつ学習に必要な本を精査する、といった作業が必要になるため、準備に時間がかかったり、授業時間内に30分以上確保することが難しい場合もあるからだ。
そこで教員が実践する場合は、教科学習などと連携しながらテーマを決め、15分程度のミニブックトーク(2〜4冊)とし、細かいシナリオを作成するのではなく、本を紹介する大まかなアウトラインを考えるだけでも良い。選書には、学校司書の協力を得たり、他校の実践も参考にする。
岩元司書教諭の場合、所要時間は「その後の学習活動の時間にもよりますが、長くて10分、できれば7分程度」という。シナリオは「あまり細かくは考えず、話がつながるように、順序を熟考します」。紹介するページを一頁、伝えたいことを一言考え、時間に収まるようにしているという。「声を出して読む練習をしなくて良いという、気軽な面もあります」。
ブックトーク終了後に児童生徒が本を借りられるよう、ブックリストを作成することも大切だ。
▼児童生徒が実践
テーマに合った本を選ぶこと、本を紹介する順番を考え、紹介する文章を考えてシナリオを作る活動自体が、学習活動となる。必要な情報を選びだして関連付けること、プレゼンテーション力を磨くことで、言語活動の充実にも繋がる。
類似した活動として「ブックリレー」もある。数人でグループを作り、1つのテーマで本を選び、ひとり1冊ずつ本を紹介する。次の人に紹介する際には、自分の本と次の人の本を関連付けて紹介する。本を選んだり、順番を考えたりしながら話し合い、本やお互いの考えについて掘り下げて考えを深める。
今回の調査で寄せられた各校の実践も紹介した。参考にして欲しい。
横浜市立駒岡小学校の実践例 |
テーマ@「衣服あんなことこんなこと」
実践する人→岩元カオリ司書教諭 実施時間 →家庭科
紹介した本
テーマA私にとって大切なこと
実践する人→岩元カオリ司書教諭 実施時間→特別活動、国語、総合的な学習など(各学級による)
紹介した本 ※今年度高学年課題図書
テーマBクマが出てくる本
実践する人→藤睦美学校司書 実施時間→2年生のオリエンテーション
紹介した本
選書のポイント…@テーマに沿った、調べたいことを見つけるために使えそうな本、または良い本だがあまり手に取られていない本。A課題図書を紹介する、という目的があるため、本が先にあり、4冊から当てはまるよう、テーマは後から考える。Bオリエンテーションの際に分類の説明も兼ねて選書。
実践紹介 −アンケート回答から |
小学校編
【三重県・公立小学校】
テーマ「お姉さん、お兄さんが出てくる物語」
実践する人→担任 実施した時間→国語
紹介した本
「バムとケロのにちようび」島田ゆか/作・絵 文溪堂
「でこちゃん」つちだのぶこ/作・絵 PHP研究所
「ちょろりんととっけー」降矢なな/作 福音館書店
「ぼくのかわいくないいもうと」浜田桂子/作 ポプラ社
「雪のかえりみち」藤原一枝/作 はたこうしろう/絵 岩崎書店
ねらい
単元「わたしはおねえさん」(小学校2年生・国語)の平行読書として。お姉さん、お兄さんという存在や言動を本から探す。
【上野原市立島田小学校(山梨県)】
テーマ「夏の怪談・おばけ・こわいもの」
実践する人→公共図書館司書 実施した時間→「読書」
紹介した本
ポイント
公共図書館の司書が学校支援の一環として、小学校の3年生を対象に、町内の各小学校で実施している。所要時間は30分〜。児童が公共図書館に足を運ぶきっかけになった。
中学校編
【宮城県・公立中学校】
テーマ「生きる意味」
実践する人→担任・司書教諭 実施した時間→国語
紹介した本
ねらいとポイント
毎年夏休み前に課題図書を含んだブックトークを実施している。今年は仙台市の現状を受け、命の大切さを考えさせる授業の必要性を思い、テーマに絡めた。
高等学校編
【清教学園中・高等学校(大阪府)】
テーマ「映画の中に文学が」
実施する人→生徒 実施した時間→朝の読書
紹介した本
ねらいとポイント
古典作品を身近に感じる。同校では、図書資料を使った学習に力を入れている。有志の生徒による実践で、高校3年生が高校1、2年生に向けて伝えたいメッセージを込めてブックトークを行った。生徒自身が選書し、司書教諭が確認した上で実施した。
【2017年09月18日号】
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