ー学校図書館の国際大会、日本で初開催
「2016国際学校図書館協会(IASL)東京大会」が、8月22〜26日、東京・御茶の水の明治大学で開催された。IASLは世界規模で学校図書館活動の促進を目指す国際機関。学校図書館・教育関係者、作家や研究者など世界30か国から300人以上が参加した。各国の研究や実践が発表され、学校訪問やワークショップも実施。活発な交流や今後の学校図書館のあり方についての議論が行われた。
【主催=2016国際学校図書館協会東京大会組織委員会、共催=公社・全国SLA】
東京大会のテーマは「デジタル化時代の学校図書館」。22日の開会式で、東京大会組織委員長の銭谷眞美氏(全国SLA会長)は「社会のデジタル化が進む中、学校図書館はどうあるべきか。研究発表や討論によって、多くの意味のある結果が得られると期待している」と挨拶した。
基調講演は山梨県立図書館長を務める作家の阿刀田高氏、ダイアン・オバーグ博士、マンガ家で大阪芸術大学教授の里中満智子氏、26日はジェームズ・ヘリング博士が行った。
そこから2つの基調講演を紹介する。
基調講演
学校図書館の評価方法
―オバーグ博士
日本では全国SLAが平成20年に「学校図書館評価基準」を制定し、活用されている。評価を行うことで、学校図書館の様々な業務が問題なく機能しているかに焦点を当てることができる。
学校図書館のメリットを明確に示すとともに、学校図書館で提供するプログラムを形作る際も、適切な評価基準が役立つ。司書が自らの活動を測る指針にもなる。
学校図書館の評価の際に指標となるのが、どれだけ図書館が学校に貢献しているかという期待値だ。司書が提供するプログラムが学校の掲げる目標に貢献していることや、学習の向上に結び付いていることを明確に示す必要がある。
さらに子供の社会的な成長を促すなど、数字では測れない部分の役割にも目を向けるべきだ。
これまで学校図書館の評価は、設備や人材の適切な配置など、一定の基準に達しているかどうかがガイドラインで測られてきた。しかし、そうした評価方法には疑問もある。
聞き取り調査から見えてきたのは、学校からの要望に対応できているかどうかが、評価のポイントとなっていることであり、司書はその説明責任に追われる傾向にあった。評価を行う校長や教員は学校図書館のプロではない。学校図書館を改善するには、全体的な評価だけでなく、問題のある部分にターゲットを絞った評価方法も必要だ。
そこで、学校図書館が提供するプログラムなど、細かい点に絞って評価を行った結果、学校図書館について@図書資料の集積場と思われていたが、教育の場として捉えられるようになった、Aカリキュラムと密接に関係する場と考えられるようになった、B校長や教員など全ての職員が関わるようになったなど、変革がもたらされた。
未来の学校図書館像
―ヘリング博士
情報リテラシーと学校図書館の専門家。2012年にオーストラリアのチャールズ・スタート大学を退職するまで、34年間大学で教えてきた。
大会最終日のヘリング博士の基調講演では コンピュータやデジタル資料の歴史をひも ときながら、学校図書館の未来像を語った |
学校での学びが、将来全てテクノロジーに置き換わることはないだろう。子供が社会に適応する準備の場としてのニーズが、学校にはあるからだ。
将来は、AR(拡張現実)、3Dプリンティング、クラウドコンピューティング、の3つのテクノロジーが教育を形作ると考えられる。問題となるのは、テクノロジーを所有するのは誰で、誰がそれをコントロールするのか、という点。クラウドに情報を置いた場合、今後も常に無償でアクセスできるかどうか、保証が危うくなる。いかに情報リソース(resources=資源)にアクセスするか、またいかにクリティカルに情報を活用するかが重要になる。
未来の学校を考えるとき、テクノロジーだけではなく、学習・情報リテラシーが重要となり、そこに司書の役割がある。
子供たちが集まって学ぶスペースを、どう管理するか。単なる情報のダウンロードではなく、その学校に合った形で情報を提供する必要がある。
将来の学校の司書には、教える・運営する・情報リテラシーをまとめてカリキュラムに入れる、といった多くの役割がある。クラウド化により、情報量は増えるが、質が落ちる可能性がある。そういった場合にも司書がリソースを教えなければならない。リソースをまとめて整理整頓するだけでなく、作ることも必要となってくる。今、学習用のウェブサイトを学校で作成するケースも増えている。自分の学校に何が必要か、優先順位を考えて取り組むべきだ。
未来の学校図書館は、ロボット(AI)が司書にとって代わるのか。AIは24時間のリソース管理も可能だが、学生たちに共感する点はどうか。答えはまだわからない。
分科会各国の研究・実践
多様性理解の方法は
Bwebと図書資料 を考える |
@スリランカの研究 |
B「Human Library」 の実践 |
A移民の子供たち の支援 |
分科会では各国の学校図書館の実践や調査研究が発表された。
ヤシンドリ ビシュニカ氏は、スリランカにおける、男子生徒と女子生徒の情報検索のパターンについて発表した(写真@)。学生たちの間では、必要な情報を探す手段は、紙媒体から電子メディアへと変化している。スリランカの4つの学校で、14歳(9年生)〜18歳(13年生)までの400人の生徒を調査。9年生の66%、10年生の77%、11年生の72%、12年生の80%が、紙媒体よりも電子メディアを好んでいた。さらに電子メディアを使うことによるジェンダーの影響も調査結果から見えてきたという。
ペール・ジョハンソン氏のテーマは「難民の子供たちの教育の手助けをし、スウェーデンの社会になじめるようにする、デジタル時代の学校図書館としての挑戦」(写真A)。
スウェーデンには2015年におよそ16万3000人の難民が来ており、主にアフガニスタン、イラク、シリア、ソマリアからだ。子供も多く、スウェーデンの学校で受け入れている。子供たちは両親の不在、言葉の壁、文化的な違い、初期教育の欠如などの問題を抱えており、自身が勤めるストックホルムの学校ではそうした子供たちにスペイン語で授業を行っている。デジタル時代の学校図書館は、何千もの本にアクセスでき、最新の情報技術、インターネットのデジタルリソースにアクセスできるが、それらを読みこなす技術が求められる。多くの子供たちは言葉や情報やコミュニケーション技術に乏しく、手助けなしには学校図書館を上手に使うことができない。同校では、新聞20紙、ページ数が少なく読みやすい本を数多く用意するなどの工夫をしている。
シンシア・ホーソン氏はレファレンス・コレクションの再開発について語った(写真B)。
学校の司書は、テクノロジーや組織の変化に対応することが求められている。特に印刷されたレファレンス・コレクションは最も影響を受ける分野の一つ。レファレンス・コレクションを発展させるためのリソースや考え方、方法、図書資料の再選別などについて語った。参加者からはデジタル機器が高額であり、予算面でどうすべきか、という質問があり、媒体とデジタルでバランスをとる、といったアドバイスや、学術的なサイトとして「EBSCO」(本社・アメリカ)が活用されている、といった話題も挙がった。
他者への理解を深める実践も紹介された。デボラ・ブラウン氏は、スウェーデンの「Human Library」の実践を紹介(写真C)。様々なルーツを持つ人々に来てもらい、子供たちがその人の人生についての話を聞く。大人1人に対して、子供たち2〜4人程度がテーブルに着くカフェスタイルだ。大人の経験や違いを聞くことで、様々な国や文化、職業への認識が広がり、子供たちの学びが深まる。
【2016年9月19日号】
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