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学校における一人職種が活躍できる環境を担保するには、それぞれが他の職務の内容を理解している組織力と、各自の困難を乗り越える力が不可欠です。専門職としての養護教諭を例に挙げ、その重要なスタートとなる新任養護教諭の困難を乗り越える力について考えてみます。
力量不足と多忙感 周囲の介入に苦慮
昨年、着任半年を経過した新任養護教諭を対象に、「職務における困難感」についてインタビュー調査を実施しました。そこから見えてきたことは、着任当日からベテラン同様の期待をされることから生じる「自身の力量不足」の実感と、抱いていた教員像を現実の教員生活で再統合する中で、予想以上の「職務の多忙さ」に直面した現実でした。
また、一人職種の特徴として、周囲が養護教諭の職務や保健室の機能を明確に理解することは困難です。そのため養護教諭の職務の範囲内に、周囲からの情報や意見などが集まる傾向が示唆されました。すなわち、その「周囲からの介入への対応」にも苦慮している現状がわかりました。
健康生成論的なアプローチ方法を
ストレス対処を最も必要とする新任養護教諭においては、SOC(首尾一貫感覚Sense of Coherence)の3つの下位概念「把握可能感(わかる感)」「処理可能感(できる感)」「有意味感(やるぞ感)」に注目した、適切なメンタルヘルスの支援が有効と考えています。
健康の定義で最もよく知られているものは、世界保健機関(WHO)が1946年に提唱した「健康とは身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態であって、単に病気や虚弱でないということではない」です。
一方、新たな概念としてアントノフスキー博士が提唱した「健康生成論」があります。
『養護教諭のキャリアノート』記載項目案 ●私のネットワーク ●困ったこと⇒解決できたこと ●子ども達からのメッセージ ●目標の設定 ●養護教諭の人生設計図 ●研修会などの自己研鑚 ●参考となる新聞や雑誌の切り抜き ●読書歴 |
従来の医学における考え方が予防や治療の視点であるのに対し、個体が健康な状態を保つことができるのはなぜかというところに焦点を当てています。健康生成論的アプローチではSOCを中核概念としています。
前述した3つの要素の合計点が高いほど、ストレス対処が強いとされており、この3つを意識した支援や取組を実施することで、困難を乗り越えられるのではなかと考えています。
日常・実践等を書き自身の成長に気づく
具体的な方策として、SOCの3つの要素を高めることが期待できる「キャリアノート」の活用を提案したいと思います。自分の日常、実践活動などを書き残すことにより、周囲の支援体制が見えてきたり、達成感が味わえたり、また、自分の成長に気づくことにもつながります。さらに、自分の仕事にやりがいを見いだし、いきいきとした職務環境を作り出せるのではないかと期待しています。
【参考文献】松崎一葉『公務員のための部下が「うつ」になったら読む本』学陽書房 2010・7/笹原信一朗『心が折れない部下の育て方』メディアファクトリー新書 2012・2
【2016年7月18日号】
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