組織的な対応を図り「実践知」を「共有財産」に<全国養護教諭連絡協議会 研究協議会>

健康管理から学校改善へ

第21回研究協議会
約1000名の養護教諭が集まった

全国養護教諭連絡協議会(以下、全養連)の第21回研究協議会が2月19日に都内で開催され、学校保健活動をより効果的に推進するために、専門性や実践力のさらなる向上と豊かな保健室経営を目指す養護教諭の姿を追究すべく意見が交わされた。閉会時には全養連の木嶋晴代会長が「養護教諭が実践を頑張っているとアピールすることが必要であり、重要なこと」と会場に呼びかけた。

「専門性」を生かす

基調講演に登壇した文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課健康教育調査官の岩崎信子氏は、「学校保健安全法施行規則の一部改正について‐児童生徒等の健康診断について‐」を演題に、今年4月から変更される健康診断のポイントについて説明した。

健康診断の結果の活用について岩崎氏は、「保健管理・保健教育・組織活用にどう生かすのかが課題。来年度の健康診断がスムーズに実施できるかは、養護教諭にかかっている」と話し、「学校医・学校歯科医の職務をそれぞれ養護教諭も確認しながら、コミュニケーションを図ることが重要」と続けた。

「養護教諭の専門性を発揮した実践とは」をテーマにしたフォーラムでは、埼玉大学教育学部教授の戸部秀之氏をコーディネーターに、保健管理、危機管理、健康相談、保健室登校について4名の養護教諭が事例を紹介。

■保健管理

福島県立大笹生養護学校の小西真希子氏は、前任校の農業高校で実践した学校環境衛生活動について発表。同校では学校保健計画による環境衛生検査として照度検査、教室の温度、換気について調査・周知を図った。

 教室の温度については、エアコンが一部の教室だけという環境下の中、6月から9月まで教室の温度変化、暑い時の気温、湿度を保健委員の生徒が測定。結果は管理職に報告し、学校保健委員会でも協議した。

小西氏は「学校薬剤師や学校医と連携を図り、保健主事、管理職に生徒の様子や環境整備について報告を行うことの重要性を感じた」という。エアコンの設置までは至らなかったが、設置を検討する協議が行われた点が、教室の環境を伝えたことによる成果であり課題だという。

■危機管理

実践発表の4人
実践発表の4名

兵庫県神戸市立なぎさ小学校の片寄理絵氏は、学校における食物アレルギーの対応から、危機管理における養護教諭の役割を発表。前任校で常勤の栄養教諭がいないという体制の中、学校生活の中でアナフィラキシーが発症した場合、全教職員が適切な支援を施せるよう「共通理解」し、他の児童への学級指導を行うことを目標として「神戸市児童生徒等アレルギー疾患対応マニュアル」に沿って実践した。

同市では教育委員会の指導の下、養護教諭のほぼ全員が救急インストラクターの資格を取得しており、養護教諭は校内研修の要だ。片寄氏は、宿泊行事前には自らが主治医に連絡をとり、必ず対象児童と保護者、管理職、養護教諭及び学級担任で面談を実施。宿泊先を管轄する消防署への連絡、学級担任と複数で宿泊中の食事の確認を行うなどきめ細かい対応で事故の防止に努めた。

「養護教諭の専門知識を生かして中心となり、"自分が"ではなく"みんなでできるように"コーディネートする力を養い、教職員全員が理解し、協力体制を築いていけるよう働きかけていくことが大きな力になる」と述べた。

■健康相談

埼玉県立草加かがやき特別支援学校草加分校の熊木美香氏は、前任の特別支援学校における「組織的に取り組む健康相談」について発表。

学校でてんかん発作が頻発していたAに対し、夜更かし、朝食欠食などの課題に、学校医からの指導助言などを得て、まずは食事内容の改善や薬の飲み忘れについて予備薬を学校で預かるなど工夫を凝らした。服薬管理改善後も大きな発作が頻発し、好きな授業や楽しい活動の際は発作が起きない状況から転換症状と鑑別する必要があるとし、発作時の倒れ方の観察、学部で対応を統一して様子を見た。結果として発作が起こらなくなり、転換症状だと鑑別できた。

熊木氏は「職務の特質から、児童生徒の心身の健康課題を発見しやすい立場にある」とした上で、「組織的」対応の必要を実感。この事例から「全職員から意識される校内組織」「保護者から意識される保健室」「医療機関等と連携可能と評価される学校」の3点について考える機会となったという。

■保健室登校

三重県松阪市立西中学校の山川永子氏は、現代的課題の一つでもある「保健室登校の事例」を通じ、養護教諭としての専門性を発揮した支援について前任校での事例を発表した。

登校できない状態と保健室登校を経て、登校できないまま卒業を迎えた生徒がいた(以下、B)。Bは厳しい家庭環境を背景に、生活習慣の乱れやゲーム依存、他の生徒との接触を極端に嫌がるなど多くの課題を抱えており、校内外における組織的な支援が必要であった。

校内ケース会議では、長期・短期目標、目標達成のための具体的な支援、関係機関への支援・連携などの項目について「教育支援計画」を作成。保健室を本人の居場所として確保し(カーテンで囲ったブースを作った)、進路を見据えて担任を中心に関わること、母親にカウンセリングを勧めることなどが会議で話し合われた。

熊木氏は「保健室はいつも開いていて、そこには養護教諭がいて、誰もが、どんな理由でも来室できる」状態が、養護教諭の専門性を発揮するベースであると考えており、「養護教諭が生徒との関わりで得た情報を共有することが重要」と話す。

4名の発表からコーディネーターの戸部氏は、「専門的知識をベースにした、具体的な事例だった。生かし方のヒントが見えてきたのではないだろうか。個人のものであった"実践知"を養護教諭が"共有財産"にしていく。その芽生えが今日の発表にあったと期待したい」とまとめた。

 

【2016年3月21日号】

 

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