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第27回 【教職員のメンタルヘルス】心の悲鳴に耳を傾ける

学校経営における校長の見立て

早期発見・早期対処を心がけ 
異動や校内人事に備えて

学校経営において、教職員、児童生徒が日々何事もなく、健康で円滑に教育活動を行っている姿を確認することが出来るということは、校長にとって何より安心することであり、それは校長自身のメンタルヘルスの安定にもつながる。

欠勤が次第に増加
 連鎖する体調不良

校長を務めていた頃、こんな事例があった。

「体調が悪い」と言い、週1日のペースで休む教員がいた。中学校だったので空きの教員が補欠の授業をしたり、同教科の教員が授業を進めるなどの対応をして、授業進度をカバーしていた。そのうち週2日、3日と休むようになり、やがてカバーしていた教員もオーバーワークやその教員への不信などが重なり、連鎖のように体調不良者が出てきた。

教育現場に限らず職場の不協和音は、成果を上げる阻害要因となる。このようなことが起きた時、校長としては教職員間の不協和音や負の連鎖をキャッチし、その流れを止めて正常な環境に戻すためにはどのような手段を講じたら良いのか、早期の対応が求められる。

面接からカウンセリグ
 さらには医師の診察へ

私がまず行った対応は、当該教員との面接である。

まじめな女性教員で、一人で娘を育てながら高齢の両親の面倒をみているという家庭環境にあった。部活動の顧問をしており、土・日は部活動に出ていたために疲れ、結果、体調不良となり週始めに休むということが面接によってわかった。

早速、部活の顧問は別の教員に手伝ってもらう対応を整え、さらに、川口市(埼玉県)には教職員へのメンタルヘルスカウンセラーが配置されているので、早速カウンセリングをお願いした。そうしたところ、負担の軽減をしたものの、当該教員のメンタル面の対応も必要だという結論になった。

校長としては、児童生徒の学習や教員の教育活動にマイナスになることは当然避けなければならないので、当該教員に医師への診断を勧め、教育委員会と相談をして病気休暇をとることにした。調べてみると病休には至らなかったものの、前任校においても同様のことが起きていたことがわかった。

その後、当該教員は病休・休職を経て現場に復帰。復帰後は他の部活動の顧問となり、負担も軽減。授業も活き活きと行うようになった。さらに、他の教員の負担も軽減され、校内体制も円滑に機能するようになっていった。

ストレス社会といわれる現代において、学校現場もその例外ではない。とくに昨今では教職員の業務は多岐にわたっている。学習指導、生徒指導は言うに及ばず、小学校では英語指導、そして小中学校共通の対応としていじめ、発達障害、虐待、食物アレルギー、保護者への苦情対応など、内容によっては大きなストレスとなり、それが教職員の精神疾患へと繋がるケースが多々ある。

メンタルヘルスの実態は
 校長が自ら情報収集を

管理職として、校長は次年度の学校経営を考えるに当たり、所属校の教職員のストレスやメンタルヘルスはどのような実態なのか、副校長・教頭、教務主任、学年主任や他教職員の動きなどを見つつ自ら情報収集を行い、1年間のスパンの中で教職員のメンタルヘルスをどのように位置づけるのかを見定めてほしい。

その課題がある場合には、早期発見、早期対処を心がけ、年度末の人事異動や、次年度に向け意図的にメンタルヘルスに十分配慮した校内人事に備えることが、現在の学校現場の実態から円滑に学校経営を進めるために校長が考える視点として重要であると考える。


執筆=坂本大典(さかもと・だいすけ)埼玉県川口市内の中学校長を経て、東邦音楽大学准教授等を歴任。現在は、日本教職員メンタルヘルスカウンセラー協会顧問。

 

【2016年3月21日号】

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