”おもてなしの心”を育む<五輪教育推進校 八王子市立横山第二小学校>

”五輪教育”をきっかけに
”日常のふるまい”を振り返り

2月2日、八王子市立横山第二小学校(土屋栄二校長・東京都)でオリンピック・パラリンピックを題材とした「おもてなし」をテーマにした授業が公開された。授業では、筑波大学、千葉大学、大日本印刷が産学連携で開発した協働学習向け「おもてなし教材」を活用しており、同校も検証校として開発に協力している。同校は平成26年度からオリンピック教育推進校に指定されており、全学年で1班1国運動にも取り組んでいる。

江上さんキャラクターで登場
おもてなしのプロ・江上さんがキャラクターとして登場。おもてなしの心を伝える

プロのひと言が
 心を揺り動かす

授業は、6年生を対象に道徳、総合的な学習の時間の2時間で展開した。授業者は上田隆司教諭。

進行役のキャラクター2人が「よろしくお願いします」と言いながら礼をすると、声を出すタイミングは同時だが礼のタイミングが違う。声を発しながら礼をするのは「同時礼」、声を発し終わってから礼をするのが「分離礼」だ。
「分離礼」のほうが「丁寧」であると感じる児童が多いが、その理由についてはわからない。そこで教材では、客室乗務員の経験を元におもてなしの心を講演している江上いずみ氏(筑波大学客員教授)が「おもてなしのプロ」として登場。「声が聞こえやすいこと、口元が見えることで、聴こえにくい方への気遣いになる」と解説した。その後、2人1組になって「同時礼」「分離礼」の練習も行った。

オリンピック・パラリンピックの競技数など五輪への興味関心を促す3択クイズの後、実際に外国人アスリートが学校にやってきた際の子供たちのおもてなしの「悪い例」を映像で視聴し、どこが悪かったのか、どう修正すれば良いのかを個人で考えてからグループで共有、話し合って全体に発表していく。「下を向かずに相手の目を見て、あいさつをしたほうがよい」「相手の人を待たせずに、積極的にあいさつしたほうがよい」という意見が出る。

「同時礼」「分離礼」を練習する
「同時礼」「分離礼」を練習する

江上先生の「握手をするときにはしっかりと手を握る」「相手の顔を見て笑顔で」などの解説を聞いた後、児童は良い例を視聴して実際に英語によるあいさつを2人1組で練習した。相手をイメージしながら練習しようとしている様子がわかる。

3択クイズでは、江上先生が「実際に外国の方にやってあげたらとても喜ばれたこと」が問題だ。「毛筆で漢字を使ってその方の名前を書く」というアイデアで相手の笑顔を引き出すことに成功している様子を見て、児童の心も揺り動かされたようだ。

まとめの活動は「これから自分のできる『おもてなし』を考え、クラスとしての目標を決める」というもの。日本文化の体験を提供する、海外の方の出身国について調べるなど様々な意見が出た。児童は「相手の喜ぶことをするのが、おもてなし」と考えを深め、海外の人だけでなく身近な人への対応も「おもてなし」であり、「困っている人がいたら声をかける」「元気よく笑顔であいさつする」というクラスの目標を立てることができた。

良い例、悪い例の例題
外国の方をお迎えする「悪い例」を見て改善点を話し合い、「良い例」を見て練習
江上さんから「おもてなし大使」のメダルを授与
江上さん(写真左)から「おもてなし大使」のメダルを授与

授業者の上田教諭は「教材を通しておもてなしのプロである江上先生と出会うことができる点が素晴らしい。プロのひと言は児童の心を揺り動かす力がある。一つひとつの所作で相手がどう感じるのかが変わる、ということを学ぶよいきっかけとなり、学校生活に活かせる五輪教育を展開できる。ゲーム感覚で瞬時に世界観に入り込めるため、児童が主体的に考えやすい。授業内容や進行を教材に任せ、児童を見取る時間がしっかり確保されている」と語った。

土屋校長は「『おもてなし教材』は授業デザインが明確で進行しやすく、全校推進に向けた東京五輪教育のヒントになる。クラスの実態に対応した授業者のきめ細かい声かけが成功のポイント。本校の重点目標である『思いやりのある子』の育成にむけて今年度は『本物との出会い』をテーマに推進していきたい。プロの方の言葉の力は大きい」と話す。

八王子市教育委員会の関根美香指導主事は本教材を活用した授業について「映像やICTなどの興味や関心を継続しやすい工夫と東京五輪教育の目標である5つの資質の育成に資する4テーマ・4アクションが盛り込まれている。スタンプやメダルの獲得などのゲーミフィケーションの仕組みにより、見通しを持った活動が可能になった。都の方針を受けて八王子市としても取り組んでいきたい」と可能性を示した。

 

公開授業参加者の声

「分離礼」が学校に浸透
 実感を持って練習

■日本の美点を指導する具体的な場面が学校教育に不足していると感じていたが、本教材でパッケージとして示された。「おもてなし教材」には明確な場面設定があるので、自然にシュミレーションができそう(都内教育委員会・指導主事)

■外国語の授業であいさつ英語を練習しているが、「おもてなし教材」で実感を込めた練習ができる(小学校外国語教育支援員)

■江上先生の講演会を学校で開催した後、学校に「分離礼」が浸透した。江上先生がキャラクターとして登場するので、心がこもったあいさつを始めとする日常の所作を広く浸透するきっかけになる(都内小学校教諭)

 

5つの資質を育む協働学習教材 4月発売<大日本印刷>

「おもてなし」「パラリンピックムーブメント」
「オリンピック精神」3種の教材を提供

おもてなし教材1 おもてなし教材2
「同時礼」「分離礼」について学び、実際に練習して身につける 五輪に関する三択問題で興味関心を高めて深い学習につなげる
おもてなし教材3 おもてなし教材4
学習のまとめとして日常生活でできる「おもてなし」について考え、クラス目標を決める 学習後は「おもてなし大使」のメダルを獲得。継続的なボランティアマインドにつなげる

大日本印刷では、オリンピック・パラリンピックを題材とした協働学習教材を筑波大学・千葉大学教育学部と産学連携で開発している。第一弾が、相手を思いやるコミュニケーション力を学ぶ「おもてなし教材」だ。

これは、東京五輪をきっかけとしてコミュニケーション能力を育み、マナーを学ぶと共に、クラスとしての目標を考えるもの。教材では進行役のキャラクターが問いかけることで、考え、話し合い、まとめ、発表する活動を展開できる。メダルの獲得などゲーミフィケーションの仕組みも盛り込み、主体的意欲的に取り組めるように設計した。監修者の1人である江上いずみ氏(筑波大学客員教授)は約30年間の客室乗務員経験から「グローバルマナーとおもてなしの心」をテーマに大学等で指導をしており、本教材には、江上氏が講演や授業で伝えているエッセンスを盛り込んだ。本教材にもキャラクターの1人として登場。自身の声で質問し、メッセージを伝えている。想定する教科は、道徳、総合的な学習の時間、特別活動など。対象は小学校高学年。2時間構成。ワークシートや指導案も添付。

教材は3部構成で制作

同社では「おもてなし」教材に続き「オリンピック精神教材」(仮称)、「パラリンピックムーブメント教材」(仮称)も制作。いずれもゲーミフィケーションの手法を用いた協働学習教材として設計する。

「オリンピック精神教材」は、良きライバルや仲間と支えあいながら目標に全力で取り組む尊さなどのオリンピック・バリューを学ぶもの。

「パラリンピックムーブメント教材」は、様々な障害を始めとする多様性に焦点を当て、ボランティアマインドやスポーツ志向、異文化共生の資質を育む。発売は4月を予定。

▼問合せ‖大日本印刷(株)教育ICTソリューション推進室Tel03・6735・6195

 

監修者より

筑波大学 真田久教授
筑波大学
真田久教授

五輪教育で良い
 スタートを切る

「おもてなし教材」は、東京都が作成している教材とは異なる視点で制作した。

児童の意欲や関心を醸成し、土壌を育み、さらに東京都の教材で広く深く学ぶなど組み合わせた学習ができ、質の高い五輪教育に取り組むきっかけとなる。(東京のオリンピック・パラリンピック教育を考える有識者会議座長)

 

 

 

筑波大学 江上いずみ氏
筑波大学
江上いずみ氏

講演で伝える内容を
 教材に盛り込んだ

「おもてなし」は「大切な人をお迎えする心」を行為で表すこと。相手によってその「大切に思う気持ちを表現する方法」は異なる。今年度、約200校で「おもてなし」をテーマに講演してきたが、訪問できる学校数には限りがある。本教材には、講演で伝えている重要な要素を精選して盛り込んだ。

世界に通じるマナーの基本や使い分けは、日常生活にも役に立つもの。自分にできる「おもてなし」とは何かを日常的に考えるきっかけとしてほしい。

 

 

【2016年2月15日号】

 

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