学校給食、病院・福祉施設の食をテーマにした専門展「フードシステムソリューション2015(以下、F‐SYS)」が9月30日から10月2日まで都内で開催され、6万6352名が来場。企業のブース展示及び各種セミナーが行われ、最終日には学校給食の大きな課題の一つアレルギーをテーマに、県教委、市教委、小学校、学校給食会の立場から取組事例が紹介された。会場は立ち見も出るほどで、その注目の高さがうかがえた(主催=フードシステムソリューション実行委員会、共催=アテックス(株)
今年3月、文部科学省から「学校給食におけるアレルギー対応指針」(以下、対応指針)が出され、これを基に各学校の状況に合わせたマニュアルの作成が求められている。
2日のセミナー「学校給食における食物アレルギー対応指針の有効活用」では、女子栄養大学栄養科学研究所の金田雅代客員教授をコーディネーターに、パネリストが、それぞれの立場から対応指針を活用した取組事例を紹介。
金田氏は「食物アレルギーに対しては、学校や栄養教諭に任せきりにせず、教育委員会による組織化された対応が必要」と話す。
文科省指針に合わせ
専門医受診の促進に
静岡県袋井市からは、教育委員会教育企画課おいしい給食推進室の小鷹義晴室長が発表。同市では平成25年3月に「袋井市学校給食食物アレルギー対応の手引き」を作成し、26年1月から市内全ての学校給食センターでアレルギー対応食を提供。その後、対応指針の内容を反映させる形で、平成27年度版において手引きの見直し・改定を行った。
これまで、乳アレルギーに関しては「牛乳は飲めなくてもシチューは提供できる」など、多段階対応がとられていたが、対応指針に合わせ「提供」か「完全除去」かの二者択一を取ることとした。「保護者からの反発はあったが、完全除去をきっかけとして本当に乳アレルギーか確かめるため医師に相談するなど、専門医の受診を促すことにつながった」と結果的に食物アレルギーの実態把握ができた。
不安を抱える現場
設備・人員不足
長野県上田市立真田中学校の柳沢幸子栄養教諭は、(公社)全国学校栄養士協議会が全国の学校栄養士に実施した食物アレルギー調査結果を報告。食物アレルギーの児童生徒は、全国で45万3962人。学校では対応指針のレベル3にあたる、原因物質を取り除いた給食を提供する「除去食対応」が最も多い。
「除去食」や「代替食」を提供していない施設に、その理由を聞いたところ「施設・設備が整っていない」「人員が整っていない」という回答が多い。
「多くの栄養教諭が、食物アレルギーへの対応に見落としや混入間違いがないか不安を抱えながら給食を提供している実態が見えてきた。対応指針を学校や教育委員会で熟読して組織で対応してほしい」と協力を求めた。
福島県教育庁健康教育課の佐藤三佳主任栄養技師によると、県教委と(公財)福島県学校給食会は、共に、2年間で16回調査研究会を開催。その上で、今年3月に県の実態に応じた「学校給食と食物アレルギー」を発行、1500部が県内の小中学校に配布された。
また、鹿児島純心女子短期大学の中馬和代准教授によると、鹿児島県学校給食会では栄養教諭対象の夏季講座を開講。昨年度はテーマを「アレルギー対応食への取組を進めるために」とし、アレルギー対応食品を使用した調理実習や、単独調理場と共同調理場それぞれの取組が実践発表で紹介されたという。
フードシステムソリューション(F‐SYS)では会議棟のセミナーや、会場内に設けられた「学校給食特別展示コーナー」で、安全・安心な給食を提供するための情報を紹介。特別展示コーナーではアレルギー対応食の調理実演や生野菜の洗浄体験などが行われた。セミナーでも地場産物の活用、献立、衛生、アレルギーなど現在学校給食が抱える課題の解決に導く内容が多数行われた。
アレルギー食対応
卵の代用にえのき水 うま味が増し大好評
会期中に各日2回行われたアレルギー対応食の調理実演では、アレルギーの原因となる材料を使わず、他の児童生徒と同じような献立を提供できる代替食を紹介、来場者に試食が提供された。
アレルギーのセミナーにも登壇した長野県上田市立真田中学校の柳沢幸子栄養教諭は、「卵」を「えのき氷」で代用した「れんこんバーグおろしかけ」を紹介。同校では基本的にアレルギーの原因食品を取り除く除去食で対応し、原因食品が主菜やくだもの等の場合、代替食で対応している。
今回の代替食で使用された「えのき氷」は、長野県ではなじみ深い食材。ペースト状にしたエノキタケを冷凍して固形化したもので、溶かして混ぜるだけなので、どんな料理にも使いやすいという。
通常のハンバーグと作り方は大きく変わらないが、粘りが出るまで混ぜたひき肉に、解凍した「えのき氷」と食べやすい大きさに割ったれんこんを混ぜて焼き上げる。れんこんのシャキシャキした食感が特徴で、えのきの風味が旨味を増す。「これなら子供も喜ぶ」と試食した来場者にも好評だった。
生野菜の洗浄
生野菜の洗浄は電解水で |
給食で生の食感を 技術の向上で可能に
「生野菜洗浄体験コーナー」では、静岡県袋井市中部学校給食センターで実際に使用されている設備を会場内に再現して実演が行われた。
加熱調理が原則とされる学校給食だが、東京医科大学兼任教授の中村明子氏は「学校給食では生野菜は禁止と思われているため、提供している学校はほとんどないが、設備や環境が整っている場合は生野菜を提供しても良いことになっている。食育という観点からも加熱していない新鮮で歯ごたえのある野菜を子供たちに提供することは大事。技術の向上により生野菜を提供できる環境が整ってきた」と語る。
生野菜洗浄の手順としては、はじめに水道水で5分洗ってから、電解水で5分の殺菌を行う。この20ppmの塩素濃度の微酸性電解水により殺菌されるが、塩素臭などは無く、人への安全性も保障されている。スーパーなどで販売されているカット野菜の多くも、この電解水により殺菌されている。殺菌後は水道水ですすいでから、スライサーで野菜をカットしていく。このカットの段階でも電解水で殺菌される。
この一連の行程により、学校給食で子供たちに安全な生野菜の提供が可能となる。
地産地消
五城目一中の吉原氏は地産地消の活用を話す |
地場産物で常備品 オリジナル加工品を
第2次食育推進基本計画では、学校給食において地場産物の活用を平成27年度までに30%以上を目標としている。
地域によっては非常に難しい目標ではあるが、学校給食セミナーではその糸口を探るべく、秋田県五城目町立五城目第一中学校の主任栄養士・吉原朋子氏が「"おらほの給食日本一"を目指して」と題した講演で、同校の取組を紹介した。
五城目町では、「家族みんなで楽しく食事をする」「朝ごはんは毎日食べる」「うす味でバランス良い食事」「地域や旬のものを味わう」「食を通じて"五城目"を知る」の5つが食育の目標。
「実践は他と変わらないと思うが、保育園から高校、婦人会など数珠つなぎに食育を実践している」と、コンパクトな自治体だからこその良さがあるという。吉原氏が務める五城目一中は、町内唯一の中学校だ。
同校の学校教育目標である「豊かな人間性を身につけ、志を高め挑戦する気概のある人間の育成」に対し、学校給食でどのようにアプローチするか吉原氏は日々考え、年間給食室経営案を立てている。
地場産物の活用は、月ごとに季節や行事と照らし合わせ、教材となる主食材を決め、それを地場産物で使っていく。4月はほうれん草と鶏肉、5月はたけのことアスパラ、6月は牛乳と小魚、7月は夏野菜、丼物といった具合だ。
4月のほうれん草は少し季節がずれているが、ビニールハウスで稲の種を育てる前に、ほうれん草を育てており、それを地元の協力を得て3月に冷凍に加工してもらうことで4月の提供に繋がっているのだ。
「これが地場加工を行うきっかけになり、炒め玉ねぎを夏休み中に加工し、かぼちゃは缶詰にするなど普段使いの常備品を作った」と、地元を巻き込みオリジナル加工品を作ることで地場産物の提供を安定させた。
地元の協力を得るために、年間ほぼ使える地場産物をある程度使うことで、農家との関係性も培った。
これらの努力が実を結び、平成26年度の地産地消学校給食等メニューコンテストで文部科学大臣賞を受賞した。
【2015年10月19日号】
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