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第22回 【教職員のメンタルヘルス】心の悲鳴に耳を傾ける

2学期からの心の整え方〜現実逃避を防ぐ

問題の「分析」と「対策」が鍵 
周囲は本人の方針を支援

いよいよ正念場の2学期に突入しました。ここでいう正念場とは、学級経営についても、教員のメンタル面でも正念場という意味です。メンタルヘルスの側面で言うと、1学期の課題を持ち越したまま2学期を迎え、メンタルヘルスを一層悪化させている教員もいます、中にはこんな先生もいらっしゃるようです。

夏休み前に起きた担任と児童の不和

ある小学校5年生担任の男性教諭(以下、A教諭)の例ですが、1学期に自分のクラスから保健室登校の男子児童(以下、K君)が発生しました。その原因の一つが、「担任との折り合いの悪さ」ということでした。担任の日頃の言動に不信感を覚えていたというK君は、ある日、友達3人と授業をボイコットして保健室に逃げ込みました。K君を除いた子は数日のうちに学級復帰を果たしましたが、K君だけは保健室から戻りません(戻れるのに戻らない)。K君の保護者は我が子から担任に対する数々の不平不満を聞き、子供の言い分が正しいと"鵜呑み"にし、学校へ押しかけてきました。

そして、「学校側から納得のいく対応が得られない」と、1学期中に何度も学校に押しかけ、その度にA教諭や学年主任・管理職は遅くまで時間を割いて対応を迫られる日々が続きました。1学期の終業式にようやく担任から直接通知表を渡すことができ、事態は小休止して、そのまま夏休みに突入しました。

問題は持ち越さない

2学期に入り、K君のA教諭に対する反抗は日に日にエスカレートし、保護者も相変わらず学校に押しかけてきます。ある日の朝、A教諭は突然校長室を訪れ「担任を続けられません。もう担任を降ろしてください」と泣きながら校長に訴えたのでした。

学校現場では時々見られる光景だと思います。1学期が終了し夏休みに入る時に、校長から「とにかくゆっくり休みなさい」といわれ、夏休みを経てそのままで2学期に突入してしまうと、このような事態を招きやすいのです。不登校だけでなく、内容が学級崩壊やいじめ問題であっても、課題が未解決のまま2学期を迎えると、メンタル的にこのような状況に追い込まれるケースがあります。自分だったら、この事態をどう切り抜けますか。
 1学期の問題をそのまま2学期も引きずっている事例では、「夏休みを挟むと物事が好転するだろう」という楽観的な考え方や、出来事に対する客観的な「分析」を行わないまま2学期を迎えるケースがあるようです。自分が行ってきた教育的支援について行動分析を行い、指導について間違っていない部分と不足・改善点等について「現実から距離を取って」冷静に考えてみる時間が必要です。自分だけが変われば解決する問題と、相手がいることで解決に苦労している場合とでは、本人の負担感には大きな差異があります。

「分析」とともに重要な要素は2学期以降の「対策」です。本人が事前に行った「分析」を土台にして、今度は周囲の教員が本人の方針に対して賛同したり、応援したりすることで「本人を孤独にしない」ことを大切にしてほしいと思います。事態が悪化するほど、目の前がうまくいかない現象に覆われて感情が大きく揺さぶられ、好ましい働きかけや継続してほしい取組までも否定的に捉えてしまうことがあるからです。

そして、本人が「自分はこうすることに決めた」と"職場放棄"や"休職"等、現実から向き合うことを放棄してしまうと、「もうそろそろ疲れてきた」と今まで援助を行ってきたサポーターが一人、また一人遠ざかっていくのです。


執筆=土井一博(どい・かずひろ)日本教職員メンタルヘルスカウンセラー協会理事長、川口市教育委員会学校教職員メンタルヘルスチーフカウンセラー、順天堂大学国際教養学部客員教授

 

【2015年9月21日号】

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