第10回食育推進全国大会 <東京都墨田区>

「民」主導の食育を

先進地からの発信

第10回食育推進全国大会 開会式
有村治子内閣府特命担当大臣から表彰を受ける
富岡実業高校の生徒

 6月20日、21日の両日第10回目を迎える「食育推進全国大会」が東京都墨田区で開催され、錦糸町・両国・押上の3エリアでイベントやシンポジウムなどが行われた。墨田区は平成19年に食育推進基本計画を先駆けて作成した自治体だが、食育は「民」の主導で「官」が支援する形で行われている。平成22年には「すみだ食育goodネット」が立ち上がり、活動の中心となり区の食育活動を盛り上げてきた(大会テーマ=夢をカタチに!未来につなぐ豊かな食育〜手間かけて"食で育む"人とまち、主催=内閣府共生社会政策、墨田区、第10回食育推進全国大会すみだ実行委員会)。

 江戸東京博物館で行われた開会式では有村治子内閣府特命担当大臣が「『あなたが食べたものがあなたを作っている』という言葉がありますが、考えさせられる言葉です。食育は"楽しく心が動くこと""つながること"が大事。大きな可能性を持っているのが食育の魅力です」とあいさつし、2日間の成功を願った。

 食と教育・食と防災 下町から情報発信

 山本享・墨田区長は、「ここ両国の地は、かつて2つの国を結ぶ橋が架かっていたことから"両国"と呼ばれています。相撲や花火などの文化があり、橋の両端には屋台などが立ち並び、この江戸東京博物館は"やっちゃば"と呼ばれる青果市場があった場所で、東京の食文化の発信地であったと言えます。食と教育、食と防災など下町ならではの取組を発信していきたい」とあいさつ。

 富岡実業高などがボランティア表彰

 続いて「食育推進ボランティア表彰」が行われ、群馬県立富岡実業高等学校野菜部、すみだ食育goodネット(東京)など9団体(個人)が受賞。足立己幸選考委員長(女子栄養大学名誉教授、名古屋学芸大学名誉教授)は「58件が審査対象となり、いずれも実践力が高いものでした。今年度受賞した団体の評価を一言で言えば、それぞれに成熟した食育の輪が出来ていること。食育力を発揮していくことを願っています」と講評。

 幕開けを飾るイベント「オープニングセッション」では、パネリストが会場内を歩きながら、参加者と対話し、進められた。コーディネーターは早稲田大学社会連携研究所所長の友成真一氏、パネリストは(株)studio‐L代表で東北芸術工科大学教授の山崎亮氏と、女子栄養大学大学院教授の武見ゆかり氏。

 手間をかけることは人間性を作ること

 会場の「手間をかけるとは、どういうことか」という質問に対して友成氏は「社会はいかに手間をかけずに成果を生み出すかという動きにありますが、その行き着く先には人間の関係性が途切れていくことが待ち受けています。食育の推進は、手間をかけないと人間関係が紡ぎだせません」と返答。

 「大学で管理栄養士になるための勉強をしているが、管理栄養士として持つべき視点は」という質問に武見氏は「管理栄養士は食と健康を最も大切なこととして捉えていますが、一般の人にとって食は必ずしも健康に結びつきません。一人ひとりが持つ様々な価値観を理解できる広い視野を持つことが重要ですが、健康を害することが無いよう最低限のことは守らせるのが管理栄養士の責任です」と未来の管理栄養士にアドバイスを送った。

公開授業で「墨田の食育」を紹介

 食育推進全国大会の初日である6月20日、墨田区立両国中学校(松井隆校長)と二葉小学校(水谷光一校長)では、食育をテーマにした公開授業が行われた。

 両国中学校
 和食中心の学び給食はほぼ完食

 墨田区中学校栄養士会では、年間指導計画に郷土料理、行事食、季節の料理、地場産物なども取り入れながら日本型食事を推進している。両国中の公開授業でも2年生は「鰹と出汁」、3年生は「寿司と文化」などをテーマに授業を行った。

二葉小学校
二葉小学校 食育
約2kgの「カツオ」だが、しっかり竿をしならせ
る体験をした両国中の2年生 (上)八丈島から
ゲストが訪れた二葉小学校は、同じ東京でも風
土に差があることを実感

1年生は、「野菜ソムリエになろう」と題したプレゼンテーションを行った。この日に向け、事前に野菜とテーマを決めて発表資料を作成し、クラス内での発表を経てプレゼン内容を深めた。「ワサビはなぜ辛くなるのか」「もやしがシャキシャキする理由」など、クイズを交えながら発表し、最後に試食をした。

 その後、全校生徒へ向けて日本料理「賛否両論」オーナー兼料理人の笠原将弘氏らが「和食」をテーマに講演。笠原氏は心がけてほしいこととして、日本には四季があり「旬の食材」を食べることを挙げる。「旬の食材にはそれぞれ意味があり、春の食材に山菜や筍など苦いものが多いのは冬に脂肪をためこんだ体をリフレッシュさせるため。旬の食材を食べると自然に栄養のバランスも保たれる」と語った。

 この日の給食は、カルシウムデー&「まごわやさしい」メニューとして、小魚と、まめ・ごま・わかめ・やさい・さかな・しいたけ・いものうち「わかめ」以外を取り入れたバランスのとれた献立。毎日残菜が1%台というだけあって、この日も食缶は空になっていた。

 二葉小学校
 普段の食育を"丁寧"に学ぶ

 二葉小学校は、2・3校時に授業が行われ、4年生は同じ東京都だが約280ワ離れている「八丈島」からゲストを迎え、「私たちの県『浜のかあさんと語ろう』」(社会科・総合的な学習)を2時間通して学んだ。

 八丈町役場産業観光課産業係主事の大宮晴香氏が講師となり、同町の漁業を中心に紹介。八丈島といえば「トビウオ」「金目鯛」などの漁が盛んだが、なぜ盛んなのかについて大宮氏が島や海の地形、黒潮の恵みなどと共に説明した。「トビウオ」が海上を飛ぶ写真を見せると児童は目が輝き、「1度に400mくらい飛ぶんですよ」と聞くと、大歓声が沸き起こった。

八丈島 漁協女性部 トビウオ
八丈島の漁協女性部メンバーが島
ならではのトビウオなどを持参

その後漁協の女性部のメンバーが持ってきた、トビウオ、ムロアジ、ナメモンガラ(カワハギの仲間)を捌いて焼き、児童らが試食した。

 その他の公開授業は、給食(1年・学活)、骨の役割(2年・生活科)五味(3年・総合)、食料生産(5年・社会科)、朝食(6年・家庭科)。水谷校長は「食育推進全国大会だから特別なことを行ったわけではなく、普段の食育のカリキュラムを皆さんに見ていただきました。家庭と協力して子供たちの生活を今後も見直していきたいと思います」と話す。

 

【2015年7月20日号】

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