来年4月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が施行されることを受け、学校図書館に求められることとは何か。(公社)全国学校図書館協議会(以下、全国SLA)は、全国の特別支援学校図書館を対象に調査を実施。その調査報告会を6月20日、都内で開催した。
特別支援学校対象調査 予算面では大きく後退
野口武悟氏 |
全国SLAでは、特別支援学校図書館調査委員会を設置し、全国の特別支援学校本校(1048校)を対象に2013年に調査。678校(64・7%)より回答を得た。
学校図書館の設置率は総合で94・0%、聴覚100%で、肢体不自由は89・9%、知的障害では79・9%と差がみられた。未設置の理由は、「児童生徒数の増加に伴い、普通教室に転用している」などがあげられた。
学校図書館運営に関する年間予算額は、特別支援学校全体で1校平均16・8万円(公費14・3万円、私費2・5万円)。専修大学文学部の野口武悟教授が2007年に同様の調査をした際には、1校平均は22・6万円であったことから、予算面では大きく後退している。今回の全国SLAの調査委員会委員長も務める野口氏は「特別支援学校だからこそ、児童生徒への合理的配慮の提供と基礎的環境整備が必須」とし、施設・メディア・職員のより一層の充実が不可欠と述べる。
「学校図書館のユニバーサルデザインを考える」と題した今回の調査報告会では、今後学校図書館で必要となる対応を検証した。
特別な支援が必要な児童生徒は現在、特別支援学校だけでなく、通常の学級にも在籍している。文部科学省が2012年に発表した調査結果では、知的発達に遅れはないものの学習面または行動面で著しい困難を示す児童生徒の割合は6・5%と推定される。
学校図書館は、支援が必要な児童生徒も、そうではない児童生徒と同等に利用できるようにならなければならない。つまり全ての学校図書館において合理的配慮が必要となる。これは外国籍の児童生徒も当てはまる。
実際にはどのような配慮が必要なのか。野口氏は主な基礎的環境整備として、(1)施設・設備や利用方法のバリアフリー化(ロン・メイスの「ユニバーサルデザインの7原則」)、(2)分かりやすいサイン・掲示(ピクトグラムなど)(3)補助具の用意(リーディングトラッカー、カラークリアファイル、拡大読書器などを自由に使えるようにする) (4)バリアフリー資料の整備、を挙げる。
【バリアフリー資料の例】拡大文字や布の絵本 をはじめ、イラスト部分が浮き出る加工により 手で触れて絵がわかるもの、LL(Lattlast)ブッ ク(ほぼ写真や絵でストーリーを伝える)など |
合理的配慮については、代読(対面朗読)の提供や、ニーズに応じたバリアフリー資料の制作が挙げられる。それらについては、(公財)伊藤忠記念財団の矢部剛氏が詳細を解説(写真右)。同財団では、大型テレビやタブレットPCなどで利用する電子図書「マルチメディアDAISY」を制作、全国の学校や図書館に配布している。
動線の工夫や探究学習にも挑戦
東京都立墨東特別支援学校では、3階高等部フロアにあった図書館を1階に移動。図書コーナー、おもちゃライブラリーを経て図書館へと、車いすによる動線がスムーズになった。ボランティアによるお話の会、新聞のスクラップノート作り、立位の訓練をしながらお話を楽しむマルチメディアDAISYの活用等で子供たちの読書欲を高め、保護者からも好評だ。
狛江市立緑野小学校えのき学級(知的固定特別支援学級 児童数13名)は、1万7000冊の蔵書と常に司書教諭と連携できる環境を生かし、お勧めの本を発達過程で7種類に分けた。担任が立てた一人ひとりの計画表に基づき、サケの生態や大根の種類などを調べる探求学習にも挑戦した。
事例発表後のシンポジウムでは、特に知的支援教育の現場で学校図書館の必要性が理解されにくい現実が指摘された。これについて校内事例の発信などの意見が交わされ、さらに図書館と視聴覚メディアやマルチメディアDAISYなどの機器を同一分掌で管理する提案もされた。出版社へは、絵本以外でも発達段階に応じて再編集した出版物の要望もあった。
学校図書館の十分な広さや人員、設備獲得のためには、公的な折衝も必須案件だ。ボランティア等の受け入れには、より開かれた学校づくりも鍵となる。全国SLAでは、今後も学校図書館のユニバーサルデザインを推進する。
【2015年7月20日号】
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