「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」を育むにあたり、地域社会の力を借りた学びが増えている。出前授業の充実もその一つだ。東京都墨田区では、小中学校に共通の出前授業メニューを提供し、学校と地域社会との相互連携の橋渡しを行うため、平成21年度より「学校支援ネットワーク本部」を教育委員会事務局内に設置。2月23日の「第6回墨田区学校支援ネットワーク・フォーラム」では事業報告などが行われた。
区のフォーラムで事例発表が行われた |
多彩な授業メニュー約200種を提供
事例報告では、(公財)墨田区文化振興財団とNPO法人三味線音楽普及の会より、活動が報告され、具体的な授業の内容が示された。
学校からは両国小学校と隅田小学校から学校支援ネットワーク事業の活用の実態を報告。食育での活用や地域の人たちと関わることで郷土を知る学び、教科と連動させた学習など幅広い活用が行われている。
墨田区学校支援ネットワークがコーディネートする出前授業は、言語活動、理数教育、伝統・文化、道徳教育、外国語教育(国際理解教育)、情報教育、環境教育、ものづくり、キャリア教育、食育、安全教育(セーフティー教室)に分類され、約200種と、様々なニーズに応えている。
授業成功の鍵は、丁寧な事前の打ち合わせ。低学年であるほどそれは重要となり、各学校の子供たちの実態を踏まえながら教員のアイデアを盛り込むこと、講師と教員の役割を明確にすることも大切だ。
メリットとしては、地域産業に対する理解が深まり、大人が働く姿を目の当たりにすることでキャリア形成に対する意識が芽生え始めることなどが挙げられた。いくつかの講座を学校公開に合わせて行った両国小学校では、保護者の学びにもつながったという。今後の課題は、日時の調整や準備の時間、授業とのさらなる連携などで、計画的に進めていく必要がありそうだ。
隅田小学校の西中克之教諭は墨田区に異動し、この学校支援ネットワーク事業にまず大きな衝撃を受けたという。冊子に索引つきでまとめられている出前授業の数々、そして相談や調整は本部が行うため、教員の負担が少ない。「この事業は、授業づくりの応援団だ」と話す。
地域の一員を自覚し子供たちが主体的に
フォーラムの最後に指導・講評を行った東京女子体育大学名誉教授の尾木和英氏は、子供たちの育てたい能力・態度として批判的に考える力、未来を予測して計画を立てる力、多面的・総合的に考える力、コミュニケーションを行う力、他者と協力する力、つながりを尊重する力、進んで参加する力などの「21世紀型能力」を挙げる。
しかし、その力を学校教育で育むためには弱点もあり、教員は指導を開発していく力が必要。そこを補完する意味でも、このネットワーク事業の力があると評価した。「学校だけの力では教育の資質を高められない。ネットワーク事業は子供たちが社会を意識し、地域の一員と自覚しながら主体的に活動ができ、自信をもつことができる」と尾木氏は話す。
なお、平成27年度より事業内容の変更はないものの、一部業務を特定非営利活動法人スカイ学校支援ネットワークセンターに委託している。
【2015年4月20日号】
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