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知らず知らずに音楽(BGM)の影響を受けて生活しています。
例えば、スーパーマーケットに行くと購買意欲を高めるような音楽が流れていますし、レストランや旅館では優雅な音楽が心を穏やかにしてくれます。最近では、百貨店のエレベーターや駅のトイレでもBGMが流れています。その理由は不安やストレスを緩和してトラブルを予防するためだそうです。
このようにBGMが人に与える効果や力は予想以上に大きいのです。本稿ではこのBGM効果を、「学校現場」で活用している取り組みを紹介します。
宇都宮市立簗瀬小学校教諭であり、この取り組みの推進者でもある高橋正和教諭(児童指導主任・教育相談担当)から、事例を紹介してもらいます。
宇都宮市立簗瀬小学校(設樂富男校長)では、児童一人ひとりが、安定した心の状態で学校生活を送れるように、校内の音環境を活用し、登校時や朝の活動時、休み時間、授業スタート後1分間などの時間帯を中心に、モーツアルトの曲を放送して2年目になりました。
モーツアルトの曲は「癒し効果」が期待できるため、心の安定や脈拍の安定、集中力を高めることなどが取り組みのねらいです。1年目は休み時間に「フルート&ハープのための協奏曲第2楽章」を校内に流すことからスタートしました。
教員へのアンケートでは、▼休み時間はいつも気忙しかったが心に余裕が生まれた▼職員トイレで流れる音楽を聞きながらホッと一息つく▼授業の雰囲気を崩さず休み時間に入ることができる、などの意見があがり、効果を感じてくれたようです。
児童からも▼廊下を走る人が減った▼やさしい気持ちになれる、などの声が聞こえてきました。
2年目にはPTAの協力もあり、デジタルプログラムチャイムを放送室に設置し、システム化することができました。そして、休み時間以外の場面でも実践をスタートさせました。
登校時間は「アイネ・クライネ・ナハトムジーク第2楽章」、朝の学習は「ピアノ・ソナタ第15番ハ長調第2楽章」と「ピアノ・ソナタ第11番イ長調第1楽章」、授業スタート後1分間は「ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調第2楽章」を放送しています。
児童一人ひとりの心が安定し、教員も心穏やかに児童と関われるようになり、学校全体がさらに落ち着いた雰囲気になってきました。それにより、教員の精神衛生も保たれています。今後さらに研究を進めていきたいと思います。
筆者は、教職員のメンタルヘルスを考える時にまず「学校現場の環境を整える」ことに注目し、教室や職員室の物理的な環境(壁の色や掲示物、照明の明るさや色など)にも注目します。これらは主に視覚刺激からメンタルヘルスに良い影響を与えようというものです。簗瀬小学校の取り組みは、聴覚からの刺激を活用したものです。
さらに学校にはそれぞれの「匂い」があります。玄関、廊下・階段、教室、職員室、トイレにもそれぞれの「匂い」があります。この「匂い」を「癒しの香り」にすること、つまり臭覚刺激の活用です。
このように「五感」に良い刺激を与えて教職員や児童生徒たちのメンタルヘルスを向上させることはとても有意義なことです。「五感に働きかける」という視点から学校環境を整えることをお勧めします。
【2014年11月17日号】
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