学校図書館を授業で活用するために重要な役割を果たすのは司書教諭、そして学校司書だ。今年6月には学校図書館法が改正され、学校司書が初めて法律上に位置付けられた。(公社)全国学校図書館協議会(全国SLA)、(公財)文字・活字文化推進機構 学校図書館整備推進会議では、今年5月、学校図書館整備施策に関する悉皆調査を自治体対象に実施。1次集計の時点で、10自治体が「今年度初めていわゆる『学校司書』を配置した」と回答。これを受け、本紙はこの10自治体にアンケートおよび聞き取り調査を実施。導入の流れや変化等について聞いた。
現在、全国の小学校の47・8%、中学校の48・2%(平成24年度文部科学省調査)に、常勤・非常勤を含め学校図書館担当職員(いわゆる学校司書)が配置されており、自治体によって呼称は様々だが、いずれも学校図書館の運営をサポートしている。その学校司書を巡る動きは大きく3つ。
(1)地方財政措置から
「学校図書館図書整備5か年計画」(第四次)は、平成24年度からの5か年で、▼学校図書館の図書標準の達成▼学校図書館の新聞配備▼学校図書館担当職員(いわゆる学校司書)の配置、の3つを挙げている。
特に学校図書館担当職員の配置については、初の措置となった。財政規模は約150億円、その内訳は1週あたり30時間、おおむね2校に1名程度の職員を配置することが可能な規模となっている。
(2)学校図書館法の改正
今年6月「学校図書館法の一部を改正する法律」が可決され、学校司書が初めて法律上に位置付けられた。新たに第6条を設け、「専ら学校図書館の職務に従事する職員(次項において「学校司書」という)を置くよう努めなければならない」とした。
さらに同条第2項では「国及び地方公共団体は、(中略)研修の実施その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と規定している。
学校司書の配置を法律が後押しする形だ。
(3)文部科学省概算要求
3つめの動きは、文部科学省の平成27年度の概算要求だ。(2)の法改正等を踏まえ、新規事業「司書教諭及び学校司書の資質の向上等を通じた学校図書館の改革」として、概算要求額6680万円を計上している。主な内容は▼学校司書の資格や養成の在り方等に係る調査研究事業▼学校図書館活用促進のための学校司書等の資質能力向上事業▼司書教諭養成講習会。
また『教員の「質」と「数」の一体的強化』のための予算の中で、定数改善を計上している。学校を取り巻く環境が複雑化・困難化する中、教員に加えて多様な専門性を持つスタッフを配置し、1つのチームとして学校の教育力を最大化する「チーム学校の推進」にあたり、「学校司書」「ICT専門職員等」の専門人材の配置充実が挙げられている。
前出の全国SLA等の調査で、「今回の地方財政措置に基づく学校司書(学校図書館担当職員)の配置の予算化状況について」予算化したと回答し、さらに「配置していなかったが地財措置に基づいて新たに配置した」と回答した10自治体は、北海道士別市・登別市、岩手県岩手町、福島県本宮市、埼玉県春日部市、千葉県多古町、新潟県胎内市、大阪府交野市、兵庫県神戸市、山口県周防大島町。
本紙ではこの10自治体にアンケート調査および聞き取り調査を実施し、9自治体から回答を得た。なお、各自治体での呼称は「学校司書」のほかに、学校図書館支援員、読書活動推進員等の場合もあるが、ここでは「学校司書」と表記する。
それによると、「平成26年度から新たに学校司書を配置する契機」(複数回答)として、「教育委員会のビジョン(策定計画)」を挙げる自治体が最も多く、次いで「現場(学校図書館、司書教諭など)からの声」となった。また教育長の意向や、学校司書の法制化を挙げる自治体も2件あった。
小・中学校同時に学校司書を配置することができるのが理想だが、各自治体が抱える様々な事情から、まず小学校への配置に予算を組んだと回答したのが4自治体。
「まだ小さいうちに読書習慣をつけることで、中学生になってからの学校図書館の利用に繋がると考え、小学校を優先した」という意見が聞かれた。一方、先に中学校に配置したという自治体では「中学校1校に対し、小学校2、3校から生徒が集まってくるため、まず中学校に配置する計画」という声もあった。
「学校司書導入後、どのようなメリットがあったか」の質問に対しては、「学校図書館の運営が円滑になった」「学校図書館の環境整備が進んだ」との声が多い。また、複数のメリットを挙げる自治体が多いのも特徴として見られた。
士別市では、前出の2点に加え、読書活動や調べ学習・探究型の学習が活発になったほか、学校図書館の図書の貸し出し数が増えた。登別市も士別市と同様で、さらに「市立図書館との連携が強化された」と回答。岩手町では「司書教諭の活動が円滑になった」「地域との交流が増えた」とする。
学校司書の導入によって、学習面や地域との連携など、様々な面で効果が現れているようだ。
その一方で「学校司書導入後の課題」として、最も多かった回答も「学校図書館の環境整備」で、回答した自治体のうち4自治体が挙げている。
これは「来年度以降の学校図書館について、予算化を前向きに検討していること」に対し、学校司書の配置増以外では「図書購入費を増やす」「図書等のコンピュータ管理の導入」に回答が集まったことにも表れている。
学校司書を導入したことで、学校図書館の環境整備の必要性が改めて浮かび上がってきたと言える。
交野市は、以前は調べ学習に対応した本について公共図書館に教員が貸し出し依頼を行っていたが、学校司書を導入した今年度からは、学校司書が団体貸出を行っている。そういった中「蔵書に偏りがあることが分かったので、特に教科で活用するためのテーマの本は、学校司書から教員に選書の際の参考として伝える予定」という。
「今後取り組んでみたいこと」については、「公共図書館と学校図書館との連携」を5自治体が挙げている。コンピュータ管理の導入についても、3自治体が前向きに検討している。
コンピュータ管理の例として、多古町は10月からの学校司書の配置を前に、夏休みの期間を利用してすでに公共図書館に導入していた本の管理システムを、小・中学校の学校図書館にも導入した。現在のところ各校単体での運用だが、今後は各校・公共図書館をネットワークでつないだ活用も視野に入れている。他にも既に市立図書館と小・中学校の学校図書館のネットワークが構築されている自治体もあった。
小学校167校、中学校82校と分校2校、特別支援学校6校を抱える神戸市では、教育委員会のビジョン(策定計画)や市議会議員からの発議などのほか、現場からの声として、司書教諭、さらに学校図書館ボランティアや読み聞かせボランティアからの、学校司書配置の要望があったという。
規模の大きい同市では、今年度はモデル配置として小学校20校、中学校10校に配置(各校1人の専任/月〜金勤務)。研修を経て10月から各学校で勤務を始めている。
同市では校長会等の機会に学校図書館や学校司書の役割について説明を行った。またモデル配置校向けの説明会では管理職の理解を深めたうえ、各校を訪問し、司書教諭も交えた聞き取り等を行った。こうした事前準備を進めるなかで、各校の学校図書館活性化への理解が深まったという。
兵庫県学校図書館協議会会長の岡本玲氏(神戸市立押部谷小学校校長)は「6月に成立した法律では学校司書の研修については言及しているが、学校側については触れていない。しかしこれまで学校司書の配置が全く経験のなかった学校にとっては、学校側としての準備がとても重要」と話す。
押部谷小では、夏休み期間中を利用して校内の教職員で研修会を行い、学校司書の配置にあたり学校司書が学校教育のどの部分を担うのか、教員からどのようなアプローチが必要か、教員との連携で何ができるのかなどを話し合い、準備を重ねたという。さらに、10月1日からの勤務を前に学校司書が学校を訪れ、事前の打ち合わせを行い、スムーズな活動がスタートしたところだ。
神戸市の学校司書は司書資格のある人を募集したということもあり、「配架などについては、学校司書の意見も聞いてから、今後整備することもできる。まずは受け入れ側の学校の教員たちが、学校司書について知らなくてはならない」と岡本氏は話す。
【2014年10月20日号】