2020年に東京で開催される夏期オリンピック・パラリンピックが決定し、「スポーツ食育」にも注目が集まっている。関東農政局では若い世代へ向けた食育月間企画として、6月にさいたま市で「スポーツ栄養学から食を考える〜今、なぜ『スポーツ食育』なのか。」を開催。スポーツ栄養学やトップアスリートの食習慣を取り上げた。
スポーツの指導者や保護者らが参加 |
スポーツをしている子供をもつ保護者や、自身の体を整え良いパフォーマンスを発揮したいと考える学生は多いはず。高崎健康福祉大学健康福祉学部健康栄養学科教授の木村典代氏は、講演でその疑問に答えた。
エネルギー消費量に注目
木村氏はまず注目してほしいことは、一人ひとりのエネルギーの消費量だという。「体重×練習時間×運動強度(メッツ)×1・05」で、おおよその消費エネルギーがわかる。3時間程度サッカーの練習をする体重60キログラムの中3男子であれば、練習で800〜1200キロカロリーを消費し、帰宅部の同世代と比較すると約1食分の差が生じる。
「その差は朝夕の食事で補完する必要があり、1食抜くというのは言語道断。ある調査ではスポーツをしている高校生の97%が朝食を喫食していると回答したが、中身に問題があり、実際は朝食の内容が不足しているという現実があります」と懸念する。
副菜は2品を目指し 疲労感には炭水化物
スポーツをしている子供には主食、主菜、乳製品、副菜、果物が必須で、ポイントは副菜を2皿にすること。3食で摂りきれないエネルギーは、おにぎりやパン、乳製品、100%の果汁飲料やゼリーで補完することが望ましいとする。
特にサッカーなどの高強度運動時には、炭水化物の摂取が重要で、それは疲労感の増加とも関係。「"疲れた"と頻繁に訴える選手がいるならば、主食の量をチェックして下さい」と話す。中学生は特にダイナミックに身体が変わる時期。体重から体脂肪を引いた「除脂肪体重」に注目し、筋肉と脂肪の変化を見ることも大切だという。
健康にスポーツを続けるための食生活は、大人が「身体づくりのため」と強いるよりも、「ケガを治すため」「強くなるため」というモチベーションと結びつけたほうが効果的で、良い事例を蓄積し、食行動を長期的に「ほめる」ことによって行動が変容する。
「究極のスポーツ食育は40歳を過ぎても活躍できる身体をつくること。そのためには、本人の食意識と食行動、そして食環境が大切」と話す。
食べ過ぎは疲労にも
工藤公康氏 |
パネルディスカッションは、早稲田大学スポーツ科学学術院准教授の鳥居俊氏をコーディネーターに、プロ野球選手として29年現役生活を続けてきた工藤公康氏らが意見を述べた。
ナイターの多いプロ野球選手は、不規則な生活が続く。不摂生で肝臓を患っていた工藤氏は、結婚後家族の支援で身体を維持してきたが、食事については「ストレスを感じない食生活が大切。疲労をとる食事にも気をつけました」と語る。
ウォーミングアップから試合まで約2時間。その限られた時間の食事は重要で、食事をとりすぎるチームは満腹感で集中できず、消化も終わらないため3、4回くらいに疲労の色が見える場合もあるという。
スポーツ栄養の観点を身に付けた指導者に
また、工藤氏は少年野球の子供達がひじや肩の障害が多いことを懸念し「野球手帳」の普及に尽力しており、すでに新潟県で発行されている。「その中に食の大切さを盛り込みたいと思っています。日本プロ野球機構では、本年度からジュニアの指導者講習会にスポーツ栄養を取り入れました」と話す。
同じくシンポジストの一人、関東農政局水戸地域センター総括農畜産安全管理官の鶴岡佳則氏は、公的な立場と、少年野球指導を約10年経験した指導者の立場から意見を述べた。
小1生から小4生を指導する中、外で購入した簡単な食事で昼食を済ませる子供が多いことを懸念。せめて一品手作りのものを全員に食べさせたいと、保護者に協力を得て豚汁を作って食べさせるようにした。
鶴岡氏は「普段は食べられない根菜類を食べられるようになった子供もいました。これまでなかなか参加しなかった保護者も手伝いに来るようになり、それにより子供達が張り切り、チームが強くなったのです」と、食とチーム力の関係性について伝えた。
【2014年8月18日号】