本年度より東京都江戸川区は「読書科」を完全実施する。平成21年度の「読書改革プロジェクト」で全小中学校が文部科学省の教育課程特例校の指定を受け平成24年度より実施し、本年度への運びとなった。「本好きな子供を育てる。本で学ぶ子供を育てる」ことが目的だ。「読書を通じて心豊かな子供達になってほしい」。それが、教育委員会の願い。同区教育委員会統括指導主事の中山兼一氏に、構想から現在までの動きについて話を聞いた。
江戸川区教育委員会 統括指導主事 中山兼一氏 |
江戸川区の読書科は、「目的をもった読書」を実施しようと平成21年度から「読書改革プロジェクト」を立ち上げ、「朝読1000分」を全小中学校で実施するところから始まった。
そもそも朝の読書活動(朝読)は行われていたが、読む「時間」の確保に留まらず、読書の質と量を高める必要があること、幅を広げることなどが、これまでの読書活動に不足しており、読書科の設置が進められていった。
心豊かな子を育む 4つの大きなテーマ
読書科の設置に当たっては、(1)読むだけの時間から目的をもった読書時間へ、(2)考えを深め想像力をはぐくむ豊かな読書、広がる読書へ、(3)感動を分かち合う交流する読書、深める読書へ、(4)自由な意見や発想を尊重する読書へ、の4つを大きなテーマに据えた。
平成22年度からは、具体的な内容の検討に向け「読書科検討委員会」を設置。教育委員会のメンバー等、外部の有識者を交え議論を進めた。
「読書に関しては様々な意見がありますので、外部の方の意見も参考にしながら固めていきました」
2つの構成で実践
読書科の構成は、読書に親しむ時間「朝読書等」と、読書から学ぶ時間「読書活動」の大きく2つにわけられる。「読書活動」では"調査・発表スキル学習""学校図書館利用""読書表現活動"が行われる。
「朝読書等」はモジュールで、「読書活動」は1時間単位で実施し、24年度は読書科の総時数が25時間以上、本年度からは35時間以上で確保。読書科の総時数のうち、「朝読書等」の割合は小学校で総時間の6〜7割、中学校で7〜8割だ。
教委は事例集を作成「学校応援団」も活躍
小学校は、「読書活動」を各教科等の「標準時数」に各学校の実態に合わせた形で「授業時数を上乗せ」し、中学校は各教科の標準授業時数内に読書活動の時間を組み込む。
教育委員会では「指導事例集」を作成し全校に配布、ウェブ上でも見られるようにしている。
「事例集を軸に各校で年間計画を立て、教科とのつながりを意識した読書科を各校の実態に合わせて実施しています。"学校応援団"のボランティアが読み聞かせなどの読書活動に関わってくれたことも、これまでの大きな成果だと思っています。多くの学校で保護者や地域の方が様々な形で関わってくれることで、子供と本を共有することにもつながっていますし、学校図書館づくりにも貢献してくれています」
学校応援団とは、地域・保護者・家庭が連携し、学校を取り囲む地域全体で子供を見守り、育てていこうとする活動だ。24年度の調査ではボランティアの多くが、「図書整備」、「読み聞かせ」といった学校図書館活動を支えていることがわかっている。
また、児童生徒が読書から得たものを「表現する力」が身につきつつあると中山氏は考える。
「ある中学校で本の帯紙を授業で作ったものを見せてもらいましたが、その表現方法が素晴らしいものでした。本をきちんと読んでいることが伝わり、他にも読書新聞など様々な表現方法で読書の成果を表す力が育ってきていると感じています」
学校の意向で蔵書充実 学校間貸出しも可能
読書の充実を図るためには、蔵書の充実も必要になる。学校の意向を反映して蔵書は進められており、どの学校が何を購入しているのかリスト化され、他校へ貸出しすることも可能だ。
例えば、ブッククラブなどの読書表現活動では、同じ本をある程度まとめて使用するため、その購入を重視する学校もあれば、生き物をテーマにした本を揃えるなどテーマを決めて蔵書する学校もある。
読書活動指導法研修で「手立て」を学ぶ
指導する教員のスキルも、当然重要になる。全小中学校に司書教諭(兼務)がおり、年3回の「学校図書館司書教諭研修」が行われている他、管理職から教諭まで誰でも参加できる「読書活動指導法研修」を年3回実施している。
司書教諭の研修は学校図書館の活用コーディネート方法を重視しているが、読書活動指導法の研修は、調べ学習や読書活動推進の手立てなどを学ぶ。
評価方法については、読書科のねらいに則し子供達の様子を反映している。「数値で表すのではなく、具体的な行動変化等も適切に示せるような、評価の工夫が必要であると感じています」
教育委員会は枠組み作りを担当し、内容を押し付けるのではなく、あくまでも学校の実態に応じて自由に読書科を作り上げていく。それが、江戸川区の読書科だ。
【2014年4月21日号】