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毎年この時期は、来年度から職場復帰を予定している教員が復帰のためのリハビリを開始する時期にあたります。今回は職場復帰に寄り添うことが主な役割の一つになっているメンタルヘルスカウンセラーの立場から、休職者が職場復帰に至るまでに遭遇するいくつかの課題について取り上げてみたいと思います。
「安心して休めない」 現状の復帰プログラム
結論から言えば、現在の「職場復帰プログラム」は、「休んだ本人が、自分で病院を受診して、治して学校に戻っていらっしゃい」という内容になっており、決して教員が「安心して休めるシステムになっていない」ということです。
まずメンタルが不調に陥ると、90日以内で病気休暇が取得できます。経験者に聞くと、学校のことが気にならないで休めるようになるには、1か月くらいはかかるようです。
次の1か月でゆっくりできたと思ったら、もう残りの1か月で職場復帰のためのリハビリが始まるのです。病状の程度にもよりますが、実際には90日くらいではなかなか心身ともにリフレッシュできないのが実情のようです。
継続的な支援を行う「システム」「人」が重要
しかも、実際に休職に入ると、教育委員会や管理職との関わりも事務連絡等で本人に接触する程度に終始してしまう傾向があり、医療機関への通院以外に本人に対しての具体的な援助がほとんどないのが現状です。医療機関によっては、診察数分、大量の投薬で対応する所もあり、それだけではいくら長い期間休んでいても快方に向かうのは難しいようです。
このように教育現場の場合は、通常、休職した教員に寄り添い、継続的な支援を行うような「システム」や「人材」が用意されているとは言えないのです。
その後、回復が思わしくない場合には引き続き「休職」に入ります。特に来年度から復帰予定の人は、ちょうど今の時期、復帰に向けて各都道府県で実施される「健康審査会(自治体により名称が異なる)」の審査を経て、復帰の許可が下りた後、来年1月から3か月ほどかけて「職場復帰プログラム」に沿った本格的な“慣らし運転”が始まります。
一人では越えられない 復帰に際する不安材料
さらに、1月から開始される職場復帰のリハビリの際にも、本人にとっては気になる不安材料があるのです。細かなところですが、例えば、久しぶりに職員室に行ってみたら、自分の座席を代替教員が使用していて居場所がなかったとか、自分が休んでいる理由について、保護者や子どもたちにはどのような説明がなされていたのか不安に思ったり、パワハラ等で管理職に対する不信感が払拭されていないまま復職を迎えるケース等もあるからです。
このように、休職に入る時から復職に至るまで様々な課題が立ちはだかり、一人で乗り越えようとしてもなかなか難しい局面があるのです。
そんな中から、復職可能かどうかのキーワードが一つ見えてきます。それは、「他人に対して安心できるかどうか」ということです。人とかかわる力(対人関係能力)というのは、「集団の中に居てこそ」身につくもの、それを自宅に引きこもったままでは問題は解決しないのです。
復帰に際しては少なくとも、休職中は子どもたちや職場の同僚に対して何らかの迷惑がかかっていたという事実を充分に認識した上で、感謝やお礼の一言がいえるといいですね。その後、焦らず、自分の出来ること(マイベスト)から始めていけばよいのですから。
執筆=土井一博(どい・かずひろ)日本教職員メンタルヘルスカウンセラー協会理事長、川口市教育委員会学校教職員メンタルヘルスチーフカウンセラー、順天堂大学国際教養学部客員教授(教職課程)
【2013年12月2日号】
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