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第4回 【教職員のメンタルヘルス】心の悲鳴に耳を傾ける

「赤信号」が点く前にできること

「たかが雑談」、「されど雑談」 人となりを知る時間を大切に

校長からの緊急連絡

 「夏休みに面接をして頂いたA教諭ですが、先ほど、学校を休みたいと言ってきたので、とりあえずカウンセラーに話を聞いてもらおうということで連絡を入れました」

   とある小学校の校長から一本の緊急連絡が入りました。小学1年生の担任をしていたA先生ですが、お会いしてみると、せきを切ったように涙が溢れだし、ぽつぽつと話し始めました。

   クラスの中に粗暴な男の子(仮にK君とする)がおり、指導に従わないのはもとより、授業中は離席を繰り返してはクラスメートに暴力を振るい、大声で叫び声をあげたりして授業にならない。支援員も応援に来ているが、強い指導をしないのをいいことに、わがまま放題。聞くとK君は複雑な家庭環境に育ち、小さい頃からネグレクトを受けている様子で、朝食も食べずに、パジャマのまま登校したこともあるそうです。

重なる休職の事情

 それだけなら、休職を決意するまでには至らなかったかもしれませんが、さらに話を聞くと、新たな事情が重なっていることがわかりました。1年生は2クラス編成でコンビを組んでいるのは、50代女性の学年主任でした。毎日やっとの思いで授業を終えて職員室に戻ると、「あなたが担任なのだから、何とかしなさいよ」と突き放すような学年主任のひと言。さらに1週間後には、研究発表本番が控えピリピリしており、みんなが自分のことで精一杯。女性教頭や一部の同僚には話を聞いてもらっていたようですが、それもついに限界が訪れたようです。

 「そんな状況の中で、ここまでよく頑張ってこられましたね」と声をかけ、A教諭は週末の連休を利用して、数日間の年休をとり、心身共にリフレッシュすることになりました。

 最近、学校訪問をすると「みんなで助け合える職場をつくろう」とか「SOSを出せる職場にしていこう」などのキャッチフレーズをよく聞きます。その一方で、なぜ同じ職場の同僚なのに前述の学年主任のような"心ない対応"しかできなくなるのでしょうか?

 職員室におけるコミュニケーションを分析してみると、大きく分けて「仕事内容に関する会話」と「雑談を含めたインフォーマルな会話」に分かれるようです。特に後者のようにお互いの抱える問題や事情を伝え合う話というのは、会議や研修といった改まった機会ではなく、雑談や和やかな雰囲気の中で話されるものなのです。しかも、周囲にまで影響が及び、追いつめられた状況になってからでは、当事者に対する「不満」としてしか伝わらない性質の話なのです。

 「たかが雑談、されど雑談」です。もう一度管理職をはじめ、教職員全体で、インフォーマルな会話の重要性について再認識した上で、新年度の初出勤日や各学期の始まる直前に、雑談の時間を設けてお互いの"人"と"なり"を知り合う機会にしてください。

管理職は具体的な対応と教職員の動きの想定を

 今後、教職経験にかかわらず、誰のクラスでも学級崩壊が発生する可能性があります。ぎりぎりの人数でやりくりしている小学校などは、安易に"助っ人"を補充できない事情も踏まえて、具体的な対応策と教職員の動きを管理職が想定しておかなければならない時代になっています。これまで、若手教員を比較的負担のない3、4年生に配置できていましたが、団塊世代の教員が退職すると、新採や臨任教員でもいきなり1年生や高学年を担任しなければならない時代がすぐそこまで来ているのです。

執筆=土井一博(どい・かずひろ)日本教職員メンタルヘルスカウンセラー協会理事長、川口市教育委員会学校教職員メンタルヘルスチーフカウンセラー、順天堂大学国際教養学部客員教授(教職課程)

【2013年9月16日号】

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