OECDが初めて実施した国際成人力調査(PIAAC=Programme for the International Assessment of Adult Competencies)の国際報告書が10月8日に公表された。国立教育政策研究所は、日本に関係が深い部分をまとめて分析。それによると日本の成人は、読解力、数的思考力において平均得点で参加国中1位であった。
「読解力・数的思考力について日本の成人は世界1位」という結果について我々は、疑念も安堵も抱くべきではない。
低位の少なさは一斉授業の長年の成果であり、低位レベルの少なさが平均得点を押し上げ、その結果首位となったに過ぎない。また、トップグループは少ないという点で、平均点が首位であったとしても安堵できる結果とは言えない。
さらに詳細を見ると、今後解決すべき課題がより深刻であることがわかる。
現在「デジタル教科書」や「英語改革」など教育をめぐる様々な議論が繰り広げられており、合意が形成されることなく議論が長引いているが、このPIAACの結果にその理由の片りんが見える。
「読解力・数的思考力について日本の成人は世界1位」であったが、「ITを活用した問題解決能力」についてはOECD平均並み。さらにこの調査についてコンピュータ調査を受けなかった者(コンピュータ経験なし、紙調査を希望した者、あるいは受ける力がないと判断された者)の割合が36・8%(OECE平均24・4%)と高い。
より詳細に見ると、コンピュータ調査を受けるスキルがないと判断された日本人は10・7%と参加国中最も高い。また、コンピュータ経験がないと回答した成人の割合及び紙調査を希望した日本人はOECD平均より高い。
これらの結果から日本の大人はコンピュータの使用頻度が参加国・地域の中で最低水準にあることがわかる。
さらに、国立教育政策研究所は「日本の中高年は受けた教育の水準が高く、長期にわたり能力を維持している」と指摘。
本ではいずれの能力についても20代後半がトップにあるものの、数的思考力では50代前半まで高い水準を維持しており、読解力においては、40代前半は20代前半より高い能力を持つ。
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長期にわたり能力を発揮しているということは、発言力も大きいということでもある。その発言力の大きい人々が「コンピュータの使用頻度が参加国・地域の中で最低水準にある」と仮定すると、コンピュータ等を活用する教育に対する反対派が多くなるのもある程度は仕方がない。
発言力が大きく成功を収めている人の多くは反対の理由を、自分が受けた教育に照らし合わせる。そしてデータでも見られるようにそれなりの成果を上げており、本調査から見ると読解力や数的理解力に関して、ITを活用しなければ身に付かないという能力ではないことを証明してもいるからだ。
しかし、グローバル化の中、インターネットを使って世界の最先端の講義を受けることができる時代を迎えており、ビッグデータの活用法をいち早く思いつき、それを活用できる人にチャンスが巡ってくる時代である。
また、PIAACの調査意図は、経済的な成功要因を教育分野から分析することにある。今、日本は成功を収めているとは言い難い。それを前提とした場合、「ITを使わなくても読解力は首位である」から問題はない、というわけにはいかない。むしろ「読解力・数的思考力」のみでは成功が難しい時代を迎えており、克服すべき課題が明らかになったと言える。
一方、「コンピュータを活用している人」のみで見ると「IT活用能力」は参加国において日本は首位。このかい離が、議論が寄り添い合うことなく教育の情報化を始めとする教育改革の進捗が遅々としている原因の1つだ。かい離の背景にもっと踏み込んで改革していく必要がある。
(編集部)
【2013年10月21日号】