子どもたちに関わる心身の健康問題は日々変化しており、正しい情報の取捨選択は難しい。我々が日々囲まれている電子機器についてもそうだ。保護者や児童生徒から「家電製品から出る電磁波や携帯電話の長時間の使用は体によくないの?」などと質問を受けた時、どのように答えているだろうか。2008年に発足した電磁界情報センターでは、昨年「学校教職員用の説明ガイド」を作成した。「本ガイドでは、電磁波(電磁界)の健康影響について、WHOの公式見解を基に説明がなされています」と、電磁界情報センターの大久保千代次所長は話す。
「電磁過敏症」に科学的根拠はない<WHOが05年に公表>
‐電磁波とはどういったものでしょうか。
大久保千代次 |
電磁波には商用周波、中間周波、高周波(電波)などの電磁界も含まれますが、一番身近な「電磁波」は、太陽光です。太陽光よりも強いエネルギーをもつのが紫外線で、その先にX線があり、これらは電離放射線で発がん性があります。太陽光よりも周波数の低い高周波(電波)、中間周波、商用周波は、非常に弱いエネルギーしかなく発がん性は持っていません。
夏場太陽光による日焼けで懲りた経験は誰でも経験済み。それと比べますと、子どもたちにも身近な携帯電話の電波エネルギーは最大でも2ワットで、夜中足元で光る豆電球の半分以下。その電波が短期的に健康影響を与えるというのは、科学的な話ではありません。
‐不定愁訴や電磁過敏症という言葉などは、電磁波の影響はないと考えて良いのでしょうか。
青少年でも携帯電話ヘビーユーザーの睡眠の質は悪いことが分かっていますが、電波の影響ではなく、夜遅くまで携帯電話を使っているためと理解されます。世界各国で子どもの携帯電話の使用と認知機能を調べていますが、影響は確認されていません。
携帯電話からの電波の青少年に対する長期的な健康影響を、日本を含めた16か国が共同調査中で、来年以降に結果が発表される予定です。
また、自分は「電磁過敏症」だという方がおりますが、世界各国の研究で「これが電磁過敏症」だという特異的な症状はないという結果が出ています。「電磁過敏症」はICD10(国際疾病分類第10版)にも存在していません。WHOは、電磁過敏症に科学的根拠が存在しないことを、各国政府が明確に声明すべきだと05年に発表し、日本でも紹介されています。
電磁過敏症の発症要因には、「ノセボ効果」が関係しています。「プラセボ効果(偽薬効果):医師から処方されると偽薬でクスリだと思い込むために病気が治る効果」は聞いたことがあると思います。「ノセボ効果」はその逆です。ある要因に嫌悪感を持っていると、その要因がなくても想像するだけで体調が悪くなる効果です。
例えば、電波に恐怖感をもっていると、稼働していない携帯電話基地局が見えるだけで具合が悪くなってしまう現象です。これはドイツの実験ですが、実際には電波は存在していないのに、自分が電磁過敏症だと思っている人のみ、電波が発信されていると脳が思い込んで反応し、痛みを感じるのが分かっています。
‐WHOでは小児白血病と商用周波を含む超低周波電磁界との関連について各国の研究を基に因果関係を否定しています。
さらには小児白血病以外の小児がん、成人のがん、うつ病、心臓血管系、生殖器、発育、神経行動、神経変性疾患、免疫学的変異なども、因果関係は認められていません。
当センターにも様々な問い合わせがあり、また、以前学校の先生方の研修会で講演した際にも様々なご意見が寄せられ、「教育現場における電磁界の知識啓発検討委員会」(議長:日本子ども家庭総合研究所・衞藤隆所長)を発足させました。
子どもたちは、自分で判断するという力が備わっておりませんので、まずは先生や保護者に正しい情報を知っていただきたいと思います。検討会では「学校教職員用の電磁波説明ガイド」を昨秋作成しました。日本学校保健会を通じて、各校にお知らせしているところですが、どなたにでもお渡し致します。他にもお聞きになりたいことがありましたら、当センターまでお問い合わせ下さい。
【2013年8月19日号】