新連載

第1回 【教職員のメンタルヘルス】心の悲鳴に耳を傾ける

大好きな子供たちにもっと関わりたい

 今年3月、文部科学省は「教職員のメンタルヘルス対策について」とりまとめた。それによると教員の病気休職者数は増加しており、平成23年度は8544名。そのうち精神疾患による休職数は5274名で、病気休職者の半数以上だ。業務の量と質の変化、職場環境と人間関係が大きく変化する昨今、この問題は見過ごすわけにはいかない。児童生徒の心と身体の健康は、家族が支えると同時に、1日の大半をともに過ごす教職員もその支えとなっている。そこで本号より、今年5月に創設された教職員専門のメンタルヘルスカウンセラーのための研究団体「日本教職員メンタルヘルスカウンセラー協会」のメンバーに、現状と課題、各立場におけるメンタルヘルスの対処法を連載してもらう。

リアリティショック

 「校長先生、今日から学校を休ませてください」

 ある朝、新規採用教員のA先生は、突然校長室にやってくるなり、開口一番こう告げました。3月までは普通の大学生だった者が、4月になったとたんに「先生、先生」と呼ばれる。

 1クラス30名前後の子どもの担任を初めて経験するだけでも大変なのに、ベテラン教員と同じ責任を負わされ、同じような結果を要求されても現実的には無理なのです。このA先生もかくして社会人になったとたんに、想像を超える仕事の質・量に遭遇し、「リアリティショック」で不適応を起こしてしまったのです。

 小学校においては、原則として子どもが学校にいる間は子どもにつきっきりなので、教員自身の仕事には取りかかれません。

行政に伝わりにくい 学校現場の“しんどさ”

 毎時間の授業準備のほかに、保護者会や学校行事等の保護者向けプリントの作成、生活ノートの点検、学級通信作り、膨大な量の報告書やアンケート調査の回答、果ては集金したお金の計算等々、このような仕事を毎日、児童の下校指導が終了する4時過ぎから取りかかるのです(教員の勤務時間の終了時刻は都道府県や市町村によって異なるが、16時45分‐17時15分前後の時間が多い)。

 その間にも出張や研修で学校を離れることもあり、そんな日は学校に戻ってきてから仕事をこなすか、土日に学校に来て仕事を終わらせるしかないのです。さらに子どもが学校内外で問題(暴力事件や不登校・いじめ等)を起こした場合にはこれらの仕事を中断して、放課後に子どもに対する生活指導を行い、場合によっては保護者面談や家庭訪問まで実施するのです。

十分頑張っていますよ

 このような職場環境の中で、「子育て」や「家族の介護」等を同時並行で行っている教員や病院に行く暇もなく私生活を犠牲にしている教員を見ていると「頑張ってください」とは決して言えません。「もう十分頑張っているのですから」。

 教員のメンタルヘルスにおいては、このように「一生懸命に頑張っている教員ほど休職してしまう」傾向に危機感を募らせています。

負のスパイラル

 また、小学校の場合教員のメンタルヘルス悪化の背景には、「教員の定数(人数)不足」という特別な事情も絡んでいるのです。

 たとえば、各学年3クラス、合計18クラス編成の小学校があるとします。担任の数も18名、一部の専科の教員を除き、それ以外の余剰人数が職員室にいないのです。ぎりぎりの人数の職場から病気休暇や休職者が発生した時などは一大事。

 代替教員が見つかるまでは残された教員でカバーするしかないが、各担任も自分のクラスで手一杯、見つからなければ管理職や教務主任が授業に行くことも珍しくありません。

 このようにして、休職者発生→同僚の負担増→新たな休職者発生という負のスパイラルに陥る学校があるのです。

 子どもが大好きで教員になった先生たちにとって、事務処理等に忙殺されて子どもたちに寄り添う時間を奪われ、立ち止まって子どもたちのことをじっくりと考える時間もない。いつまでたっても学校現場の"しんどさ"が教育行政に伝わらない失望感や無力感を潜在的なストレス要因として抱え、「具合が悪くならないのが不思議なぐらい」の状況の中で頑張っているのが教員ですから。

  みなさん、「マイベスト」でいきましょう。

執筆=土井一博(どい・かずひろ)日本教職員メンタルヘルスカウンセラー協会理事長、川口市教育委員会学校教職員メンタルヘルスチーフカウンセラー、順天堂大学国際教養学部客員教授(教職課程)

【2013年7月15日号】

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