シドニー・ブロック氏 |
精神疾患は、今や日本だけでなく世界が抱える問題の一つ。そんな中、精神医学に芸術を導入した世界で最初の活動拠点であるオーストラリアの「ダックス・センター」が保有する、うつ病患者当事者が制作した31作品を展示する「アートでふれる、うつの心と軌跡展」が、7月8日から4日間、都内の渋谷ヒカリエで行われた。
作品と同時に、ダックス・センター倫理委員会会長でメルボルン大学精神医学名誉教授のシドニー・ブロック氏も来日。
今回公開された31作品は、同センターが保有する1万5000点余りから、うつ病の多様性がわかる作品を紹介。
「うつ病は女性の罹患率が高く、妊娠や出産に際して罹患する割合が高まってきている。今回は産後うつの方、児童、思春期の方など7名の作品を持ってきました」
うつ病の多様さや個別の対応がいかに 重要かが分かる7名の作品を展示 |
9歳の少年の苦悩 強い怒りを絵に表現
最年少は、当時9歳のサイモンくん。耳の病気で小児科に通院していたが引きこもりがちで、一人でいたいという気持ちが強く学校でも一人でいることが多かった。
それに病院側が気づき、心理学的アセスメントに紹介。彼の母親は出産後に2年間重篤な産後うつを患い、その後7年間不安定な状況を繰り返した。「愛情を求めることのできない9年間を過ごした彼は、どんな気持ちだったことでしょう」とブロック氏が話すように、彼の絵は黒を多用した強い怒りが表れていたが、療法士に彼の怒りのヒントを与えることで安心した治療につながり、サイモンくんは今、落ちついた生活を送る。
心の叫びを描いた16歳 自殺までの200枚
また、16歳で自殺したローラの作品には彼女の心が表れていた。両親は彼女が14歳の時に様子がおかしいことに気付いたが、思春期が過ぎれば元に戻ると思っていた。そこから2年余りが過ぎ治療に入るが、わずか3週間で自殺した。
彼女は気持ちを言葉にできない代わりに、200枚以上の絵を描いていた。自殺の理由がわからなかった両親は、娘の気持ちが知りたいとダックス・センターに作品を持ち込んだ。
「この作品を自殺する前に見せていれば助けることができたかもしれない」(ブロック氏)。この展示会は、心の健康にアートが貢献できる可能性があることを、日本人に教えてくれた。
なお、この展示会は(一社)全国精神保健福祉連絡協議会、塩野義製薬(株)ほか3団体の主催により行われた。
ダックス・センターHP(英文)=http://www.daxcentre.org/
【2013年7月15日号】