パン・ギムン国連事務総長から寄せられた |
毎年4月2日は、国連の定めた「世界自閉症啓発デー」として、その前後に世界各地でイベント等が開催されている。日本では世界自閉症啓発デー・日本実行委員会が組織され、自閉症をはじめとする発達障害について、正しい知識の浸透と啓発のためにシンポジウムや東京タワーブルーライトアップ企画などの活動が行われた。4月6日、都内では「世界自閉症啓発デー2013・シンポジウム」が開催された。
都内で行われたシンポジウムの開会式では、パン・ギムン国連事務総長から寄せられたメッセージが読み上げられた。
その後、シンポジウム「思春期・青年期になった自閉症のひとたち」をテーマに、野口幸弘氏(西南学院大学教授)、本田秀夫氏(山梨県立こころの発達総合支援センター所長)、片岡聡氏(当事者)、加藤丕氏(保護者)をシンポジストに迎えて行われた。
早期の問題解消を 支援力の差を是正
西南学院大の野口教授は、発達障害の青年期以降の社会的問題として就労面でのニート問題、非社会的行動としての引きこもりや被害的幻聴・被害妄想、犯罪などの反社会的行動が生じていると指摘。当事者は意図的に悪くしようとしていないのに、問題が悪化してしまうのは事後的な支援しか行われていないからだと懸念する。
問題が難しくなってから相談に来ることが多いが、早い時期に問題を解消してあげれば、問題が複雑化することは少ないのではないか、そのためには、特性に合った支援を各施設や支援員が行えるよう支援力に差が生じないようにすること、各施設が協働して支援が行えるようネットワークを構築することが大切だと話した。
障害になりにくい 社会構築の見直しを
山梨県立こころの発達総合支援センターの本田所長は、自閉症の特性が強いほど社会適応が難しく、弱いほど社会適応が良好である、という単純な関係にはなく、社会適応の良否は社会的な要因に大きく左右されると述べる。
社会適応に問題を生じる要因の一つの例は、大学進学率の上昇だ。少子化が進んでいるにもかかわらず、大学入学者は増加。以前なら高等教育水準の学力に達していなかった生徒も、大学に進学するようになった。
しかし、教育カリキュラムは以前と同じままなので、結果として無理な勉強を強いられることがあるのだ。
また、誰でも繰り返し量をこなせば必ずできるようになるという、教育界にしばしば見られる「幻想」が、不適応を強調してしまうこともあるため、本田氏は自閉症スペクトラム(ASD)でも、障害になりにくい社会を目指す必要があると述べた。
困難事例にさせない 同年代と接する機会を
高機能自閉症の当事者として登壇した片岡氏は、自分の体験を語った。
片岡氏は診断を受けることなく大学院を出て、大学の助教授、製薬会社研究開発職を経て、3年前にアスペルガー症候群の診断を受けた。現在は製薬会社を退職し、デイケアに通いながらNPO法人を設立、現在はASDの子どもたちと接することで生きがいを見出している。
現在、当事者的支援者として20代の困難事例に出会うが、その多くは小学校高学年から中学1年に不登校になり居場所がなく成人を迎えるケースだ。フリースクールなどで、同年代の人たちと接する機会を用意することは、困難事例にさせないために重要だと感じているという。
また、「ASD児への支援」が注目され、その子の性格やASD以外の部分への教育的関与がおざなりにされがち。普通学級におけるいじめ、不登校、精神科の受診事例などの背景にASDの素因が隠れていないか注意してほしいと語った。
毎年4月2日は国連の定めた「世界自閉症啓発デー」として、その前後には、世界各地でイベントなどが開催されている。自閉症の人は自分の気持ちをうまく伝えることや、他人の言葉の意図を理解することが苦手だが、純粋で一生懸命だ。自閉症をはじめとする発達障害について知ってもらうことがこの啓発活動の目的だ。
問題行動に対応を 発達障害者支援フォーラム―横浜
4月2日の「世界自閉症啓発デー」を前に、「世界自閉症啓発デーin横浜〜発達障害者支援フォーラム」が3月30日に、横浜市内の関内ホールで開催された。当日は、立正大学中田洋二郎教授による基調講演及びシンポジウムにより、自閉症をはじめとする発達障害への理解が深められた。
■認められない保護者
立正大・中田洋二郎教授 |
WHOの国際生活機能分類(ICF)には、障害という言葉は使われていないことから分かるように、障害の概念は変わっており、ネガティブなものではない。
しかし、障害種別による保護者の障害認識過程には違いがある。ダウン症などのケースでは保護者への告知は平均1・1か月の時期で行われ、100%の保護者が告知時に子どもに障害があることを認識している。
一方、自閉症などのケースでは、告知の時期は平均46・8か月と遅く、また保護者が障害を認識したのは告知以前20%、告知時27・1%、告知後52・9%で、告知後も受け入れられない保護者が大半を占めている。
■告知時に心的外傷も
配慮を欠いた告知を受けたことで、保護者が心的外傷を負うことがある。それを避けるためには、何回かに分けて情報を提供したり、事実を確認でき互助できるように複数の家族に直接伝えるなどの工夫も必要。
また、障害や状態が同様な子どもの養育や成長の具体例、相談やサービスを提供する機関、教育や福祉支援の制度、告知後の支援などの情報を準備しておかないと、保護者は不安だけを感じてしまうことになる。
■保護者の視点と支援者
保護者の視点では、知的発達遅延を伴わない障害は個性ととらえるが、社会に出ると問題があるとされることもある。
同じ子どもでも、保護者は個性の後ろに障害が隠れていると考えるが、支援者の視点では障害の後ろに個性が隠れている。家族と支援者が互いの見方の違いを理解すれば、手を携えて子どもの発達の支援を行うことが可能となる。
■親への支援の必要性
1940年代から60年代にかけては、親を問題の原因として見ていた。それが70年代から共同治療者として見るように変わり、80年代から親を支援するという視点が加わった。共同治療者となる前に、親となる、親として成長するための支援が必要と考えられるようになったのだ。
また、子どもへの支援の内容が変わってきた。診断してから治療的介入を行う医療モデルではなく、子どもの行動観察からそれぞれの子どもの困り感やニーズを把握して具体的支援を行う、応用行動分析の手法が求められている。
■問題の基本理解
支援を行うに当たり以下の5点について理解をしておく必要がある。(1)親のしつけ、担当者の能力や資質の問題としない(2)診断にこだわらず、まず実践から始める(3)家族や担任のみで取り組まず、施設・園・学校全体で取り組む(4)子どもの「こころ」に訴えるのではなく、問題行動を変化させ、適正な行動がとれることを子どもに経験させる(5)根本的な問題の解決を目指すのではなく、あるいは全ての問題を解決するのではなく、最も変化しやすい問題行動への対応から始める。
「子どもとその家族を支援するとき、私たちは1人だけでがんばっているように感じる。しかし実は多くの専門家がそれぞれに親子を支えている。例えるならば、専門家はリレー選手のようなものである。自分の受け持ちの区間を全力で走り、後続のランナーに確実にバトンを渡していくことが大切だ」とまとめた。
異なる立場から意見を述べる |
基調講演に続いて行われたシンポジウム「発達障害の受容と告知〜どのように支援するか?」では、基調講演の講師を務めた立正大の中田教授を指定発言者とし、障害の告知と受容を手掛かりに、異なる立場の専門家が家族支援の在り方について議論された。
シンポジストは、田園調布学園大学の一瀬早百合准教授、よこはま発達クリニックの宇野洋太医師、横浜市洋光台第一中学校通級指導教室の松森久美子教諭、横浜市発達障害者支援センターの小林信篤センター長の4名が登壇した。
母親支援の重要性 親の生き方にも配慮
田園調布大の一瀬早百合准教授は、障害のある子どもを持つ母親への聞き取り調査から、障害のある乳幼児をもつ母親の、事実の受容と拒否の分岐点となる要因について、「他者との関係、特に夫との情緒的な分かち合いの有無」、そして「子どもの障害の特性に応じた母親の役割を獲得できるかどうか」の2つがポイントだという。
一瀬准教授は母親への心のケア相談を行っているが、そこでは、母親の語るストーリーに耳を傾け、母親自身がどんな人生を生きていたのかという過程にも、配慮をする必要があると強調した。
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告知のメリットとデメリットを考えて
発達障害を専門とするよこはま発達クリニックの宇野医師は、自分を理解することは能動的な人生の選択には大事で、それは自閉症スペクトラム(ASD)の場合も同様だと話す。
ASDの多くは、小学校中学年頃には、他者との違いなどに気づき始め、その後診断名を知る。親が意図しなくても、中学生頃には大半の子どもは自分の診断名を知っている。そのことを親に言えず、タブーと思っている子どもも少なくない。
子どもに診断名を伝えることで自責感からの解放、サービス利用の正当性、自己理解のための具体的キーワードの提供、同じ特性のある仲間との出会いなどのメリットが生じる。
一方で、抑うつ状態・不安・退行、拒否や自己否定感、相談の終了などのデメリットが生じる可能性もある。デメリットが生じた場合は、生活の中の課題設定や支援を見つめなおし、修正し、達成感が得られるようにすることが必要だと宇野医師は述べた。
【2013年4月22日号】