中学生と講座形式で展開 |
中学校理科教科書のキーワードを解説 |
放射線の性質を解説 |
放射線の測定 |
自然放射線について解説 |
公益財団法人 日本科学技術振興財団(以下、JSF)は1960年の設立以来、「科学技術の発展に寄与する」ことを目的に科学技術系人材の育成や科学技術の普及啓発等の諸事業を展開している。今年度は30年ぶりに「放射線」授業がスタートすることから、放射線教育支援サイト「らでぃ」をリニューアル。3月には「放射線映像教材集」を企画し、既に全国の公共図書館、教育センターに発送済だ。JSFに、「放射線映像教材集」制作の意図と特長を聞いた。
JSFがDVDを企画
中学校理科第1分野 「科学技術と人間」副教材
今年度から中学校で新学習指導要領に基づき、中学校理科第一分野「科学技術と人間」の「エネルギー資源」に関わる項目で「放射線」が取り扱われることになった。
一般的な進度で考えると、多くの学校ではちょうど2月中〜下旬に実施される授業内容だ。「放射線」の授業は30年ぶりになることから、現職理科教員のほとんどがこの項目について実際の指導経験がなく、現在45歳未満の親世代は学んでいない可能性が高い。
そのような中、「放射線」に関する授業は、各校でどのように取り扱われているのか、気になるところだ。
放射線教育推進委員会では、新学習指導要領の円滑な実施の準備として平成22年度から放射線教育に係る教材研究の支援を目的に活動を展開しており、現在はJSFと連携して放射線教育に関する情報提供や活動を実施している。
JSFでは今年度の活動の1つとして、放射線教育推進委員会の指導を仰ぎながら、中学校理科の授業で活用できる、「放射線映像教材集」(DVD)を企画した。
これは「放射線に関する授業をしたことがない、受けたことがない先生にとって役立つものを」として企画したもの。「この30年間、中学校では『原子は物質を構成する最小単位でこれ以上壊れないもの』と教えていました。しかし『放射線』が発生する仕組みを教えるには『原子が壊れることがある』ことから説明しなければなりません。戸惑う教員がいるのも当然」とJSFは語る。
本DVDには、放射線の基礎知識から放射線の利用、放射線に関するショートムービー資料映像(16本)など、これまで蓄積してきたコンテンツを授業に役立てやすいように整理して収録した。その中でも、放射線に関する授業を経験したことがない教員には、授業を想定した「放射線講座」が参考になるだろう。
4テーマを各5分以内でシンプルに解説
(公財)日本化学技術振興財団 企画 放射線教育推進委員会 監修 日本理科教育支援センター 小森栄治 協力 |
「放射線講座」は、放射線の研究者である飯本武志先生(東京大学・環境安全本部准教授)が講師となり「放射線」について、中学生の疑問に応える形で解説していくものだ。
講座は、中学校理科の教科書に出てくるキーワード「放射線の性質」「身の回りの放射線」「人体への影響」「放射線の利用」の4つのテーマに分かれており、視聴時間はそれぞれ5分以内。授業の内容に応じて視聴、活用できる。
「放射線の性質」では、放射線は原子や原子核から放出される高速の粒子や電磁波であること、その発生のしかたによって種類が異なり、α線、β線、γ線、X線などの種類があることを説明している。
「身の回りの放射線」では、放射線は原子から出ているものであり、身の回りの原子から私たちは常に自然放射線を受けていること。放射線を出す能力を「ベクレル」、放射線の人体への影響度合い(通常、放射線量、線量と表現されている)は「シーベルト」という単位であらわされることを解説。
「人体への影響」では、放射線を多く受けるとなぜ人体に影響を及ぼすのか、人体影響と放射線量との関係、外部被ばくと内部被ばくの違い、リスク対応の考え方などを、短い時間でシンプルに解説している。
講師の飯本先生は「放射線講座」を通し、「放射線はもともと自然界にある程度存在するもの。また、人工放射線は、医療や工業、農業など様々な分野で活用されている。その一方、放射線を多く受けると人体に悪い影響が出ることもある。放射線を扱う際はルールに基づいて安全管理をすることが大切であること、人体の影響を考える上で重要となる『量的』な感覚を身につけ、正しく理解するとともに、さらに興味をもって調べるという姿勢を期待したい」と語る。
「放射線映像教材集」に収録されているコンテンツは、放射線教育支援サイト「らでぃ」で公開される予定だ。しかし、「学校でインターネットに接続することが難しい」という声もあることから、JSFでは今回100名にDVDをプレゼントする。
【申込方法】氏名、所属、電話番号、送付先を記入の上Eメール(kks@kknews.co.jp)またはFAX(03・3864・8245)で件名を教育家庭新聞社「放射線映像教材集」プレゼント係として応募。締切4月1日着。
受領映像や教材、学習指導案を提供 |
「放射線」について学んだことがない。しかし教えなければならない。どう授業を進めていけば良いのか。そのような教員を支援する情報提供のために立ち上がったのが、放射線教育支援サイト「らでぃ」だ。JSFでは、放射線教育推進委員会(※)の指導のもと、「らでぃ」を運営しており、放射線に係る授業映像や、理科や社会、総合的な学習の時間などの授業でそのまま使える教材などを提供している。
「放射線は、医療や工業、農業など、様々な分野で利用されており、科学技術分野において今後さらに研究を進めていかなければならないもののひとつ。そこでJSFは、先生方の情報交流の場にしてほしいという思いで運営している」と語る。
会員数は1400人
「らでぃ」開設から3年を経、今年度5月のリニューアル後、会員数も増え、現在約1400人の会員がいる。参考となる学習指導案や指導計画案は会員になればダウンロードができる。また、自分が実際に使用したり、指導案の投稿もできる。教員研修や出前授業の相談も可能だ。
JSFでは今後「放射線は理科や物理の教員が教えるもの、というスタンスから、小学校・中学校・高等学校、また理科・社会や技術家庭科、総合的な学習の時間など、放射線に関わる全ての教科において放射線を正しく理解してほしい」と考えており、引き続き情報提供をしていく。
■http://www.radi-edu.jp/
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※放射線教育推進委員会 有馬朗人(学校法人根津育英会武蔵学園長)、清原洋一(文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官)、宮下彰(前中学校理科教育研究会会長、東京都中野区立第七中学校長)、網屋直昭(川崎市立高津中学校教頭)、飯本武志(東京大学環境安全本部准教授)
【2013年3月18日号】