学校給食、病院・福祉食の最前線がわかる展示会フードシステムソリューション2012(F‐SYS)が9月19日から21日にかけて、東京で開催され約3万1400人が来場した(10月22日号既報)。今回のF‐SYSでは、昨年3月11日に起こった東日本大震災による被災状況を踏まえた各社の新製品やシステムが多数紹介された。学校給食特別展示は「今、学校給食にできること〜安全・安心の提供と震災時の対応〜」をテーマに、ガス、電気、蒸気3種の大釜を使用した大量炊飯の実演が行われ、来場者は試食を通じて炊き出しの様子を体験。また、3日間を通じてソリューションセミナーが行われ、食育、衛生管理、食物アレルギー、非常時の対応など専門家によるセミナーに多くの聴講者が集まった。セミナーの中から学校給食の衛生管理、非常時の衛生管理と対応、食物アレルギー、放射性物質と食物の関係など、今注目される分野について紹介する。
「油断大敵、学校給食の衛生管理」をテーマに講演したのは、(財)東京顕微鏡院理事で麻布大学客員教授の伊藤武氏。
平成8年にO157の食中毒が発生したことで、学校給食衛生管理の基準も見直しが図られ、O157の発生は見られなくなったが、依然としてサルモネラやノロウイルスを原因とした食中毒が発生しているという。
学校給食では食中毒発生率ゼロを目指しているが、設備が古いところも多く、対策が求められる。平成22年度に591施設を対象に行った衛生管理チェックでは、汚染作業区域が明確に区分されている調理場は48・6%、ドライシステム調理場もしくはドライ運用がなされている調理場は72・6%となった。
「平成22年度に発生したブロッコリーサラダによるサルモネラ食中毒は、洗浄・消毒が不完全だったため、撹拌機にサルモネラが残存したと思われますが、80度以上の熱湯による消毒が必要です。これまで問題なかったから大丈夫ではなく、適切な洗浄・消毒を実施するためには科学的なデータに基づいた検証が求められます」
この食中毒が発生した調理場では、その後、汚染作業区域と非汚染作業区域を明確にするとともに、給水栓を肘で操作できるレバー式にするなどの改善が図られた。
「加熱すれば食中毒は防げると思われていますが、セレウス菌やウエルシュ菌など耐熱性を持った毒素が存在します。そうした菌の増殖を防ぐには、前日調理を禁止して調理後は2時間以上室温放置しないことです」
東京医科大学兼任教授の中村明子氏は、東日本大震災における栄養教諭や学校栄養職員の記録をもとに「非常時の衛生管理」について講演。
東日本大震災で宮城県では38・1%の給食施設が使用できない状態となったが、大量の食料が保存されていたので第二の災害備蓄庫としての役割を果たすこととなった。22・4%の給食施設で炊き出しが行われたが、断水状態での食事提供の際には使い捨て手袋やアルコールなど給食室の消耗品が役に立ったという。
また、流水で野菜を洗うこともできず、シンクのそばに給水車を止め、水を汚さないように洗う野菜の順番を決めて、材料ごとに水を替えながら洗っていった。
「学校栄養士や学校給食調理員は日頃から正しい手洗いが身に付いているので、非常時の際に手洗いの指導や衛生管理の要請があります。宮城県行政栄養士会が作成した『炊き出し手洗いマニュアル』によると、非常時は流水による手洗いができないので、液体せっけん液でもみ洗いした後、ひしゃくで水をかけ、ペーパータオルで拭き、アルコールで消毒するという手順となります」
被災地は衛生状態が悪化しており、洗浄・殺菌の資材が不足している。
「大量調理の経験のないスタッフが炊き出しを行い、被災者の抵抗力が低下していることから食中毒が発生しやすい状況にあります。食事を提供する人は必ず消費期限を確認し、サルモネラ菌やノロウイルスの予防にしっかりと加熱調理を行ってください」
福島県南相馬市では、衛生管理を徹底し、食中毒事故もなく炊き出しを終えたという。
(独)国立病院機構 相模原病院 臨床研究センターアレルギー性疾患研究部の林典子氏は、「食物アレルギーに対応する食事の提供」について講演した。
食物アレルギーの患者の割合は、乳児期で10人に1人、幼児期で20人に1人で、成長とともに減少し、小学校入学までに8〜9割が治るとされる。食物アレルギーの正確な診断は、食物経口負荷試験が必須で、疑わしい食物を食べてみて症状が出るか、それを除去して症状が改善するか確認するしかないという。
「食物アレルギーかどうか診断する際は、はじめに疑わしい食物を完全除去してから定期的に負荷試験を行います。結果が陽性の場合、その食物の除去を継続し、数か月後に再び行います。そこで陰性ならば、その分量までは自宅で食べる限りにおいて解除となります。そこから摂取する分量を増やしていき、症状が出ないことを確認した後、学校給食や外食の解除ができるので、かなり時間がかかります」
食物アレルギーは成長に従い治ることを待つしかないので、子どものことを考えると、除去する食物は必要最低限に抑えたい。栄養士が行えることは、「誤った知識から不必要に食べ物を除去していないかの確認」「食べられるものを選ぶ方法の指導」「代替食品や代替メニューの提案」などだ。
「食物アレルギーに対応するためのルールづくりが求められます。食物アレルギーに関しては、誤った情報が多いので、その情報が正しいかどうか見極めてルールづくりを行ってください」
福島第一原発事故以降、放射性物質の食品に与える影響が危惧される中、科学ジャーナリストの松永和紀氏は「放射能と食べ物〜食品のリスク、情報の読み解き方」をテーマに講演。
放射線リスクに対しては「侮ることなく恐れすぎず」と主張する。原発事故で放射性物質が広がったことは事実だが、線量から体に与える影響の大きさを冷静に判断して、必要以上に恐れることはないと説く。
「無理に放射線リスクをゼロにしようとすると、ストレスや精神的不安、経済的負担などの問題が発生して、それが健康に与える影響が大きくなる場合があります」
放射線による発ガンリスクが顕在化するのは、年間100mSv以上の放射線を受けた場合。事故前は食品による内部被ばくは高くても年間0・1〜0・2mSvだ。原発事故直後は野菜に放射性物質が直接付着し、高い放射線量が計測され、野菜の出荷規制に至ったが、土壌に残った放射性物質は根からほとんど吸収されないので、野菜から検出される放射線量は急速に下がっていった。
「水産物の大多数は安全ですが、福島県沖の魚は海底にいるヒラメなどを中心に高い放射線が見られます。ただし、福島県沖の沿岸漁業は再開されていないので、そうした魚が食卓にあがる心配はいりません」
これまで厚労省が13万件以上の食品を検査し、大半が「検出限界未満」だったが、暫定規制数値を超えた時のみ報道されたため、不安があおられる結果となった。食品安全委員会や厚労省などのサイトで確かめるなど、自ら進んで適正な情報を集めるように促した。
【2012年11月19日号】