石橋幸子司書教諭 |
児童・生徒が学校図書館や公共図書館を活用し、調べ学習などを行うためには、本・文章を「読む力」が必要となる。朝の読書も奏功し、子どもの読書量は10年前と比べ増加した、との報告もある(毎日新聞社・学校読書調査ほか)が、一方で「子どもの読む本が、同じ年齢で比較した時に、以前と比べて易しい本になってきている」という声も聞こえる。子どもを取り巻く環境の変化によって、読書に割く時間が減っていることなどが背景として考えられる。しかし学校から発信することで、放課後の子どもたちそれぞれの過ごし方に関わらず、読書の量と質を高める努力をしているケースもある。実際の取り組みについて東京都小平市立小平第一小学校・石橋幸子司書教諭に取材した。
質と量を高める 2つの重要なこと
石橋教諭は昨年4月小平第一小学校に赴任し、今年で2年目。前任校での経験を活かしながら、同校での読書・学校図書館活動に取り組んでいる。
子どもたちの読書の量だけでなく質も高めるために重要なこととして、石橋教諭は「楽しんで本を読む」「図書館の環境整備」の2点を挙げる。
楽しんで本を読む実践
図書館の奥半分を中心に書架が並ぶ。中央の空いている |
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「楽しんで本を読む」ために同校が行う実践から、4つを紹介する。
(1)教師によるお薦め本カード
教員はもちろん、栄養士、養護教諭、事務職員も含めた全ての教職員が参加する。新年度に購入した本はまず職員室に置き、その中から各教職員が1冊ずつ自分の好みで選ぶ。そして、B4サイズのカードにその本についてのコメントとカラーコピーを添える。これは昨年度から始めた取り組みで、教職員の"夏休みの宿題"。休み明けにはカードと本が図書館の前の廊下にズラリと並ぶ。
新刊本なので子どもたちがまだ誰も読んでいないこと、子どもたち自身では手に取りにくいテーマでも、先生が取り上げることで興味が湧く点がポイントだ。書く側も楽しみにしているそう。
(2)「必読図書」の選定
毎年、「一小必読図書」を石橋教諭が選定。同校の図書館にも公共図書館にもある本、というのが条件。小平市では、各小学校の「担当図書館」が決まっており、同校の担当図書館である小川西町図書館では「一小必読図書コーナー」を設けている。読みたい本が同校で貸し出し中でも、小川西町図書館で借りられる。
必読図書を全て読み終わった子どもには、校長室で校長先生から「認定証」が手渡され、子どもたちの励みになっている。
(3)読書週(旬)間
同校では6・10・2月の年3回、読書週(旬)間を設けている。親子で同じ本を読む、絵本を交代で声に出して読む、兄弟姉妹に読み聞かせる、などスタイルや読む冊数、読む日数も自由。家庭からは、「親子読書カード」に、本の名前と感想を書いて提出する。
「1〜4年生は反応が良く、読む本の内容で子どもの成長が感じられた、という声が保護者や担任の先生からも聞こえます。5、6年生は全員がカードの提出とまではいきませんが、たとえ保護者に読む時間がなくても、子どもにはあなた自身が読んでいればOK、と言っています。無理強いしない、というのも大切です」。
(4)子ども同士のブックトーク
3学期には「6年生から新6年生(現5年生)へのブックトーク」というように、上級生から一級下の学年へのブックトークを、1対1で行う。子どもの組み合わせは、それぞれの読書傾向や進度を考慮し、教員があらかじめ決めておく。「(現)○年生へ」ではなく「新○年生へ」というのがポイントで、下級生は背伸びしたくなり、上級生は緊張感を持って取り組める。何より、1対1で行うことで、子どもは真剣に本を読むそうだ。
図書館の環境整備
「教師によるお薦め本」コーナー。 |
読書の質と量を高めるためにもう1つ重要なのが「図書館の環境整備」。その1つとして、保護者から募ったボランティア活動がある。本の移動や表示板の作成、装飾、本を1冊ずつ丁寧に拭く、等の作業を行っている。
おかげで、学校図書館協力員(学校司書)が本来の業務を行う時間も確保できるようになり、TT、T2での授業等にも関れるようになった。
「教育計画」に盛り込み学校全体の協力を得る
どの取り組みも、学校全体として行っていることに注目したい。学校全体で取り組むためには、全教員が年間の学校教育方針を共有する「教育計画」に、「学校図書館年間指導計画」を必ず盛り込むことが重要となる。
「『教師によるお薦め本カード』や『読書週(旬)間』も、『教育計画』に入っていれば、他の先生方にも早めに知って頂けますし、学校の教育方針として載っているので、協力を得やすくなりますよ」と石橋教諭は話す。そのためにも、学校長の強い推進力が必須だ。
子どもたちが積極的に本を手に取るために大切な時期として、石橋教諭は小学校中学年を挙げる。「特に4年生が分かれ目です。この頃に本の面白さを伝えられるといいのでは」。この時期、難しいテーマの本はまだ無理だとしても、わくわくするような、例えば冒険ものや、ファンタジーを読み、長編に馴れ、楽しさを知ると、高学年で読める本がぐんと増えるという。
石橋教諭が特に実感しているのは、"人が介在することで、本を読みたくなる"ということ。今後は「読書会」もやりたい、と意欲を語る。
【2012年9月17日号】