飲酒の害は喫煙や薬物に比べると認識が甘く、近年は女性の飲酒率が上昇傾向にある。未成年や妊娠・出産を控えた女性への飲酒に対する指導が求められる中、(公財)日本学校保健会は、8月1日、都内で平成24年度夏季セミナー未成年飲酒予防研修会「学校に求められる未成年飲酒防止教育・実態とその背景」を開催。児童生徒へ指導する立場である教員や養護教諭に向けて、専門家の講演が行われた。
北垣・健康教育調査官 |
基調講演に登壇した、文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課の北垣邦彦健康教育調査官。「我が国の未成年飲酒防止教育」をテーマに、教育現場での飲酒防止教育の取り組みや、その必要性などについて語った。
学校の飲酒防止教育では、飲酒をしている生徒一人ひとりに注意を促すよりも、生徒全体に飲酒の危険性を認識させることが有効だとする。
学習指導要領では、小6、中3、高1の保健体育の時間などを使って、喫煙、飲酒、薬物乱用防止に関する指導を行うように明記されているが、授業で基礎的な知識を身につけさせた上で、「飲酒防止教室」等を開催することにより、意識改革や行動変容につながっていくという。米国では、入手のしやすさこそは30年前と変わらないものの、学校で大麻の危険性を教えるようになったことで、大麻乱用経験率は下がった。
また、指導の際は、発達段階や地域の実情を踏まえた「児童生徒への配慮」、特定の成功例を紹介するだけに終わらない偏りのない「教材への配慮」、恐怖を植えつける"脅し型"の健康教育にならないような「指導上の配慮」の3点が必要と指摘。
真栄里仁氏、成瀬暢也氏、関根幸枝氏(左から) |
欧米の先例では「脅し型」の教育が行われても薬物乱用が減少せず、日本でも10年ぐらい前は「脅し型」の薬物乱用防止が多かったが、その世代が社会人になった今、脱法ハーブなどに手を出している実情がある。
今必要なのは「生きる力」を身につけるための教育。「『生きる力』とは、日常的なストレスに適切な対応をし、良い人間関係を築いていくことであり、その力を育むための場が学校であります」と述べた。
基調講演後、埼玉県立精神医療センターの成瀬暢也副病院長、(独)国立病院機構久里浜医療センターの真栄里仁精神科医長、茨城県鹿嶋市立高松中学校の関根幸枝養護教諭が、未成年飲酒や女性飲酒の課題、学校での飲酒防止教育の実践などを紹介。
悪いと承知で飲酒する生徒への対応を
成瀬氏によると、日本のアルコール依存症者は82万人とされるが精神科受診者は4〜5万人。アルコール依存症は家族を巻き込む病気だと指摘する。父親がアルコール依存症になると働けなくなり、母親も子どもを見る余裕が無くなり、八つ当たりする。子どもにとって家庭は緊張に満ちた場となり、人の言うことが信じられなくなる。
そうして育った子どもは、大人になってから自分も依存症になる可能性が高いという。「悪い行為と承知した上で飲酒する生徒をどうするかが重要です。飲酒問題を起こす生徒は、親から受け入れられてないと感じているので、生徒の価値を大人が認めてあげることが優先されます」と成瀬氏は話す。
飲酒の男女比に変化 女性の依存症が増加
また、女性のアルコール依存症専用の治療ユニットを担当する真栄里氏によると、女性の社会進出に伴い女性の飲酒は60%程度で推移し、さらに減少傾向にある中高生の飲酒の中で、急激に減っている男子に比べて女子の下がり幅は緩やかであると指摘する。
女性の飲酒で問題となるのは、胎児性アルコール症候群。出産した胎児や乳児の成長障害、特異な顔貌、中枢神経の障害となって現れる場合がある。成長の遅れは目立たなくなるが、脳のダメージは持続する。
「女性のアルコール依存症は、男性との違いを理解した上で治療にあたる必要があります。また、飲酒の原因とである精神的疾患の治療を併せて行うことが重要です」
飲酒の知識にプラス 生きる力を育んで
養護教諭の関根氏は、飲酒の正しい知識だけでなく、「ライフスキル(生きる力)」を身に付ける学習を行うことで、子どもたちが自分に自信を持てるように飲酒防止等の指導にあたってきた。
前任の小学校での経験を踏まえ、「健康的な生活習慣」や「喫煙の影響」は小学校低学年から、「飲酒の影響」や「薬物乱用の影響」は小学校高学年からの指導を勧める。
「喫煙や飲酒、薬物乱用の興味に打ち勝つためには、正しい知識を持って情報を見極める力や、友達から悪い誘いを受けたときに断るコミュニケーション力が求められます。そうしたスキルを身に付けてもらうため、広告分析の学習や、ロールプレイで友達の誘いを上手に断る場面を想定する学習を行いました」と具体的な指導の事例について紹介した。
【2012年8月20日号】