「食育」という言葉自体は浸透したが、今後何ができるのか、と思っている人も少なくないだろう。「都会の生活者とお魚を獲る漁業者とが一緒に語り合える機会をつくりたい」と活動を続けるウーマンズフォーラム魚(以下:WFF)の活動から、その糸口を探ってみた。
石巻魚市場・須能社長 |
1993年から、日本の浜を歩き、各地の漁村から「浜のかあさん」を都会に招き「浜のかあさんと語ろう会」を通じて、多くの消費者に1匹丸ごとの魚を見せ、学び、調理し食べる活動を続けている。
6月9日に都内で開催された第104回の「浜のかあさんと語ろう会」は、「銀鮭」と「クジラ」をテーマに宮城県石巻市から「浜のかあさん」(江刺みゆきさん、吉野八重子さん)2人と、石巻魚市場(株)の須能邦雄代表取締役社長を迎えた。石巻の「浜のかあさん」は、過去3回この語ろう会に参加しており、第100回目は都内の小学校を訪れている。
カキの養殖業の家に生まれ石巻・荻浜の海を愛してきた江刺さん、長年漁協に勤めてきた吉野さん。二人とも津波の影響で仕事や自宅に大きな損害を被ったが、「後ろばかりを見ていては進めない」と漁業の復興に力を注ぐ。
銀鮭をさばく |
この日のテーマの1つ「銀鮭」は、石巻で養殖が盛んだ。「鮭は普通5〜15℃くらいの水温のなかで生活する。そう考えると、三陸の水温とリアス式の海が適している」と、須能社長が調理の前に「銀鮭」の養殖について説明する。この日は「金華サバ」という東京ではなかなか食べられない貴重なサバも運んでくれた。
須能社長を始めとした漁業に携わる人は、福島第一原発の事故の影響で魚の消費量が減少することを懸念し、放射性物質を検査する500万円の機械を5台購入し、朝4時から測っている。「真実をわかりやすく伝えることが大切だと思っています」。
調理は、銀鮭の刺身とカルパッチョ、あら汁、ちゃんちゃん焼き、サバの竜田揚げ、クジラの刺身、クジラの炊き込みご飯。この日は大人の参加者が多く、自分が挑戦したい料理を選んだ。先ほどまで他人だった人たちが笑顔で共に調理する。
魚を料理し、知り、食べる、一つの同じ目的を持った人たちの誰もが笑顔だ。ここが、WFFの活動の大きな目的なのだろう。生産者を知り、その人の苦労を理解し、話し合い、食べる。食べることで心が一つになる。食育とは、それで十分なのだ、尊い学習なのだと確信した。
【2012年6月18日号】