関越、上信越、北関東、東北の各自動車道が走り、日帰りから宿泊まで様々な学校行事に対応できる群馬県。今年6月には「富岡製糸場と絹産業遺産群」が世界文化遺産となり、日本近代化を支えた4資産の歴史に注目が集まっている。また、みなかみ町の谷川岳や片品村の尾瀬といった近くて大きな自然も魅力だ。群馬県は8月に、東京を中心とした教職員を対象に「群馬県教育旅行現地視察会」を開催。新たな群馬の魅力が紹介された。
【1日目】東京(丸の内鍛冶橋駐車場)‐富岡製糸場‐上野村(森の体験館、宿泊・スポーツ施設を視察)‐みなかみ町泊(水上温泉ひがきホテル)
【2日目】みなかみ町の教育旅行説明‐たくみの里見学(こんにゃく作り、そば打ち体験)‐民泊家庭を視察‐東京
事前学習とガイドの解説
ボランティアガイドから建物の解説を受ける |
東京駅付近を9時に出発、首都高を経て関越自動車道へ。約2時間で最初の目的地「富岡製糸場」に到着した。道中、富岡製糸場に関するDVDで事前学習を行った。現地では、ボランティアガイドの解説のもと、外観と工場内部を約1時間かけて見学した。
1872年に創設された富岡製糸場は、高品質な生糸を大量に生産するという目的のもと作られた官営の製糸場。フランス人技師のポール・ブリュナが指揮をとり、西洋技術を取り入れるだけでなく、日本の風土を生かして建設された。
主な建築資材は地元産を調達し、壁に負担のかかりにくい「木骨所「造」を取り入れたことで、現在も当時のまま保存することができている。また、明治初期には珍しい「トラス構造」と呼ばれる、中央に柱のない工法をとったため、広い空間を確保することが出来た。
これらの工法が日本の近代化の礎となったことも、学習ポイントの一つ。
工女が広めた 製糸の技術
当初は工女が集まらないというトラブルにも見舞われたが、結果的には官営期だけで32道府県から工女が集まった。工女の労働状況は劣悪だと思われがちで、実際視察団もそのように考えていた人が多数いたが、実はそうではない。
製糸場は窓が多く採光に工夫がなされているが、それはブリュナが「太陽の光」で生糸を紡ぐことを重視していたからである。
つまり、明るい時間に勤務が行われていたことを意味し、1日平均7時間45分の労働時間で日曜日は休日となっていた。工女らはここで技術を習得して、故郷で優秀な指導者としてその技術を広めていった。
また、富岡製糸場以外に、伊勢崎市の「田島弥平旧宅(近代養蚕家屋の原型)」、下仁田町の「荒船風穴(蚕種の貯蔵)」、藤岡市の「高山社跡(養蚕法の教育の場)」の3つの資産が、世界遺産登録の要因であることから、教科と連携し、これらを組み合わせた「ものづくり」の4つの資産として学習することで、さらに見識が深まる。
体験活動をリーズナブルに
上野村の「体験館」は藍染め体験が人気 |
スポーツ合宿に対応に対応できるグラウンドも |
下仁田町での昼食後、長野県と埼玉県に隣接する上野村へ。神流川の源流が流れる静かな村だ。平成16年に湯の沢トンネルが開通し、上信越道下仁田ICからのアクセスが短縮された。現在松戸市から32の小学校が林間学校として訪れている。
面積の95%が森林という立地を生かした、癒し効果を求める森林セラピー、子供も楽しめるノルディックウォークなどが盛ん。村のほぼ中央に位置する「森の体験館」では、木工クラフトや藍染めといった体験活動が人気。300円から1500円までの価格帯も魅力だ。体験後には、隣接した神流川沿いで弁当を広げる学校も多い。
人口約1300人の小規模な村だが、宿泊施設が充実し、松戸市の小学校などが利用している「ヴィラせせらぎ」は体験館同様に、目の前が川だ。
鮎のつかみ取り、川遊びなどを楽しめる他、キャンプファイヤーを行うスペースもある。料金は要問合せだが、2泊6食付で1万強から可能な場合もある。
スポーツ合宿も
また、同村は広いグラウンドを有しており、野球部やソフトボール部などの部活合宿など、多様な利用が考えられる。
交通量の少ない「たくみの里」をレンタサイクルで視察。 体験する「○○の家」が点在し、班別行動にも適している |
民泊家庭では野菜を収穫し、その場で食べ、薪割りも体験できる |
最後の訪問地は、県面積の8分の1となる町全体を生かした様々な活動が特徴の群馬県最北のみなかみ町。
同町の玄関口となる月夜野ICと水上ICは、東京から高速道を経由して約2時間で到着。新幹線の場合は、東京から約80分で最寄りの上毛高原駅に到着する。
教育旅行部門を 一般社団法人に
同町では、平成26年度より観光協会の教育旅行部門が独立し「みなかみ町体験旅行」として一般社団法人化。ワンストップで学校を受け入れている。25年度は約1万1500人(100校以上)の教育旅行利用があり、今年度は約1万5000人に達する見込み。
農村文化の体験、ラフティングなどのアウトドア体験、工芸体験などを中心に、各校の状況に応じたオーダーメイドのプログラムを作り、今後の学校生活に役立つような工夫がなされる。同法人の福田一樹専務理事は、「なるべくスタッフが学校を訪問して、各校の雰囲気に合わせた企画を考えたい」と話す。
「たくみの里」で 農村文化を体験
視察団は、工芸体験を行う「たくみの里」を訪問。ここはかつて準農村地帯で観光客が訪れる場所ではなかった。味マづくりや、わら細工などの歴史・文化を守り、継承していくため、活動を広げ、27年目を迎えた。
厳密な区域はなく、地域全体が「たくみの里」で、ベースとなる豊楽館を中心に、和紙、竹細工、陶芸、革細工、農産物加工など「〇〇の家」と呼ばれるものが点在。学校団体の利用は概ねグループで自分達の体験する家を探し、体験を通じて町民との交流を持つ。
この日は「こんにゃく作り」を体験し、約2キロメートルをレンタサイクルで回った。「教員は自転車で見回りできる」、「交通量が少なくて安全だ」といった声があがる。
豊楽館に戻り、手打ちそば入門体験を行い、手作りのそばを昼食にした。使用するそば粉は100%みなかみ町産。こんにゃく作りの材料となるこんにゃく芋も地元産と、農業が盛んな地であることがわかる。
大規模校も受入れ可
最後に、同町が力を入れている民泊家庭を訪問した。現在受け入れ家庭は約160軒で、大規模校も難なく受け入れられる(昭和村との連携をとることも)。今年度の受け入れ校の中で、最大規模は約350名。料金設定は7000円〜と、リーズナブルだ。
民泊を始めた5年前から受け入れている、杉木敬太郎さん宅を訪問。この日も都内の私立高生が民泊中であった。杉木さんは子供達に、まず野菜を畑で収穫させてその場で食べてもらい、新鮮な味を体験してもらうことから始める。視察団も、赤く色付いたトマトをその場で食べさせてもらう。「本当においしい」と感嘆の声があがった。
「我々は思い出づくりに協力する人、というスタンスをとっています。自宅に帰って保護者の方から電話がくることもあります。ある時"家でよく喋る子ではなかったのに、人が変わったようだ。何があったのですか"と驚かれていたことがありました。民泊を受け入れて良かったと思った瞬間でした」と杉木さんは民泊への思いを語る。
群馬県は教育旅行としては初となる「ぐんまでわくわく体験教育旅行ガイドブック」を発行した。世界遺産特集やアウトドア・民泊・文化別ページ、5つのエリア別メニューで構成。問合せ=03・3546・8511(ぐんま総合情報センター)
【2014年9月15日号】