平和学習、環境学習、歴史・文化体験、農林水産業体験等、様々な学校の修学旅行ニーズに応える学習素材があふれる「九州」。7県の魅力的な学習素材を伝え、今後の修学旅行に活用してもらおうと「平成26年度九州7県合同修学旅行説明会・相談会」(主催=(一社)九州観光推進機構、九州7県観光担当課・各県観光連盟)が、8月に東京・名古屋・大阪・広島・高松の5会場で開催された。説明会では修学旅行の事例発表とともに各県の魅力を担当者が紹介し、相談会では各県や九州観光推進機構のブースでより詳細な情報が提供された。
「九州は一つ」の思いで7県が受入れ
今回は高校からの参加者が多数見られた |
8月20日の東京会場には学校関係者や旅行業関係者など、約100名が参加。多様な修学旅行へのニーズが高まる中、今回は高校からの参加が目立っていた。
主催者の九州観光推進機構は平成17年に発足し、今年で10年目。23年3月の九州新幹線全線開通により、修学旅行の行き先は多様化している。7県は「九州は一つ」の理念のもと、修学旅行の受け入れに力を注ぐ。
主催者を代表して九州観光推進機構・高橋誠事業本部長は、「『第2期九州観光戦略』を策定し、国内外に九州の観光の魅力を伝えるべく活動しています。より満足し、より感動してもらえるよう努力して参ります」とあいさつ。
毎日172便が羽田から九州へ
同機構国内誘致推進部の原田弘司部長からは、九州へのアクセスや現地の交通、モデルコースが紹介された。
主に航空機で九州へ入る関東地区は、羽田・成田・茨城の3空港から九州9空港へアクセスが可能。羽田空港からは毎日172便が就航。
現地では高速道路網が広がっており、来年3月までには東九州自動車道が部分開通し、北九州から大分までのルートが大幅に短縮される。
Web「九州教育旅行ネット」(http://kyoiku.welcomekyushu.jp/)には、2泊3日と3泊4日、計10コースのモデルコースを紹介。今回は「南九州の体験学習と平和学習のコース」の他2コースについて紹介された。
九州教育旅行ネット http://kyoiku.welcomekyushu.jp/ |
各ブースで熱心な相談会が行われた |
九州7県からは、修学旅行におすすめの施設や体験学習の最新情報が紹介された。
【福岡県】福岡エリアでは、九州国立博物館や太宰府天満宮、福岡市博物館、鴻臚館跡などでアジアとの交流の歴史が学べる。北九州エリアでは、エコタウンや環境ミュージアムでの環境学習を通じて公害の歴史とその解決策を紹介している。
【佐賀県】県南部の鹿島地区で行われる有明海の干潟体験では、ガタスキーなどで泥だらけになり全身を使って自然を体感。北部の唐津地区では民泊の人気が高まり、有田町のやきもの体験、佐賀城本丸歴史館や吉野ヶ里歴史公園などの歴史・文化学習も充実。
【長崎県】長崎市内のみならず、佐世保市では小中学生が掘った防空壕「無窮洞」を活用した平和学習も行うことができる。「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」と「長崎の協会群とキリスト教関連遺産」の2つの世界遺産候補などの学習素材が揃う。
【熊本県】県観光課がコーディネート役となり、ホテルや旅館、民泊、農林漁家、観光施設等と連携した「熊本型教育旅行」を推進する。漁村体験で注目される天草では、恐竜の島「御所浦島」で行う化石発掘体験も、近年おすすめの学習素材。
【大分県】「生き抜くチカラ」を養うことを主眼としている。別府市にある立命館アジア太平洋大学の留学生(学生の半分が世界80か国からの留学生)と行う「グローバル人材育成プログラム」を通じて、世界の中の日本という視点を養う教育旅行を推進中だ。
【宮崎県】恵まれた自然環境を活かし、「エコ」「食」「スポーツ」を柱とした学習素材を提供。宮崎大学の太陽光発電装置、県総合農業試験場での食を支える最先端技術を使った学びや、命の尊さを実感する新たな素材として、宮崎県を2回襲った家畜伝染病「口蹄疫」について学ぶ口蹄疫メモリアルセンターもおすすめ。
【鹿児島県】多彩な自然体験・農業体験、他地域にはない平和学習、2万人を超える民泊実績、班別自主学習が便利の4つを魅力としている。知覧特攻平和会館や鹿屋航空基地史料館で行う平和学習は、特攻隊員の死から命の尊さを考える。
東京会場では、首都圏の公立中学校・高校から事例発表が行われ、九州の修学旅行を継続する理由や学習ポイントなどについて紹介がなされた。
細川眞人校長 |
神奈川県横浜市立南瀬谷中学校(細川眞人校長)は、平成24年度から修学旅行の方面を九州へ変更した。
素材の選定・費用の検討 保護者の理解が「鍵」
修学旅行の見直しについて細川校長は「平和学習や防災教育など魅力的な学習素材があり、豊かな学びを提供することで生徒の人間性が育まれることを期待した」と振り返る。
今年度の3年生を引率した山剛広教諭は、実施にあたり「学習素材の選定」「費用の検討」「保護者の理解」の3点が鍵となったと話す。
学習素材の選定については、当該学年の教員が前年度の夏季休業中に下見を兼ねて現地を訪れ、どのような体験ができるかを探る。
費用は、従来の関西連合体で行っていた修学旅行よりは若干上がったが、学習内容は充実し、ホテルの格式はアップ。さらに、追加料金無しでホテルの担当者によるテーブルマナーの指導が提供された点も魅力であった。
保護者への理解については、九州修学旅行の利点を理解してもらうためのプロモーションビデオを教員が作成し、保護者向け説明会で上映。長崎の街並みやペーロン(ボート)体験などを収録し、保護者が行程をシミュレーションすることで具体的なイメージをつかめる内容を心掛けた。
今年度の修学旅行は4月30日から2泊3日行われ、1日目は島原で防災学習、2日目は長崎市内で平和学習と班別自主行動、3日目はペーロン体験を実施。2泊共に同一のホテルに宿泊し、1日目は被爆体験講話、2日目は夕食時にテーブルマナー講座が行われた。
実施後のアンケート 約8割が九州に「満足」
同校の修学旅行は、「平和学習」が軸。山教諭は「被爆体験講和や平和集会を取り入れています。平和への思いを込めた合唱や原爆資料館に折鶴を寄贈した時の気持ちをいつまでも忘れないでほしいと願い修学旅行を終えています」と話す。
実施後の生徒及び保護者対象のアンケートでは約8割が「九州の修学旅行が良い」と回答し、費用も大半が「現行の金額で妥当」と回答。良かった体験に「ペーロン」「飛行機」「平和学習」「テーブルマナー」などが挙げられ、生徒により良い体験を提供するため「さらなる学習素材の発掘」が今後の課題だとする。
本物に触れ・本物を知り 本物を目指す学習に
荒木卓也主幹教諭 |
開校11年目の東京都立上水高等学校(西塚春義校長)は、進学・特活型の学校として国際理解教育に力を注いでいる。2年生では修学旅行として、大分県別府市の立命館アジア太平洋大学(APU)の協力により「進路探索研修旅行」と称して1期生から実施している。
「『本物に触れる 本物を知る 本物を目指す』をキャッチフレーズに掲げ、進路探索研修旅行でもAPUの留学生と交流を図ることで本物の英語に触れ、グローバルな感性を養います」と荒木卓也主幹教諭は語る。
同校では1年生は静岡県にある国立中央青少年交流の家において、2泊3日の「アメリカンサマーキャンプ」を体験。それを踏まえた上で「進路探索研修旅行」に臨む。研修は別府市の複合施設「ビーコンプラザ」を使用し、APUからは様々な国の留学生がリーダーとなってサポートする。
平成25年度は1月14日から3泊4日で実施。1日目は福岡空港から学問の神・太宰府天満宮を経て宿泊先へ。2日目からAPUとの交流を開始し、3日目にはパネルトークやプレゼンテーション等の他、留学生の案内による別府地獄めぐりも体験し、最後は「Global Talent Show」でAPU生との交流を締めくくる。
4日目は湯布院地区、宇佐八幡宮・福岡天神地区、杵築市内散策・福岡天神地区の3コースに分かれて班別自主研修が行われる。
「10月下旬から生徒による実行委員会を立ち上げ、毎週水曜に定例会を開催し準備を整えてきました。事前学習ではAPUのリーダーの出身国を調べ、英語での自己紹介に備えて練習を重ねています」
研修では、「恥ずかしがらないこと」「間違いを恐れない」「日本語は使わない」などのルールが決められる。
3日目の夜に行われた「Global Talent Show」では、宿泊先のホテルを訪れた留学生にダンスや剣道形などを披露した。
「心から行ってよかった」 生徒の肯定的意見が多数
参加した生徒からは「言語・文化・宗教の違いを感じた」、「自分の夢について考えるきっかけになった」、「心から行ってよかったと思う」などの肯定的な意見が多数を占めたという。
【2014年9月15日号】