関西方面の修学旅行では定番の京都市内観光だが、市外に目を向けると自然豊かな山河や農業地帯、先端技術の集積地、大陸との玄関口の日本海など、様々な顔が見えてくる。歴史・文化を巡る京都市内の観光に加え、今後の修学旅行でますます重視される体験型、課題探究型の学習に最適なエリアの一つが、市内から北西の方向に約1時間半、日本海を包括する「海の京都」エリアだ。
同府は京都市内を中心にそれ以外のエリアを、南から北へ「お茶の京都」、「竹の里・乙訓」、「森の京都」、「海の京都」として、それぞれの特色を情報発信している。
京都府と(公社)京都府観光連盟は先ごろ、「もうひとつの京都~海の京都エリア修学旅行現地視察会」を実施。東京の高等学校で修学旅行を担当する教員が、現地・施設等を訪問。修学旅行の観点から様々な気づきや感想を得るのと同時に、現地関係者との交流を通して生きた情報に触れた。
視察行程:1日目=京都駅→亀岡市、京都パープルサンガ・ホームスタジアム<eスポーツ「ドローンサッカー」を体験>→宮津市、<日本三景「天橋立」で股のぞき体験>→宮津市で宿泊/2日目=宮津市→舞鶴市<「野原海水浴場」で漁師さんと学ぶ海のSDGs>→民宿で昼食→<「舞鶴引揚記念館」で平和学習>→京都駅
京都市に隣接する亀岡市は明智光秀のお膝元。同地にある京都パープルサンガのホームスタジアムでは、韓国発のeスポーツ「ドローンサッカー」を体験できる。基本は5人対5人に分かれた2チームで、プラスチックフレームに囲われたドローンをボールに見立て、ゴールにドローンを通すことで得点を競う安全なゲーム。
年齢・性別や障害の有無にかかわらず、最新技術を駆使した、誰もが楽しめるユニバーサルなゲームだ。
<料金:1人1時間1000円>
【参加者の感想】勤務校では運動に苦手意識のある生徒も多く、スポーツ大会の種目も配慮している。そのため、年齢や性別、障がいの有無、運動の得意不得意等に関わらず、誰でも行うことのできるドローンサッカーは大変魅力的。チームでの協力や戦略を練ることも必要な競技で、学校教育の中で取り入れられる▽体験会場からJリーグチームのホームスタジアムのグラウンドレベルの風景が見られること自体、めったに体験できないことで、生徒にとってワクワクするいい導入になると思う。陽が当たった芝生のグラウンドは美しいと、改めて感じた。
日本三景の「天橋立」は修学旅行での利用は少ないものの、観光地としては年間約280万人が訪れる歴史的にも代表的な観光スポット。白い砂と6700本の松の並木が作る「白砂青松」の風景が3600㍍にわたって続く。
宮津湾の海流と阿蘇海の海流が交錯することで堆積した砂が砂州を形成。地学の現地学習の場であると同時に、西国三十三か所巡り第二十八番札所の成相山成相寺や文殊信仰の三文殊・天橋山智恩寺等の歴史・文化に包まれた、生きた教科書でもある。
天橋立ビューランドでは「股のぞき」を体験。廻旋橋や智恩寺等を散策する、班別行動で約2時間の滞在が推奨されている。
【参加者の感想】美しい景観が現在まで保たれている背景を考えることで、自然環境の保全と人々の取り組みといったSDGs学習にもつなげることができる。狭い水路に対応するために工夫された廻旋橋も、実際に動いているところを興味深く見ることができた▽砂州の珍しい地形は、リフトで上がれる展望台から一望出来る。地形の面では地理総合の学習などと組み合わせて、文化の面では日本史に登場する雪舟の絵画などとも組み合わせて実際に砂嘴の上も歩いてみたい。
舞鶴市の野原海水浴場では地元漁師による「野原地区の海の環境を守るSDGsの取組」を受講。さらに「海洋プラごみ採集体験」では、海洋プラスティックごみの実情を体験から学べる。採集したプラごみを洗浄、乾燥させたパーツでオリジナルグッズの工作や、ペットボトルの国別分別等のプログラムがある。
また漁師のおかみさんから指導を受け、海の恵みを感じられる干物作り体験も好評。
<座学30分・海洋プラごみ採集体験60分、1人1000円/干物作り30分(別途乾燥3時間)、1人1000円>
【参加者の感想】プラごみの多くが日本のものとわかり、生徒にも決して他人事ではなく、普段からのゴミの分別など環境問題について深く考えるきっかけとなる。そして自分で作った干物を実際に食してみたが、味は格別で食のありがたみが分かる素晴らしい体験であった。これらの体験が五感を通して、体系的に生徒がSDGsについて深く追究してくれることを願ってやまない▽天橋立をはじめとした環境の保全といった視点で、観光資源の活用と‘環境にやさしい観光地’という、ビジネスと環境保全が一体の持続可能な開発=未来につながる環境づくり・地域づくりが学べる。
太平洋戦争終戦から、海外在住日本人の引揚港18か所の一つだった舞鶴港は1958年の最終船まで、13年66万人に及ぶ帰還者を受け入れた。シベリア抑留をはじめ当時の厳しい生活の記憶を伝える「舞鶴引揚記念館」での平和学習は、現地の暮らしの様子を再現したジオラマ、実際に使われていた衣料品や雑貨、器具等が、戦争の非人間性を雄弁に語る。休日なら学生語り部の説明と共に巡ることができる。
<時間=1時間以上何時間でも、費用=学生団体1人100円>
【参加者の感想】事前に映画「ラーゲリより愛を込めて」を視聴すると、さらに学びが深まると感じた。終戦直後に海外にいた日本人が約660万人で当時の人口の約10%にあたるという事実や、現在海外にいる日本人が約140万人という資料から、戦前に日本人が国外で生活していた規模の大きさに驚かされた。これらの体験と情報を通じて、歴史の重みと現在に至るまでの変遷を深く理解する機会となった▽シベリア抑留関係の実物資料では、こんなものまで手作りしたのだと思うような資料もあり、ラーゲリの室内を再現した展示は、そうした道具がどういう状況・場で作られたかよくわかり、理解の助けになる。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年11月18日号掲載