修学旅行の定番と言える京都市内から外に目を転じると、京都府南部には宇治茶で知られる「お茶の京都」、中央部は保津川下りで象徴される自然豊かな森や川の「森の京都」、そして平和学習で注目される旧軍港・敦賀などの日本海に面した北部「海の京都」など、それぞれに地域色豊かな伝統や産業を背景にした体験と人との交流のフィールドが広がっている。京都府・(公社)京都府観光連盟が3月半ば、首都圏の学校関係者を対象に「もうひとつの京都」修学旅行現地視察会を開催。「お茶の京都」、「森の京都」でのレポートをお届けしたい。
京都駅から南へ車で約60分、奈良県をはじめ滋賀・大阪にも隣接する「お茶の京都」のさらに南端に位置する和束町は、宇治茶の約7割を生産する一大産地。
同町を含む近隣4市町村は京都やましろ体験交流協議会<(一財)和束町活性化センター内>を結成し2014年から農家民泊を受け入れ、必須のお茶汲み体験をはじめ、野菜作り・収穫体験、時期により茶摘み・お茶づくりなどが体験できる。
高齢化やコロナ禍を経て現在の受け入れ可能な家庭数は70軒120人程度だが、同協議会が窓口で責任を持って受け入れ家庭を紹介。各家庭は年間3回程度、安全・衛生の研修会参加が義務づけられ、最新情報でブラッシュアップしている。
受け入れ家庭、病院、警察・消防署等は全て、引率教員の宿泊・連絡場所になる「京都和束荘」から40分圏内にあるので心強い。
宿泊家庭での食事については、生徒個々の食物アレルギー等の情報を共有。「一汁三菜、使用食材は地場・県内産、生徒も一緒に作らせる、必ず家族そろっていただく」など共通の約束事もある。
「食育の一つとして考えている。カレー、ハンバーグなど生徒が喜びそうな食事はあえて供さない」(コーディネーター鍵岡智さん)という徹底ぶりだ。
2泊3日修学旅行の場合、初日又は2日目の午後入村式、各家庭(3~5人)に分かれ農業体験・夕食・宿泊、朝食・農業体験(オプションで昼食)・離村式という流れが基本的なプログラム。地域の高齢化という切実な事情もあって、ビジネスとしてよりも人(特に若い人)との〝交流〟の機会としての受け入れ希望が強いという。
受け入れ家庭の一人・西田ひろみさんは「また来たい」という生徒の声が続けるうえでの励みだと言う。受け入れを始めた当初、ご飯を残されることが一番のショックだったが、今では自分達で食べられる分だけ、盛りつけも自由にさせている。「一緒にお茶をひき、茶葉を使ってご飯を作るなど良い体験になる。最近はいろいろやらせて、そこから私も学ばせてもらっている」(同)。
参加者からは「せっかくの自然や人との触れ合い体験に水を差したくない、離村式が済んだらそのまま学校まで、感動を持ち帰らせたい」と感想がもれた。
お茶を中心とした歴史と文化、そして対称的な先端技術・産業が集まる宇治市まで、京都駅から電車で約25分、車で約30分。お茶と宇治のまち交流館「茶づな」、10円硬貨にデザインされた宇治平等院、科学技術研究都市けいはんな地区など班別行動・体験学習に適したポイントが豊富だ。
「茶づな」の有料エリア「宇治茶の間」では、日本茶・緑茶からウーロン茶、紅茶までお茶は11種類に分類でき、それらは同じお茶の葉が成育方法や熟成・製造方法の違いによるものであることなどが、様々なパネルや映像による展示で解説。さらに「歴史の間」では近隣の平等院、菟道稚郎子(うじのわきいらつこ)の墓、二子山古墳等の情報も得られる。2階の200人収容の会議室は雨天プログラムにも対応する。
五感を使ってお茶を体験する「茶香服」(ちゃかぶき)は、鎌倉・室町時代の「闘茶」がルーツとされる、特権・上流階級による典雅なゲーム。その体験版プログラムは約1時間、碾茶(てんちゃ、抹茶の原料茶)、煎茶、玉露という3種を飲み比べ種類を当てるもの。1回に最大36人まで体験できる。
最初に「お茶インストラクター」からお茶の生育、収穫・製造等の概要説明があり、それぞれの特徴が聞ける。試飲では教えられた通り、色や香り、味の違いなどを観察し、感じた結果をシートに記入して答え合わせ。最後は香ばしいほうじ茶を頂きながら、ここだけの煎茶・番茶のお茶団子がご褒美で締めくくり。
同所から平等院には、宇治川沿いを上流に向かって散策しながら日本最古の橋とされる「日本三橋」の一つ・宇治橋を渡り、約15分程度で到着。お茶所・宇治らしいお茶尽くしの各種飲食店や土産物店が連なる参道は、他では見られない光景だ。
京都市の北西に位置する「森の京都」エリアにあり京都駅から車で約40分の亀岡市。「保津川エコnaラフティング」などで、レジ袋などのプラごみが環境に及ぼす影響を座学で学び、観察・回収して体験から学べる、ここだけでしかできないSDGs学習の場。
森林から切り出した木材の水運から始まった1,300年続く操船技術を観光事業に生かした保津川下りには、年間23万人の観光客が乗船に訪れる。
しかし流域から流れ込むプラごみは年々増加し、よどみや倒木等に引っかかり景観を著しく阻害。見かねた船頭さんが約20年前に2人で始めた川面のプラごみ集めだったが継続するにはマンパワー不足だったため、イベント化して「ハートクリーン作戦」に発展。2007年、保津川遊船企業組合内に保津川エコグリーン委員会が発足。
スポンサーの支援を得て作成した「オンライン ごみマップ」に、自治会を巻き込んで、流域のごみの量・種類などごみ情報をタイムリーで〝見える化〟。川下の瀬戸内海には年間で推計4,500㌧のごみが流入することを数字で示した。
2012年8月、初めて海のない内陸・亀岡市での開催となった第10回海ごみサミットでは「川のごみをともに考える京都流域宣言」(京都府知事)を公表。継続・強化するごみ回収活動を背景に、100%エコバッグ使用を目指して自治体で4番目の「亀岡プラごみゼロ宣言」(2018年12月13日)、そして2021年1月1日「レジ袋提供禁止条例」が施行された。
支流のモニタリングでは、2011年は20㍑で190袋だった回収ごみ量が、2020ではわずか10袋にまで減少した。20年前に活動を始めた1人、保津川遊船企業組合代表理事・豊田知八からは、プラごみが自然や生態系に与える影響の深刻さについて、この間の活動の歩みと共に聞くことができる。
「保津川エコnaラフティング」はボートで川を下りながら川岸のごみの調査、清掃を行う約3時間のコース。1日2回・各100人まで/1人6,000円。初級コース「保津川ラフティング・千代川わくわくコース」(2時間/4,000円)もある。
【保津川遊船企業組合】
展示室入り口で博物館概要の説明を受ける京都府京都文化博物館は京都市内の中心部・三条通りに面した好位置に立地。大量の出土品から、放送中の大河ドラマで話題の藤原道長の邸宅跡地だったのではないかと推定される地で、別館は重要文化財の旧日本銀行京都支店。その歴史に包まれた雰囲気だけで学びへの期待が膨らむ。
高校生以下は入館無料なので、市内の班別学習・自由行動のための事前学習の確認や新たな情報の収集、探究のテーマをリサーチするといった使い方ができそう。ボランティアガイドも常駐しているので、生徒が積極的にコミュニケーソンをすることで思わぬ発見があるかも知れない。
総合展示室には平安~江戸まで時代ごとの京都を描いた大画面の「絵巻回廊」で京都の歴史の流れを概観。さらに「京の歴史」、「京のまつり」、「京の至宝と文化」といったカテゴリーから歴史・文化を興味深く紹介している。
【京都文化博物館】