2022年度から「総合的な探究の時間」が高等学校で必修化され、修学旅行でも地域特有の課題に取り組むなど探究的な学びが行われている。「総合的な探究の時間」の教材制作・販売などを行う㈱トモノカイは㈱日本旅行と共同でWebセミナー「最新事例から学ぶ『修学旅行×探究』-`異日常’の体験からはじまる地域探究の実践-」を12月20日開催した。
椎葉氏は「修学旅行×地域探究 最新事例」をテーマに新型コロナを経て変わりつつある修学旅行の事例を紹介。生徒は修学旅行という異日常を体験することで成長するとして、地域課題の解決をテーマに実施した修学旅行を取り上げた。
長崎県壱岐市では離島ならではの課題を見つめ直すためのプログラムを開始した。子供たちは大学に進学すると島を離れていくが、人口減少を食い止めるため、大学卒業後は島に戻ってきてもらうことが求められる。そこで壱岐市では慶應義塾大学SFCや企業と連携して課題解決を目指すコンテンツを修学旅行のプログラムに取り入れた。
具体的には2泊3日の行程で、地域課題について調査・研究を進める「壱岐なみらい研究所」が取り組んでいる題材をディスカッションで生徒に提示。「持続可能な漁村の実現」「兼業でも持続可能な農業の実現」「高齢化が進む民宿のあり方」などの課題から生徒が好きなものを選び、調査した結果を発表する。探究活動の成果として「ボラの活用法を研究することで未利用魚を減らす」「廃棄されるアスパラの利活用を考える」など予想を超える回答が返ってきた。
北陸新幹線の金沢~敦賀間が3月16日に開業するが、福井県や石川県では新幹線延伸に伴った次世代修学旅行を進めている。福井県では地元の5つの高等学校の取組を福井県教育委員会がサポート。高校生が将来の地域の担い手となるべくPR動画などを作成し、地域課題の理解を深めるような新しい修学旅行プログラムを生み出す。
「修学旅行の誘致を通して生徒たちが地域について学び、地元の良いところに気づいていくのを感じた」と椎葉氏は語る。3月に開催される「サステナブル・ブランド国際会議」では、全国の高校生を招待し、福井県の高校生が観光プログラムを発表する。
石川県は修学旅行の誘致に向けて、地元の高校生が地域の魅力を発信できる観光ガイドとして活動するための準備を進めている。小松商業高等学校では那谷寺や安宅関のガイドの練習を進めており、2024年度から修学旅行生に向けてガイドを実施する予定。
木村氏は「異日常の体験からはじまる地域探究の実践」をテーマに修学旅行と地域探究を接続させる意義について解説した。東京都新島の村議会では学校への出張講座を行っているほか、議場では議員と児童生徒との意見交換も行われている。また、地域活動の探究化に向けて2017年度から島体験交流イベントを実施。地元の高校生や千葉大学の学生が婚活で島を訪れた人に対して、飲み物を提供するバースタッフとして活動した。
地域と交流する教育旅行のメリットは住んでいる地域と異なる社会モデルであっても、地元の人と互いに助け合う関係性を学べることにある。しかし、訪れる学生が毎年変わることで取組が継続されないため、経験を蓄積するための工夫が必要となる。
教材を活用した修学旅行の例として、熊本県ではワークブックを活用し、火山などの自然や防災・減災を学ぶ取組が行われている。熊本の人が自然の恵みや災害に対して、どのように向き合ってきたかをワークショップで話し合い、そこで挙がったものを「災い」「恵み」「制御できる」「制御できない」などの軸で整理する。
静岡県の伊豆半島では教材「伊豆×探究~美しさとSDGs むすんで つないで~」を活用。伊豆半島の環境や人をSDGsの視点で見つめ、探究学習的手法で深めた。探究を掘り下げるときの視点として「探究ものさし」を生徒に提示。それをもとに柔軟性のあるワークショップを展開した。
また、福島県田村市にはさまざまな探究学習の要素がある。星の村天文台の太陽望遠鏡で黒点やプロミネンスを観測し、美しい星空を未来に残していくためにはどうすれば良いか考えるプログラムを展開。また、「あぶくま洞」を巡って地域資源を活かした産業保全について学ぶプログラムなどを用意。あぶくま洞と星の村天文台は隣接しており、太古の地球から未来までを見越した地球環境を学ぶことができる。
教育旅行と地域探究を接続させる意義として、普段とは異なる日常を地域の視点から補足することがあげられる。体験プログラムを通して交流を図ることで学びを深められるという。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年2月19日号掲載