(一財)3・11伝承ロード推進機構は、震災伝承施設のネットワークを推進し、地域の防災力の向上を目的に「防災・伝承セミナーin青森」を八戸市公民館の会場とオンラインとのハイブリッドで10月26日開催した。災害体験を語り継ぐ施設の学習活動、観光を通した伝承の工夫などの実例が語られた。
弘前大学教授・片岡俊一氏の基調講演「災害を100年後に伝える」では関東大震災から100年目の今、教訓を伝えなければいけないと語る。
関東大震災は死者・行方不明者数10万5385人。陸軍本所被服本廠跡地では火災による死者が3万8000人に上るなど死因の87%は火災となっている。流言飛語による犠牲者もあった。
100年前と現在を比較すると、当時の東京の人口は約370万人、現在は約1400万人。当時の主な情報手段は電信・電話だったが、現在はインターネットが普及している。首都圏直下地震に見舞われた場合、耐震対策が進んでいるので倒壊する建物の割合は減少しているが、建物自体は増えている。人口や情報は過多となり、そこから新たな被害が発生する恐れがある。
1896年の明治三陸地震では死者・行方不明者数は約2万1959人。1933年の昭和三陸地震は死者・行方不明者数が3064人に抑えられた。明治の地震の後、津波の恐ろしさを伝えた記念碑が後世の人の命を救った。災害軽減には事前対策が最も重要だが、事後対策は後世への事前対策だと重要性を述べた。
「震災伝承と観光について~震災伝承に求められる新たな役割と震災伝承の活性化について~」をテーマに青森県八戸市長・熊谷雄一氏、八戸市みなと体験学習館館長・前澤時廣氏、ACプロモート代表取締役・町田直子氏、同推進機構業務執行理事・原田吉信氏、進行は東京大学公共政策大学院特任准教授・三重野真代氏で話し合った。
熊谷氏は八戸市の震災復興と震災伝承の取組を語った。東日本大震災で八戸市の被害は死者1人、行方不明者1人、負傷者70人。11年から20年までの10年で「被災者の生活再建」「地域経済の再興」「都市基盤の再建」「防災力の強化」の4つの基本方向を掲げ復興施策を進めてきた。
青森県内唯一の震災伝承施設の八戸市みなと体験学習館を19年7月に開館し、津波被害を後世に伝えている。「災害時には一人ひとりが自分の命を自分で守るために正しく判断し、行動に移すことが大事」と語り、今後も災害に強い町づくりに取り組むと述べた。
八戸市みなと体験学習館長の前澤氏によると、同館所在地は河口近くだが海抜27㍍、古くから津波の避難場所に指定されていた。児童は防災士と共同で津波タペストリーを作成し、八戸に押し寄せた津波の高さを学ぶことができる。災害の恐ろしさを伝えるため、自身が体験したチリ地震津波の様子を語るほか学校への出前講座も。施設内の「みなとカフェ」では非常食をアレンジして提供している。学校給食にも提供し児童生徒の防災意識を高めたいと語る。
ACプロモートは環境問題と施設の利活用を考える体験ツアーなど観光コンテンツを開発。町田氏は観光の視点から伝承施設の利活用を語った。
地域資源の活用には付加価値が求められるため、地域の魅力や震災被害を伝え、心に残る施設として再訪される施設となることが必要。被害から立ち直った漁師と協力し「漁師のもてなしランチ」で観光客を迎えている。観光を通して震災を伝えることで、記憶の風化を防ぐと述べた。
同推進機構の原田氏によると震災伝承施設は青森・宮城・岩手・福島に全317施設。災害の教訓が理解できるものや防災に貢献できるものを第1分類、その中で来訪者が訪問しやすい施設を第2分類、その中で来訪者の理解のしやすさに配慮している施設を第3分類に分けている。クオリティの高い第3分類は22年度末で65施設にまで増えている。
首都圏の男女5000人を対象に震災伝承施設の認知度を調査したところ、行ったことがある施設は八戸市みなと体験学習館が最多で136人。最も多かった理由が「防災対策の参考にしたいから」の65人だった。観光目的でもそれがきっかけで防災意識が高まるのではと原田氏は考察する。
片岡教授は「災害の記憶が薄れていくのは仕方がないこと。それを前提に、忘れていたことを思い出させる役割が伝承施設にはあるのではないか」とアドバイスした。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年11月20日号掲載