広大な自然と豊かな農水産物、異文化との共生や再生可能エネルギーの集積など、学びへの多様なアプローチができる北海道は、学習としての修学旅行に最適。(公社)北海道観光振興機構は9月、学校の教員にその現地を見て考察してもらう「北海道(道央圏)教育旅行現地視察会」を開催。関西方面から中・高校の教員が参加。2日間にわたり6か所の施設を視察した。ここでは参加者のレポートを中心に、それぞれの施設概要やSDGs目標との関連について紹介する。
近年の修学旅行には、教室や教科書での学びを踏まえながら、それだけでは得られない体験と感動、出会いや発見などをキーワードにした、発展的な学習のプログラムが求められている。特に新学習指導要領で本格スタートした`探究学習’は、生徒が自ら`問い’をたてて、必要な情報を様々なメディアや関係者・機関から収集し、整理・発表する、主体的に学ぶ新しい学びであり、PBL(課題解決型学習)との新和性も高い。
視察会では、北海道だからこそ可能な「SDGs教育」を打ち出している。広大で豊かな自然から生まれる農畜産物、水産物など食糧の生産拠点であり、生物多様性の宝庫。風力・太陽光発電をはじめとした自然エネルギーの進展も目の当たりにできる。
さらに先住民族をはじめ多様な文化との共生、色濃く残る近代産業の発展の遺産など、切り口は無数。学校が求める教育目標の達成に向け、工夫して取り組むことができる。
しっかりした事前学習が現地での体験を学習として深め、まとめの事後学習で成果を示す。修学旅行に求める学習の一つとして検討できる。
新千歳空港から15分というアクセス良好な位置にある「ノーザンホースパーク」。団体用の広い食事会場のバックヤードグリルがあり、旅行初日や最終日の食事会場として利用する学校も多い。
(公財)都市緑化機構のSEGES(社会・環境貢献緑地評価システム)のうち、起業緑地認定「そだてる緑」(全5か所)の1つに認定されているなど、北海道らしい森林を保全する中で馬と触れ合う体験ができる。
【参加者の意見感想】
▼北海道の大自然との共存を肌で感じられる環境が視界に広がり印象的。日ごろ大自然と触れ合う機会の少ない生徒にとって非日常を感じられる貴重な体験である。アクティビティも充実し、体験活動等としても行程に組み込みやすいプログラムになっている。(大阪・公立中学校)
▼空港からのアクセスも良く、自然の広さを感じられる施設で、自由時間を確保すれば生徒達もゆっくりと北海道を楽しめると思う。自然だけでなく北海道と競走馬との関係、アイヌの方々と競走馬の関りなども事前学習のコンテンツになり得る。SDGsの観点で捉えれば、体験や食事以外にも学習の幅が広がる。(大阪・公立中学校)
▼自然体験として、アクティビティ寄りではなく生き物との触れ合いや見学ができ、北海道ならではの観点での学びができる。(大阪・公立中学校)
▼厩舎や馬が放牧されている姿など、本州ではあまり見ることができない雰囲気を感じることができ、訪問するにはすばらしい施設。(兵庫・私立中学校)
「ウポポイ(民族共生象徴空間)」は先住民族のアイヌ文化を知り、振興・発展させる象徴的な施設として2020年にオープン。アイヌの歴史・言語などを紹介する「国立アイヌ民族博物館」、アイヌ文化を五感で体験する「国立民族共生公園」などで構成。多様な展示や芸能鑑賞など、視覚的にも民族共生を考える素材が豊富。
【参加者の意見感想】
▼事前学習としてアイヌの歴史の概略を生徒が調べ、旅行用パンフレットにまとめておく等の活動が想定される。アイヌが差別されてきた負の歴史については、教員が意識させないと学びづらい。講演会など事前学習でしっかり意識させておくことが必要だろう。(京都・私立中・高校)
▼先住民族の多様な文化を学ぶだけでなく、実際に伝統芸能を鑑賞でき、肌で感じることのできる施設。歴史や民族にあまり興味を持てない生徒にもきっかけの作りやすい展示で、事前学習や事後学習へとつなげやすい印象を強く持った。(大阪・公立中学校)
▼人権学習を丁寧に扱いたい大阪の学校には、SDGsの「不平等」「平和と公正」等のテーマを通して、先住民族問題についてしっかり事前学習させることによって、訪れることで学習旅行の大きな柱となりうる場所。(大阪・公立中学校)
▼施設がコンパクトにまとまり、2~3時間程度で見学できるのは魅力的。駐車場からの移動距離が短く生徒を把握しやすい。また事前学習資料も準備されているため、教員の修学旅行に対する負担軽減が見込まれる。(兵庫・県立高校)
洞爺湖を眼下にゆっくり上る「有珠山ロープウェイ」から「Mt.USUテラス」に降り立つと、噴煙のような水蒸気を上げ続ける有珠山が目の前。今も数10年周期で噴火する有珠山の周辺は、生きた自然災害が学べるユネスコ世界ジオパークの一つ。自然災害や減災の知識を、「洞爺湖有珠山火山マイスター」や「ジオパーク火山村情報館」から学べる。
【参加者の意見感想】
▼社会科の「公共」の防災学習と結びつける工夫ができそう。地震や土砂災害を学んだ上で、地域ごとの防災の観点の相違点や共通点を学ぶように仕掛けるとよいと思われる。地理の地形学習と関連して火山やカルデラ湖等の形成を確認し、現地で実際に見ると学びの実感が得られるだろう。(京都・私立中・高校)
▼自然の織りなす地形、自然災害の恐ろしさ、防災等、様々な学習ができる。理科の教員として是非とも訪問したい施設。現地での学習プログラムも確立しており、安心して任せることができる。(兵庫・県立高校)
▼自然の偉大さと圧倒的存在感を感じられ、教科書では学ぶことのできない臨場感がある。噴火によって移動した山、噴火によってできた山、実際に噴火口から発生している水蒸気などここに来なければ体験できないことばかりである。総合学習のテーマ「防災」を先駆的に実践しているので、規模は違えど地域の防災に役立つ学習へとつなげやすい施設である。(大阪・公立中学校)
▼そばに人々の暮らしがあり観光地も広がっており、まさしく共生があった。噴火時の対応を知り、次への備えを火山マイスターの方の姿勢そのものから学ぶことで、本校でも事後学習として震災への備えにすることができると感じた。(兵庫・私立中学校)
「ルスツリゾートホテル&コンベンション」は、敷地の内外に、夏はラフティングやアウトドア・酪農業体験、冬はスキーなど豊富なプログラムが揃い、年間を通じた学校利用で評価が高い宿泊施設。広い食事会場、屋内待機場所、室内遊戯・スポーツ施設など受入れが整っている。
スタンダードなリゾート型客室棟、1棟1校対応型、ロッジ等、4つの宿泊棟を持つ。
【参加者の意見感想】
▼食事の内容、受入人数、アクティビティ等、大規模校でも受け入れ体制がしっかりして、シーズンを通して利用できる。食事の成分表示も分かりやすく、安心して食事をすることができる。(兵庫・県立高校)
▼季節を問わずアクティビティが充実しており、生徒の状況に合わせたプログラムを作成しやすい印象。大きな集会施設もあり全体指示なども非常にしやすい構造になっていた。また施設内に遊園地やショッピング施設も併設されており、すべての要素を兼ね備えている複合施設であった。収容人数も非常に多く、学校が管理しやすい作りやサービスの準備があり、学校関係者としては非常に活用しやすい施設だった。(大阪・公立中学校)
▼修学旅行受け入れに関して実績があり安心感がある。宿泊施設にとどまらず、滞在型(体験を実施)の施設としても大変興味深い(冬季以外でも)。食事会場のアレルギー対応については評価できる。宿舎の形状は就寝時の管理がしやすい。(大阪・公立中学校)
▼豪華な複合施設や素敵な部屋を楽しめるなど、是非組み入れて生徒たちを喜ばせたい場所。自然体験等ができる施設もあり、この施設でも十分に北海道を楽しめると感じた。思い出にすると同時に、また改めて訪れたいと思わせるような教育旅行の作り方についても再考できた。(大阪・公立中学校)
赤レンガの建物`開拓使館‘は、1965年まで製糖・製麦工場として使用され、66年に「サッポロビール園」に生まれ変わった同園のシンボルで、北海道遺産である。内部には嗜好を変えた3つの大ホール、日本最古のビール博物館やミュージアムショップ。新鮮な肉で楽しむジンギスカンが同園の定番だ。
【参加者の意見感想】
▼昼食場所として活用でき、生徒も現地でのジンギスカンに満足すると思う。建物は歴史と風格もあり、隣の博物館の見学を加えることも可能。札幌市内散策を行程に組み込むことを想定すれば活用できる施設だと感じた。(大阪・公立中学校)
▼北海道の雰囲気を味わえる昼食場所。到着日の昼食での利用が、生徒の気持ちを上げていくのにちょうど良い。(京都・私立中・高校)
▼加工品の成分表示もされており、安心して食すことができる。排煙が気になったが、それも一つの演出なのだろう。(兵庫・県立高校)
「えこりん村」は環境負荷の低減、SDGsを前面にした農業・畜産を実践するエコロジーテーマガーデン。農業学習、環境学習の多彩なプログラムの他、無農薬で管理された草原や羊やアルパカの牧場、ギネス認定のトマトの木等の園内コンテンツが豊富。
園内から出された有機廃棄物から生成したバイオ燃料で走るトラクター等、生きたエコロジーが体験できる。
【参加者の意見感想】
▼環境問題に積極的に取り組まれ、様々な学習ができる施設。生ゴミのリサイクルや油のリユース・リサイクルの施設を生徒には体験させたい。(兵庫・県立高校)
▼SDGs及び環境学習の観点から子供が取り組みやすい内容で、コンセプトがわかりやすく実生活にリンクしやすい。(大阪・公立中学校)
▼関西でも有名な「びっくりドンキー」の会社が運営しているということだけでも非常に大きなインパクトがある。あらゆるところにSDGsが盛り込まれており、油の再利用やびっくりドンキーで使用されていたお皿を再度加工して利用しているレストランなど、エコが目に見える形で学習できるので、自分たちの身の回りで何ができるのかという次の行動をイメージしやすいのではないかと感じた。(大阪・公立中学校)
▼SDGsの取組がかなり進んでいて、学びの要素が多い。中学での総合学習や理科での学習を踏まえて、現実的にどのような対策を実行しているか確認できる場所だ。(京都・私立中・高校)
▼食・農業・環境についての学びとして、とまとの木、羊の放牧地、豚の放牧地等、本州では見られない景色を見ることができた。(兵庫・私立中学校)
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年10月16日号掲載