全国の博物館や美術館などが参加する「おうちミュージアム」は、新型コロナウイルス感染症拡大のため、2020年2月末に全国の小中学校が臨時休校になったことを契機に、同3月4日から始まった取組だ。北海道博物館が全国のミュージアムに声をかけた。長期間自宅で過ごす子供たちのために「おうちで楽しく学べる」をコンセプトに、全国のミュージアムが共にオンラインで情報を発信する。現在230以上のミュージアムが参加。北海道博物館研究部博物館研究グループ/学芸部 道民サービスグループ・渋谷美月氏は、「全国のミュージアムがこれまでやってきたことや、新たに取り組んだことを可視化できたことが大きな収穫」と話す。
「おうちミュージアム」は、北海道博物館ウェブサイト内に特設ページ(https://www.hm.pref.hokkaido.lg.jp/ouchi-museum/)を設け、参加ミュージアムを一覧できるリンク集として情報発信している。
リンク先のミュージアムにも「おうちミュージアム」一覧ページと相互リンクすることによって、全国の参加館を行き来することができる仕組みだ。参加館が一目で分かるよう、デザイン性の高いロゴマークも用意。コロナ禍にあって、それまで個別に情報発信していたミュージアムが一緒に取り組むことで、より多くの人にアプローチできるようになった。
参加しているのは、博物館や郷土資料館、美術館、科学館、生涯学習館、図書館、館を持たない教育委員会やデジタル博物館など、幅広い分野の施設や組織。各館がそれぞれの特色を生かしたコンテンツ――工作や科学実験、学習素材、ゲーム、その地域ならではの生き物の鳴き声などを、動画やワークシートなどのさまざまな形で――WebサイトやFacebook、Twitter、YouTube等で発信する。今年6月時点で230以上のミュージアムが参加し、現在も毎月参加館が増えている。
住んでいる地域とは離れた場所からでも全国のミュージアムにアクセスでき、リンク一覧によってこれまで触れることのなかったジャンルに興味を持つきっかけになる、といった点も魅力だ。
「子供たちのために何かできないか」という、おうちミュージアムの主旨は、全国のミュージアムの共感を集め、多くのミュージアムの参加につながった。受け取る側にとっては新しい学びの発見となり、〝休校期間中に小学校のHPに掲載、児童の図工の課題にする〟等の反響もあった。
おうちミュージアムを企画した北海道博物館の渋谷氏は、同企画の開始後4か月ほど経過した昨年7月22日~8月25日に、参加館を対象にアンケート調査を行った(有効回答数147)。
設問「どのような利用者に使ってもらったか」(複数回答可)では、個人家庭81・5%、保育園・幼稚園・学童保育等9・2%、小学校16・2%、中学校・高等学校4・6%、大学8・5%、高齢者施設0・8%、福祉施設(障害者施設等)2・3%等となっており、小学校での活用が比較的多い。教育委員会などを通して学校に直接広報したり、クラフトを学校に配布した事例もあった。
「これまでは『博物館に来てもらうこと』が大前提で、『いろいろな理由で博物館に来られない人』への取組をきちんとしてこなかったと思う。(オンラインの発信は)博物館活動のひとつの形として、いろいろな可能性がある」というアンケート回答もあった。なおコロナ禍やおうちミュージアムをきっかけに、オンライン活動(SNSを含む)を新たに始めたケースは19・0%。
遠方に住んでいたり、病気や障害、不登校、貧困、多忙といった、さまざまな理由で来館できない人に向けた活動の必要性の気づきにもなった。
ミュージアム同士の交流も生まれた。おうちミュージアムの参加館では、12月と今年1月にオンラインの交流会を実施。全国から50人が参加し、実践の共有や意見交換を行った。Twitterの♯(ハッシュダグ)を活用し、同じテーマで各ミュージアムが投稿する「♯全国SNSミュージアム巡り」のアイデアも生まれ、積極的な情報発信が続く。
おうちミュージアムをきっかけに、学校の実践につながった事例を紹介する。「全国のミュージアムを教育現場で活用して欲しい。学校の先生方に知って頂くためにも、おうちミュージアムが、そのきっかけになれば嬉しい」(渋谷氏)。
在マレーシア日本国大使館付属ジョーホール日本人学校の理科の教諭が、おうちミュージアムの取組を知ったことをきっかけに、十日町立里山科学館越後松之山「森の学校」キョロロ(新潟県)との交流が生まれ、同校にて里山の自然をテーマにしたオンライン授業が実現した(=写真)。
授業は、2年生「里山の生き物と環境保全活動について」、4年生「日本の四季の自然と里山の生き物について」。マレーシアでもコロナ禍による自宅でのオンライン授業が続く中、5000㎞離れた日本とつないだ授業は子供たちにとって貴重な時間となった。
ミュージアムと学校が連携し、小学校同士の交流も実現した。大淀川学習館(宮崎市)では、宮崎大学の研究の一環として、山間部と沿岸部の2つの小学校を結び、Web交流学習を実施。それぞれの地域の特産品でもあるウナギとイセエビについて学び、これからもおいしく食べ続けるために何が問題で、どうすればいいかを子供たちが考え、意見を出し合った。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年6月21日号掲載