7月12日、北海道白老町に「ウポポイ(民族共生象徴空間)」がオープンした。アイヌの歴史・文化を学び伝えるナショナルセンターだ。先住民族であるアイヌの文化は、独自な言語や歴史を持っており国の重要な文化でありながら、現在、存続の危機にある。ウポポイはそのアイヌ文化の復興・発展の拠点として注目される。
アイヌは独自の言語、文化、歴史を有する先住民族だ。かつては本州北部、北海道、樺太、千島列島に住み、狩猟・漁撈、採集、農耕、交易を生業とし、コタンというコミュニティーを形成して暮らしていた。衣服や道具、アイヌ文様、口承文芸、歌や踊りなど、固有の文化が発展し、その豊かな世界観は、他にはない独自のものである。
ウポポイは、その文化を復興・発展させる拠点であり、将来に向けて先住民族の尊厳を尊重し、差別のない多様で豊かな文化を持つ活力のある社会を築くための象徴でもある。「ウポポイ」とはアイヌ語で「(おおぜいで)歌うこと」を意味している。
ウポポイは、自然豊かなポロト湖のほとりの10ヘクタールの敷地に「国立アイヌ民族博物館」と、体験型フィールドミュージアム「国立民族共生公園」と、「慰霊施設」で構成されている。
「国立アイヌ民族博物館」は、先住民族アイヌの歴史と文化を主題とした日本初の国立博物館。基本展示室では、ことば・世界・くらし・歴史・しごと・交流、の6つのテーマを、資料と共に紹介している。他にも「シアタープログラム」等が用意されている。
「国立民族共生公園」の「体験交流ホール」で上演されるのは、ユネスコ無形文化遺産に登録されている「アイヌ古式舞踊」。最新の映像技術や北海道の美しい映像による演出の中で、伝統的な歌や踊り、楽器の演奏が紹介されており、アイヌの世界観や自然観を体感できる。
「伝統的コタン」では、アイヌのくらしと文化の解説を行う「コタンの語り」をはじめ、仕掛け弓や丸木舟操舟などの実演と解説、伝統的家屋「チセ」の内部見学等ができる。「工房」では、木彫りや刺繍など伝統工芸の実演の見学等ができ、さらに「体験学習館」では実際に調理や楽器演奏等も体験できる。
また「慰霊施設」はポロト湖の東側の高台に整備されている。アイヌの人々による尊厳ある慰霊を実現するための施設だ。
オープン以降、すでに多くの学校団体がウポポイを訪れ、8月~9月初旬までに、主に道内から、小学校37校、中学校82校、6000人近くの児童生徒が訪れた。年度内は小学校280校、中学校279校、高等学校30校の予約が入っているという(9月2日時点)。今年度は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、特に中学校は、道内からの利用が多いという。高等学校は全国各地から訪れる予定だ。
新学習指導要領では、社会科や地理歴史科でアイヌ文化の学習機会が増える。ウポポイでは学校教育に即した学習プログラムや教材教具の開発・提供等にも力を入れる。
ウポポイの運営に携わる、(公財)アイヌ民族文化財団誘客広報課・西條林哉課長は「学校で学んだことを、博物館で見て再確認し、授業とはまた違った雰囲気の中で、楽しみながらアイヌ文化を感じて欲しい」と話す。
現在、学校団体向けプログラムとして、初歩的なアイヌの歴史と文化について学習する「はじめてのアイヌ博」「ムックリ演奏体験」「食体験」が用意されている。
■学校団体予約は、小学校・中学校・義務教育学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校、高等専門学校で、教職員が引率する学習利用が対象。団体入場料は高校生が480円、中学生以下無料。
現在は今年度(2021年3月末まで)入場予定の学校団体予約を受付中。2021年度入場分は12月頃開始予定。
〈団体予約受付センター〉TEL011・206・7427 Eメールgroup@ainu-upopoy.jp
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2020年9月21日号掲載