福岡県や大分県では、最新技術でSDGsを推進する環境事業、平和の大切さを今に伝える平和学習、国際色豊かな留学生との対話プログラムなど、多彩な学習素材が整備され、教育旅行先としての魅力が増している。(一社)九州観光推進機構は昨年12月21・22日の2日間、「九州修学旅行現地視察会」を西日本方面の中学校教員を対象に実施。今年度は福岡県北九州市、大分県別府市、福岡県朝倉郡を巡った。
1日目:小倉駅=北九州市エコタウンセンター=北九州次世代エネルギーパーク=響灘ビオトープ=小倉城=別府市内宿泊/2日目:別府GEPプログラム=大刀洗平和記念館=新鳥栖駅
北九州市は、ものづくりと公害克服の歴史が学べるSDGs未来都市だ。同市の小倉駅までは、新大阪駅から新幹線で約2時間。そこからさらにバスで約20分移動すると、北九州エコタウン事業の関連施設が密集する北九州市若松区で環境学習が行える。
一行はまず、資源循環型社会の構築を図っている「北九州市エコタウンセンター」(福岡県北九州市)を見学。
ここでは、エコタウンや次世代エネルギーパークの紹介、見学の受け付けや工場見学ツアーを案内しているほか、環境学習や産業観光、学校の社会科見学、企業・行政の視察や社員研修を実施している。
エコタウン事業の各コースの定員は100人(コースによっては50人)だが、それ以上の大人数も、事前相談があれば受け入れ可能だ。概要説明(45分)と施設見学2か所(60分)を組み合わせたコースを実施できる。概要説明のみの受け付けも可能。
HP=https://www.kitaq-ecotown.com/center/
多種多様なエネルギー関連施設が集積する「北九州次世代エネルギーパーク」(福岡県北九州市)では、日常生活を支えるエネルギー供給基地や、太陽光・風力・バイオマス発電などの再生可能エネルギー施設が見学できる。同市では現在、国内最大級の洋上風力発電所計画として、響灘洋上風力発電施設の設置事業も進めている。
参加者は、風速3mから発電可能な全長100mの陸上風力発電施設を見学。同センター職員から、響灘は風が強く風車1台あたり年間一般家庭1000軒分を発電することや、風力発電の発電量はブレードの大きさに比例することなどを聞いた。
天候の良い日には、響灘沖の浮体式洋上風力発電施設も視認できる。このような施設があるのは、国内では福島県・長崎県・福岡県の3か所のみ。今後ますます重要性が高まる持続可能なエネルギーについて、学びを深められる見学施設となっている。
10~11月の見学者が多く、バスは7台程度まで受け入れられる。
HP=https://www.kitaq-ecotown.com/enepa/
「都市と自然との共生するまち」を目指す「響灘ビオトープ」(福岡県北九州市)では、多くの生き物が生息し、周辺の環境と区別された生態系が成立している。生物の観察による自然学習のほか、廃棄物の埋め立て後にできた凹凸の地形によって生じた湿地や淡水池・草原などを維持するため、地形を変えないように覆土方法を工夫し、数年かけて小分けして整備された経緯も学べる。
野鳥を観察する「野鳥観察施設」は、湿地部と淡水池の2か所に設置。生物多様性関連の情報を発信する「ネイチャーセンター」、湿地でチョウトンボなどが観察できる「水上デッキ」もある。
絶滅危倶種のコアジサシが営巣できるようにした約1haの「砂れき地」や準絶滅危倶種であるミサゴ用の人口巣「ミサゴポール」も設置されている。
HP=www.hibikinadabiotope.com/
福岡県は史跡も多く、文化的財産も多様。各時代の歴史学習ができる。
「小倉城」(福岡県北九州市)は1602年に藩主細川忠興が築城。その後は小笠原氏の居城となった。城内には数多くの門跡や切り石を使わず自然の石を積み上げる「野面積み」の石垣がある。ガイド同行の見学も可能だ。1959年に再建された天守閣は、5階が4階より膨らむ「唐造り」様式。入口の続き櫓(やぐら)の階段を上るとエレベーターがあり、一部バリアフリーにも対応している。
1階の大シアターでは、小倉城の約400年の歴史を約10分に凝縮し上映。城下町として栄えた細川藩・小笠原藩の歴史を2階で解説し、創建当時の天守閣を再現した模型も展示している。5階の展望スペースでは小倉の街並みを見渡せる。
HP=https://www.kokura-castle.jp/
戦前、西日本最大の陸軍航空基地があった場所に建設された「筑前町立大刀洗平和記念館」(福岡県朝倉郡)は、今年度で開館10周年。館内見学では、スタッフによる解説(10分)、映画の上映(16分)、平和の朗読(14分)、見学(30分)による合計70分間の学習プログラムが基本だが、滞在時間に合わせた構成も可能。このほか、憲兵隊舎跡や頓田の森などを歩く戦跡フィールドワーク(80分)もある。館内を効率よく巡れる館内ガイドも用意。館内の解説は無料だ。
戦後に海外で発見された「零式艦上戦闘機三二型」や、1945年4月に特攻出撃命令を受け鹿児島県知覧へ向かう途中で博多湾に不時着し、51年間海に沈んでいた「九七式戦闘機」を展示。それぞれ、世界で唯一現存する機体だ。新館では「特攻」をテーマに、陸軍特攻隊員の遺品や約4000人の特攻隊員の名簿を公開。1992年に鹿児島県の錦江湾などで引き揚げられた零式艦上戦闘機二一型と五二型の残骸なども展示中だ。
大規模校にも対応可能で、200人収容のセミナールームもある。無料駐車場は大型バス8台と乗用車80台を収容。
HP=tachiarai-heiwa.jp/group/
大分県は、他県より早く農泊の地として民泊制度を整えたことで有名だ。2日目の行程は、(株)LbE Japanが主催する「グローバル人材育成プログラム(グローバル学習)」の体験から始まった。
「グローバル人材育成プログラム(グローバル学習)」の1つである「Global Exploration Program in Beppu(別府GEPプログラム)」(大分県別府市)は、主体的・対話的にICTを使って深い学びを実現する探究型プログラム。留学生と参加者はチームで、スマホアプリによる手がかりをもとに協働して別府鉄輪を巡り、ミッションを遂行。英語でコミュニケーションしながら、地域素材から広い教科領域の知識を獲得し、ミッションをクリアしていく。また、チーム内のみならず、地域の人との対話を通じて知識や情報を探究しながら、「エコな生活を送るために必要な知恵とはなにか?」などの課題について自分たちなりに答えを導き出す。
留学生のスマホアプリ上の地図を頼りに指定された場所を見つけ、「温泉の隣に病院がある理由は何か」、「この温泉の効能をジェスチャーで表現し、ビデオ撮影せよ」など、スマホアプリに表示されたミッションにチームで取り組む。
すべての活動にポイントを付与。制限時間内により多くのポイントを獲得したチームの勝ちとなる。ゲームの手法にすることで意欲を高め、積極的な参加を促す。
所要時間は事前説明・プログラム・振り返りを含めて3時間程度。生徒4~8人に対し、留学生1人が対応する。
過去に参加した生徒からは「昔の人々の温泉との関わり方を学んだ」「英語に対する抵抗感がなくなった」などの感想を、教員からは「留学生のレベルが高い」と評価を得ている。
問合せ=www.lbejapan.co.jp/
移動に便利なのが「新鳥栖駅」(佐賀県鳥栖市)だ。博多駅はビジネスや観光の利用者も多く、周辺の道路や観光バスプールも混雑するため、バスから新幹線への乗り換えにあたって十分な時間の確保が必要だ。
一方、新鳥栖駅は周辺の混雑もほぼないことから、行程管理も容易だ。同駅には特急を含めた在来線の全列車が停車し、長崎・佐世保方面への乗り換えにも便利だ。鳥栖JCTまで車で10分の位置にあるため、九州内各地への移動がスムーズなことも魅力だ。
また、同駅の西口には、新幹線の駅前として北部九州最大規模となる観光バスプール(20台分)もあり、教育旅行団体の観光バスを停車させる余裕も十分にある。隣接する歩道はバスを横付けすることもできるため、バスとの移動も可能だ。雨よけのシェルターも設置されているため、雨に濡れずにバスから駅まで移動できる。
駅構内にある団体客対応の公衆トイレは男女あわせて23器で、ユニバーサルデザイン対応。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2020年2月17日号掲載