(一社)東北観光推進機構は2019年度「東北教育旅行セミナー」を7月25日に都内で開催。千葉黎明高等学校の事例発表や東北各県の最新情報プレゼンテーション、相談会を実施した。同地ならではの災害や環境を学習素材としたプログラムを提案した。
青森県では「課題設定能力」と「合意形成能力」を身につける『「深」探求ツアープログラム』を9つ用意。そのうちの1つ「りんご産業全体の可能性や未来を考えるツアー」では、作業体験や加工所の見学などのスタディツアー、ワークショップ、発表までを行う。
岩手県は三陸鉄道の一部区間で列車に乗りながら震災について学ぶ「震災学習列車」を運行。三陸鉄道社員がガイドを務め、被災状況が分かる場所では停車・徐行運転をしながら案内する。また4つの震災遺構を保存する陸前高田市では「旧気仙中学校」等の施設内部を2021年度から公開予定。今年9月には東日本大震災津波伝承館「いわてTSUNAMIメモリアル」も開館予定だ。
同県は復興道路と復興支援道路の整備が進行中で、20年度までにほとんどの区間で開通予定。釜石自動車道は今年3月に全線開通した。
宮城県は三陸沿岸のカキやホタテ・ホヤなどの養殖業体験や、鳴子・蔵王などでのこけしの絵付け体験など多様な体験プログラムがある。同県ならではの教材として、「旧仙台市立荒浜小学校」、気仙沼向洋高等学校旧校舎「伝承館」を紹介。大学と連携した学習プログラム、津波被災沿岸部での語り部ガイドもある。
秋田県では史跡・尾去沢鉱山などでの坑道見学を通じて鉱山歴史体験ができるほか、本場・大館市のきりたんぽ手作り体験や農家民泊、仙北市「クニマス(国鱒)から学ぶ環境学習体験」、国際教養大学で留学生と交流する英語体験合宿もある。
山形県では、農家民宿・民泊体験で農山村の暮らしを学んだり、スキー学習と併せて樹氷ができるメカニズムと環境問題を学ぶ「探究型学習」が特にお勧め。さらに最上川舟下りや紅花染めなど多様な体験が可能だ。
福島県は新たな教育プログラム「ホープツーリズム」を推進する。震災と原発事故を経験した福島県独自のもので、被災地などを「見る」、復興に関わる人々との対話を通して福島の想いを「聞く」、自分ごととして「考える」をポイントに生徒の成長を促す。
他にも「福島県環境創造センター(コミュタン福島)」は放射線の基礎が学習できる体験型の展示など教員にも高評価だ。
新潟県にはエリアごとに鮭・島・雪国といった文化があり、鮭の博物館「イヨボヤ会館」、鬼太鼓の体験、天然の冷蔵庫「雪室」を使った低温貯蔵等の学習素材がある。
(学)千葉黎明学園千葉黎明高等学校(廣瀬正臣校長)が、教育旅行の訪問先を東北地方とした決め手は3つあった。1つ目は2011年夏、同校が北東北インターハイに出場した際、西村清理事長が震災後の東北地方を訪問し惨状を目にしたこと。2つ目は「塩釜市民ボランティア希望」代表・會澤純一郎氏と出会ったこと。3つ目は同年秋に西村理事長が仙台・石巻・松島を視察したことだ。
同校は震災の翌年となる12年9月から、東北地方への教育旅行を実施。14年までは被災地訪問と、會澤代表の協力で仮設住宅を訪ねる「傾聴ボランティア」を行った。
15年は気仙沼市内の語り部の人々と共に被災地を訪問。16年以降は、(学)東陵学園東陵高等学校(宮城県)との同世代交流を実施し、震災体験談や生徒同士のエール交換などを通じて、ESD(持続発展教育)を実践している。
震災から8年が経ち、復興工事が進み同年代が震災体験を語ることが難しくなってきた一方、震災学習列車など多様な学習が可能となっている。
教育旅行の中で、生徒たちは「魂が揺さぶられた」表情を見せるという。誰かに伝えたい、一歩行動を起こそう、という気持ちにつながり、自助・共助への意識や、復旧・復興の現状を知ったことで日本復興の主役としての自覚が育つ、といった成果が見られているという。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2019年8月19日号掲載